14 卓と美玖
本当のシャクヤク夫人は黒翼山脈奥の院の本殿で見つけた。
全裸の夫人には大小無数の虫が群がっていた。
だけど…なにが無残といって……
見つけてとりあえず表面の虫が俺たちを感じて逃げ去ったとき、その身体には傷ひとつなくて……
なんつっても表情が……苦しさはまったく見えず…ただ、慈母のように微笑んで……
俺の指先がかすかに触れたとき、体内から…
すべての穴から虫どもがあふれ出て……
皮だけになってしぼんでしまって…眼球がどろりと落ちて……
美玖はもちろん、桜太夫でさえ目をそむけたり、彩姫もアーネもユミンも真っ青になってその場で吐いたり……
俺だって目の前が歪んだし、しばらく直視できんかった…
でも瀧夜叉はそんな気振りをひとつも見せないで、淡々と継母の亡骸…抜け殻を素手で大切そうに扱って棺に納めて行く……
やりやがったなセイメイのじじぃ!
許さねぇ
こんな外道な呪術使って、生き人形作って……
こんなことまでして世界征服して、なんの意味があるってんだ!
怒りで固く握った拳から血がにじんだ……
サンピカールの街に戻った俺たち……長い山道を降りるとき、誰も口を開かなかった。
俺も…重苦しい雰囲気をなんとかしたかったけど、そこまで空気を読めないわけじゃないし…冗談も浮かばなかった。
途中、二ノ宮でシャクヤクの棺を火葬にして深く瞑目し墓地に埋葬した。
街に到着して軍装を脱いだとき…俺たちはともかく心身ともに疲れきって、ただその場に座り込んじまった。
「ともかく、ひと風呂浴びて疲れを取ろうや」
俺の提案に皆は黙ってうなずいて、それぞれの部屋へ立ち去っていった。
「卓?」
「ん?」
「美玖たちも部屋へ行かない?」
「そうだな」
ほこりと汗と、嫌な記憶を洗い流したい…そんな気持ちだ。
どちらからともなく手をつないで部屋に戻り、備え付けの露天風呂に身体を沈めたときの安堵感と開放感……
つないだ手はずっとそのままで、俺たちは湯船で肩を寄せ合ってた。
少しぬるめのお湯と夕暮れのひんやりとした風が、俺たちのいろいろなものを溶かし、癒してくれた。
美玖は俺の肩に寄りかかったまま寝息を立ててる。
…彼女の髪の香りは俺の固まった神経をほぐして…極度の疲労で重くなっていた身体に心地よく血が通いだした。
ちょっとだけ眠るか……
つないでいた手を離し、美玖の肩に腕を回して俺も沈むように睡魔に身をゆだねた……
「卓…そろそろ出ないと…」
「ん?ああ、そうだね…入りすぎはかえって身体に悪い、か」
「うん」
チュっと軽くキスをして、俺たちは湯船から立ち上がった。
「…あ」
「んもうっ…」
「ごめん」
「なんだかなぁ…」
俺のが…まぁ、生理現象とでもいうか……
「本当の美玖だから…な」
「え?」
「幻術で散々もてあそばれたけど…」
幻の瀧夜叉やシャクヤク、ユミンやアーネと…あんなことやこんなことをしたときの感覚を妙に鮮明に覚えてる。
「うん」
思わず目を伏せた美玖…自分のあのときのことを覚えているみたいだ。
指がからんで、瞳をみつめあう…
立ったまま美玖を引き寄せて、湯を弾く白い張りのある肌を軽く抱いた。
見つめあう瞳…抱き合い、くっついている俺と美玖の胸、お腹…乱れた髪の毛一本一本の先までが…全部ひとつになった…
「しばらくこうしていよう」
「う、ん…それ、嬉しい」
露天のひんやりした空気と温泉の湯。
俺たちは湯船にじっとつかっていた。
俺は彼女の背中に覆いかぶさって、肩、首とキスした。
もう一度向き合って、ゆっくりとお互いを確かめ合うような長いくちづけ…
「愛してるよ、美玖」
「卓、ありがと」
「必ず守る。だから…」
「一緒に帰ろうね」
「うん」
涼やかな風が俺たちの頬を撫でてゆく。
こうしてのんびりするのも今夜だけだろうなぁ…
俺たちはこの後もベッドで愛し合った。
ゆっくりとお互いを確かめながら…求め合った。
これから直面する命のやり取り。
魔に魂を売った強敵セイメイのじじぃとの決着。
みんなを…みんなと…必ず勝利を祝うさ…
そして美玖と…俺たちのいるべき場所に必ず一緒に戻るさ。
【続】
R15ギリギリ




