第13話 幼馴染と俺はゲームセンターで遊ぶ
昼休みの教室。玲奈が俺の机にやってきて、いつものようにニヤリと微笑んだ。
その顔を見た瞬間、嫌な予感がした。最近の玲奈は、俺が逆らえない「弱み」を巧みに利用してくる。
今度は何を仕掛けてくるのか……そう思っていた矢先、彼女が口を開いた。
「──『この世界は、俺の意志一つで形を変えることができる』」
「……え?」
思わず目を見開いた。玲奈が言ったのは、俺が中学時代、誰にも見せることなくこっそり書いていた、厨二病全開の小説のセリフだった。
しかも、かなり恥ずかしいシーンのものを、まるで何事もなかったかのように口にした。
「ま、待て!なんでそれを知ってるんだよ!?」
「ふふ、私、知ってるんだよね。中学時代、拓が書いてたあの恥ずかしい小説。『夜の帝王』だっけ?その内容も全部、ばっちり覚えてるから」
玲奈が「夜の帝王」とか言い出すもんだから、俺の顔は一気に熱くなった。
そうだ、俺は中学時代、隠れてこっそりと中二病全開の小説を書いていた。それを、玲奈が知っているなんて思いもよらなかった。
「ど、どうしてお前がそれを……!?」
「だって、私が一番仲良かったんだもん。拓がこっそりノートに書いてるの、偶然見ちゃったんだよね」
玲奈は微笑みながら、懐かしそうにその時のことを思い出しているようだった。
でも、俺にとっては恥ずかしい黒歴史以外の何物でもない。
「……それは、忘れてくれ!」
「忘れられるわけないじゃん。こんな面白いネタ、簡単に忘れられないよ。しかも、今度はこのセリフ、クラスのみんなに言っちゃおうかな~」
「ちょ、待て待て!それは本当にダメだ!」
俺は必死に止めようとした。
だって、あのセリフをみんなの前で言われたら、俺は一生学校に顔を出せなくなる。
玲奈はそんな俺の必死な姿を楽しむかのように、にっこり笑っている。
「じゃあ、今日の放課後、また私に付き合ってよ。そうしたら、このセリフも言わないし、もう少し黒歴史を封印しておいてあげる」
「……仕方ないな。どこに行くんだよ?」
ため息をつきながらも、結局俺は玲奈に屈してしまう。だって、逆らえるわけがない。
玲奈は俺が絶対に逃げられない弱みを握っているんだから。しかも、それをいつでも使えるように持ち歩いているという徹底ぶりだ。
「今日はね、ゲームセンターに行こうよ!」
玲奈はそう言って、楽しそうに微笑んだ。俺が好きなものを見抜いて、的確に「お願い」をしてくるのが彼女の上手さだ。
俺が断れないとわかっていて、絶妙なタイミングで好きなことを提案してくる。玲奈は、俺の弱みを使いながら、俺をうまく自分のペースに乗せるのが本当に得意だ。
******
放課後、玲奈に連れられてゲームセンターへ向かった。玲奈は楽しそうに歩いていて、俺を振り回す気満々だ。
ゲームセンターは俺も好きな場所だから、まあいいかと思っていたが、玲奈がどんな「お願い」をしてくるのか、少しだけ不安だった。
「ここ、久しぶりに来たね!」
ゲームセンターに着くと、玲奈は目を輝かせながら中に入っていった。俺もついて行き、二人で色々なゲーム機が並ぶ広いスペースを歩きながら、どのゲームをするか迷っていた。
「ねぇ、拓。これやってみたい!」
玲奈が指さしたのは、二人で協力して戦うタイプのガンシューティングゲームだった。
大きなスクリーンに、敵が次々と現れるアクション満載のゲーム。俺も以前やったことがあったし、こういうゲームは得意だった。
「よし、じゃあやってみようか」
俺たちはゲームにコインを投入し、銃型のコントローラーを手に取った。玲奈は少し不安そうな顔をしていたが、俺はすぐにゲームの世界に入り込んだ。
敵が次々と出現し、俺は正確に照準を合わせて撃ち倒していく。
「拓、上手すぎ!これ本当に初めて?」
「いや、何回かやったことあるんだよ」
玲奈が驚いたように言う中、俺は集中して敵を撃ち続けた。ゲームが進むにつれて、画面はますます激しい戦いに突入し、二人で協力して進む楽しさが増していった。
玲奈も慣れてきたのか、次第に笑顔を浮かべながら撃つのが楽しそうだった。
ゲームのラストステージに差し掛かり、激しいボス戦が始まった。俺は集中して攻撃をかわしながら、玲奈と共にボスに挑んでいった。
「拓、すごい!あと少しだよ!」
玲奈の声に応えるように、俺はさらに集中力を高めて最後の一撃を決めた。ボスが倒れると、スクリーンには「MISSION COMPLETE」の文字が浮かび上がる。
「やったな!」
俺はガンを下ろし、玲奈の方を見た。玲奈も息を切らしながら、満足そうに笑っていた。
「拓、すっごい!ほんとに頼りになるね!」
玲奈はそう言って俺の腕を軽く叩いた。
その瞬間、俺の心の中で何かがふっと変わるのを感じた。
玲奈は、いつも俺を振り回してくるけれど、こうやって一緒に楽しむ時間も悪くない。
「たまには俺も役に立つだろ?」
俺が冗談めかして言うと、玲奈はクスクスと笑った。
「うん、ほんとにね。でも、やっぱり私が拓をリードする方が面白いかも」
「なんだよそれ」
そう言って、玲奈はまた俺を見つめる。その瞳には、いつもの自信と、俺を完全に掌握しているという安心感が滲んでいた。
帰り道、俺は玲奈と並んで歩きながら、改めて彼女との距離を感じていた。
玲奈はいつも俺の弱みを握り、タイミング良くそれを使ってくる。
でも、ただ振り回されているだけじゃなく、こうやって一緒に過ごす時間は意外と楽しいんだ、と改めて思った。
「ねぇ、拓」
ふいに玲奈が俺の方を見て、小さくつぶやいた。
「次はね……もっと大きなお願いするかも」
玲奈のその言葉に、俺は驚いた表情を浮かべた。これ以上の「お願い」って一体なんだ?
だけど、その不安と期待が入り混じった気持ちが、なぜか悪くないと思える自分がいた。
「お手柔らかに頼むよ……」
俺がそう言うと、玲奈は笑って
「わからないよ?」
と、返した。
その笑顔は、やはり俺の弱みを握っていることを示している。そして俺は、彼女に逆らうことなく、これからも彼女のペースに巻き込まれていくのだろう。
でも──それも悪くない。
そう思いながら、俺は玲奈と歩き続けた。




