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第11話 幼馴染と俺は服を選ぶ

 

「これからもよろしくね」という玲奈の言葉が、耳に残っていた。彼女は俺の弱みを完全に把握している。そして、その弱みを絶妙なタイミングで使いこなし、俺をコントロールしてくる。


 ──そして、今日もまた玲奈の「お願い」に巻き込まれることになる。


「拓、今日も付き合ってくれるよね?」


 学校の昼休み、玲奈がいつものようにニッコリと笑って近づいてきた。

俺が「またか……」という顔をすると、彼女はポケットからスマホを取り出し、俺に見せつけるように揺らす。


「またそれかよ……」


 玲奈がスマホに保存している俺の黒歴史写真──あの恥ずかしい中学時代の写真が、再び俺を攻撃してくる。玲奈がこのカードを持ち出してきたとき、俺には逆らう術がない。


「ほら、断るならこれ、みんなに送っちゃおっかな~?」


 玲奈は冗談めかして言うけれど、その目には本気の色が見える。

俺が嫌がっていることをちゃんとわかっているからこそ、彼女はこの武器を使ってくるんだ。


「……わかったよ。で、今日の『お願い』はなんだ?」


 ため息をつきながらも、俺は玲奈の提案を受け入れることにした。

どうせ逆らえないんだから、抵抗しても無駄だ。玲奈の目はキラキラ輝いていて、完全に勝利の笑みを浮かべている。


「今日はね、ショッピングに行こうよ!この前、雑貨屋行ったでしょ?あれが楽しかったから、今度はファッション系のお店に行きたいの」


 玲奈の誘いはいつも突拍子もないけど、今回は少し緊張する。

俺にとって「ファッション系のお店」というのは、雑貨屋よりもさらに場違いな気がするからだ。


「ファッション?俺、服とか全然詳しくないし……」


「大丈夫、私が全部選んであげるから!」


 玲奈はそう言って、自信満々に胸を張った。

俺が着る服を玲奈が選ぶ──なんだか予想外の展開になりそうな気がする。俺はすでに、彼女のペースに完全に巻き込まれている。




******




 放課後、俺たちはショッピングモールへ向かった。玲奈は途中から先頭を歩き、まるでガイドでもしているかのように俺を案内する。


「ここがいいかな~。ほら、拓、こっち!」


 玲奈が俺を連れて行ったのは、若者向けのファッション店だった。

普段着ないようなオシャレな服がずらりと並んでいて、店内はファッションに敏感な客たちで賑わっている。

俺は一瞬、ここに足を踏み入れていいのかどうか戸惑ったが、玲奈はそんな俺を引っ張るようにして店に入った。


「うわ、これとかどう?拓に絶対似合うと思うんだけど」


 玲奈が取り出したのは、派手な色のシャツだった。俺が普段着るのは地味な服ばかりだから、こんな明るい色の服は自分では絶対に選ばない。

でも、玲奈は俺にそれを着せたがっているようだ。


「いや、これ派手すぎるだろ……」


「大丈夫だって!一度試してみなよ。拓は普段から地味すぎるんだから、少しは冒険しなきゃ」


 玲奈は俺の腕を引っ張り、更衣室へと押し込んだ。仕方なくシャツを受け取って試着してみる。

鏡の前に立ってみると、やっぱり俺には似合っていない気がする。けれど、玲奈はそんな俺を見て満足そうに笑った。


「ほら、やっぱり似合ってる!ほかの服も試してみようよ」


 ……わ、わからん。


しかし玲奈はどんどん服を選び、次々に俺に試させる。


気づけば何着も着替えさせられていて、玲奈のペースに完全に乗せられてしまった。


「こんな派手なの、俺が着てたら目立ちすぎるだろ……」


「それがいいんだよ!普段の拓は地味すぎるんだから、こういうのもたまには必要なの!」


 玲奈は楽しそうに俺を見ている。その表情を見ていると、俺も何だか「こういうのも悪くないのかも」と思えてくる。

玲奈が選んでくれた服を着るのは恥ずかしいけど、彼女が楽しんでいるなら、それでいいのかもしれない。


 その後、玲奈はさらにカフェに誘ってきた。

俺たちはオシャレなファッション店での買い物を終え、少し落ち着くために近くのカフェに向かった。


玲奈は既に自分のペースで俺を引っ張り続けているけど、嫌な気はしなかった。


「今日も楽しかったね、拓」


 玲奈は満足そうにカフェラテを飲みながら、俺に微笑んだ。俺はため息をつきながらも、自然と笑みがこぼれてしまう。


「お前、ほんとに俺を振り回しすぎだろ……」


「いいじゃん、たまには私が主導権握っても。ていうか、これからもずっと握っていたいくらいだけど?」


 玲奈はニヤリと笑って、俺の方をじっと見つめる。その視線に、俺は少しだけドキッとしてしまった。玲奈は、本気で俺との関係を深めようとしている。それが日々の行動からも伝わってくる。


「でもさ、こうやって拓と一緒にいると、やっぱり楽しいんだよね」


 玲奈の言葉に、俺は少しだけ驚いた。彼女がこんな風に素直に自分の気持ちを言うのは珍しい。


「楽しいのはいいけど……俺が振り回されてるだけだろ?」


「ふふ、それでいいんだよ。だって、私に振り回される拓って可愛いんだもん」


 玲奈は冗談めかして言うけど、その目にはどこか本気の色が見える。俺が彼女に振り回されるのが、嫌じゃなくなってきているのは事実だ。


「でも、もう少し俺にも主導権くれよな」


 俺がそう言うと、玲奈は少し考えるような素振りを見せたが、すぐにまた微笑んだ。


「あ、そう思ってたの?じゃあ、今度は拓がリードしてくれるってことで。私、楽しみにしてるからね」


「あ、おう……」


 玲奈の言葉に、俺は少しだけ胸がざわついた。

玲奈が俺に期待しているのがわかる。そして、俺も彼女にもっと応えたいという気持ちが湧いてきていた。


 彼女が俺の弱みを握っているのは確かだ。でも、それはただの弱みじゃなく、俺たちの関係をさらに深めていくための「絆」になっている気がする。玲奈が俺に期待してくれているのなら、俺も彼女に少しずつ応えていきたい──そんな風に思い始めている自分に気づいた。


「……じゃあ、今度は俺がリードしてみるか」


 俺は小さくつぶやきながら、玲奈の笑顔を見つめた。

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