17 もっとヤダ!
奥歯が欠けるほどかみ締めたのはこれがはじめての経験…
口の中に鉄の味…ぺっと血の塊と歯の破片を吐き出した。
セイメイ…そこまでして、なにがしたい?
本当の目的ってなんだ?
魔王ドーマを操って
俺をこの世界に呼び込んで
みんなを集めて
ドーマを倒させて
美玖まで巻き込んで
本当に世界征服がお望みなのか?
軟体の触手が伸びて俺たちを殴り倒し、弾き飛ばす!
「こんの野郎…」
「タク、瀧夜叉、わしを殺すか?殺せるのに殺せぬのは、悔しかろうなぁ」
ぱっくりと耳まで裂けた獣の顎。ぺろりと舌なめずりをすると、額のじじぃが目を細めてわらってやがる。
「さぁ、またおぬしらの欲望を呼び覚ましてくれようかのぉ…」
「!」
触手が俺たちに巻きつく……ちっ…薄桃色の甘いもやが視界に広がってきやがる…
ここ…うち、どこにいるん?
身体がふわふわ浮いてる?
太鼓…が浮いてる?
身体の位置をずらしてみたら、水槽の向こうに卓達がいる?
「え?…ゴボォ」
口を開けたとたん液体が!
くぐもった声…セイメイの声?
見上げると…な、なに?これぇ~!内臓だし!
って、うち飲み込まれてる?
太鼓ごと?
うちと太鼓は奴の胃袋の中にいるわけ?
しかも露出してるん?
……だよね…だって、外の卓達が見えるもん…てか、触手みたいのにぐるぐる巻きにされて…
あああっ、またエッチな幻術かけられてるっぽいしぃ……
んんんん…なんとかなんないかなぁ……バチ、どこいったんだろ?
てか、こんな水中みたいなところで叩けんのかなぁ?
まよったり、躊躇してる暇ないし…
って、呼ばれた?
「ミク」
セイメイね…
「くくく…気づいたようだが、そこでは万感の太鼓といえども音は出せぬ」
そうかもしれない……
「わしを殺せばその瞬間に体液は猛毒となり、ぬしは死ぬ」
やだ!
「更に…あと8分ほどでぬしは死を迎え、わしに吸収されるのじゃ…わしの一部になるのじゃ」
もっとやだ!
!
触手はみんなの服を溶かして…みんな裸ぁ!
「さぁ、見ものじゃ」
なにする気?
って、触手がみんなを解放したのはいいけど……みんな、卓に寄り添ってくよぉ!
だめぇ!
あ、卓、ちょっ、彩姫とキスしちゃやだぁ!
ユミン、ちょっと!
「くっくっく…どうじゃ?人間なんぞ性の快楽の前では本能だけじゃろ?愛だの恋だの思いやりだの…口先だけのことじゃ」
セイメイの言葉が頭の中にジンジンしみてくる…
「オスがメスを犯し、欲望のままに精を放つ……単純なもんじゃよ」
そんなんじゃない!
うちの心の叫びをセイメイはあざ笑う。
「よ~っく見てみるがいい…タクは、今、ほれ、ユミンを犯すぞ…」
だめっ
「む」
セイメイの変なリアクション…見てみると、ユミンと桜太夫がもめてる?
「ちっ…まぁいい、これも余興じゃな…」
あれ?
視界の隅でなんか違和感…瀧夜叉と彩姫もアーネとつかみ合ってる感じなんだけど…彩姫の唇がなんかつぶやいてる?
桜太夫が卓をセイメイに投げ飛ばした?
「なんじゃ?」
瀧夜叉もアーネに蹴られた感じで、こっちへ向かって転がってきた?
よし、いまだ!
俺の目配せで桜太夫が動き、アーネが瀧夜叉を蹴飛ばした。
太夫がフルパワーで俺をセイメイめがけて投げ飛ばし、じじぃの注意がそれた瞬間を逃さず呪文を唱えきった!
ガァッ!
呪文で強制的に巨大なセイメイの獣の顎を押し開き、
「覇王の長剣!」
その口の中へ俺は飛び込んだ!
それほど長くない食道を通って、俺は美玖のいるところへドボっと入った!
と、目の前に彼女がいて、俺は引き寄せて力いっぱい抱きしめた。
…長剣、頼むぜ!
俺は美玖を左手に抱いて、右手一本で長剣を突き出した!
鈍い弾力にはじかれたけど、外から瀧夜叉が破邪の薙刀を同じところへ突き刺した
ブシュ
粘膜状のセイメイの腹が破れた
「ぐぉ!わしを殺せば…」
へん、すぐに殺したりはしないさ
小さな亀裂にユミンの短剣が差し込まれて、じじぃの体液と胃液が外へ漏れ出した!
太夫の爪がえぐるようにつっこまれ、一気に引き裂いた!
俺と美玖は抱き合ったまま、セイメイの体外へ飛び出した。
「ミク、ごめん」
太夫が駆け寄り彼女の鳩尾へ拳を叩き込む
「げふっ」
美玖の口からセイメイの胃液が逆流して吐き出された。
ユミンから手渡されていた毒消しを俺は口移しにし、彩姫の回復魔法がすかさず彼女を包み癒した。
その間もアーネは襲い掛かってくるセイメイ本体を銃撃で足止めし、瀧夜叉は触手をなぎ払った。
「もう大丈夫」
美玖の力強い声が俺の耳元でした。
「おう」
彼女が頭上へ手を上げるとバチが現れ、セイメイの体内から胃液とともに流れ出た万感の太鼓が、光を放って美玖の前に飛んできた。
ずっどぉおおおおおん
ずっどんどんどん
美玖が打面へバチを当てると、太鼓は歓喜の波動を響かせる。
ど、どぉおおおおん
渾身の一打が鳴り響き、セイメイの結界である異空間が粉々に砕かれた。
裸の俺たちはいつの間にか再び鎧に身をかため、美玖は真紅の袴と純白の巫女衣装姿…髪を素早くかきあげてひっつめて、てっぺんでひとつにまとめた。
腹を割られ触手を失ったセイメイ。
それでもしぶとく、のたうちまわりながら…俺たちに迫ってきた。
太鼓を扇の要にして右手にアーネ、桜太夫。
左手に彩姫、ユミンが立ち、桜太夫とユミンとの間に瀧夜叉が、そしてその前に…最前列に俺がいる。
長剣を上段に構え気を溜めると炎の霊気が刃となった。
「せいっ!」
っという俺の気合と、美玖の叩き出した太鼓の波動が共鳴する!
瀧夜叉が駆け出して下段から刃をすりあげ、俺が長剣を一気に振り下ろした!
ふた筋の霊気の刃を美玖の放った響刃がひと筋の巨大な刃に変化させ………
グアアアアアアアアアアアアッ
セイメイは文字通り真っ二つになって果てた。
どんどんどんつく、どんつく、どんどんどん…
美玖の叩く音がセイメイの曲がった意思を浄化して行くようだな…
どどどどどん、どん、どん、だだだだだだだだだだだだぁああああん!
葬送のリズムはやがて俺たちの勝利を祝うように躍動感のあるものへ変わってきた。
「美玖」
彼女を見ると、彼女は口元に微笑を柔らかくにじませながら……本当に楽しそうに太鼓をいつまでも叩いていた。
【続】




