スマホ先生
「ふむふむ、男性の胸キュンは若い時は下半身で感じて年齢が上がるにつれて、心で感じて頭で考える様になるのね…。って事は孝明は27歳だから心で感じてるでOKよね」
「流石、スマホ先生」女はスマホを閉じると固形物の乗ったお皿を電子レンジに入れタイマーを1分30秒にセットするとスタートを押した。
そして、テーブルに乗った食べかけのオムライスをキッチンへ持って行くとゴム手袋をして食器ごと袋に入れ二重に袋を被せる。
「昔は私の作るオムライスが好きだってあんなにパクパク食べてたのに、半分しか食べてないし。今日は久々に会うから沢山隠し味入れて気合い入れたのに…ざんねーん。」
ふー。女はため息を吐きゴム手袋を丁寧に外し、赤く少し腫れた手を重曹で洗いその後石鹸と大量の水で再度洗った後、ベランダに移動し乾いた男性の半袖のワイシャツの襟元を確認する。
「1番酷かった襟のシミも綺麗に落ちたみたいね。でも歯ブラシで擦るの大変だし、ぬるま湯じゃ取れなかったから熱湯で洗ったんだから、もう大変。スマホ先生に書いてある事は時々外れるからそこは難点だよね。助けては頂いてるんだけどさ」
ワイシャツを取り込むとカーテンレールに掛かった男性用のスーツに目をやり「こんなネクタイ持ってたっけ」っとブルーに白のストライプのネクタイを外し記憶を辿る。考え込んだ後、そのネクタイをソファに投げワイシャツをハンガーに掛けスーツのジャケットをその上から掛けた。
キッチンに移動すると電子ケトルに水を入れお湯を沸かす。戸棚からコーヒーとスティックタイプの砂糖を出し、コーヒーカップに適量入れている時、電子レンジから完了を知らせる電子音が鳴った。
「はいはーい。ちょっとだけ待っててね。今日は孝明は仕事なのに私が構って欲しくてちょっと大袈裟に嘘ついたら、優しい孝明は来るって言うものだから、朝から散らかった部屋を片付けたり…頑張ったんだからね。ゴミ袋3袋分。それだけ隅々まで掃除したんだから少し休憩させて下さい」
コーヒーカップにお湯を注ぎテーブルへ運ぶと椅子に座りテーブルに顔を伏せた。
「孝明の顔も好きだけど、やっぱり中身が好きだな。…それにしても、あのネクタイは何?」
一時の静寂の後、女はすくっと立ち上がり玄関に向かう。綺麗に揃えられた男性用のビジネスシューズ手に取ると「消臭〜抗菌〜」っと口ずさみながらベランダへ行き、消臭抗菌作用のあるスプレーを靴中に吹きかけ、日が傾きかけてるにも関わらずベランダに綺麗に並べた。
「天日干しが良いってスマホ先生には書いていてあったけど、まっ干さないよりマシか。夜はまだまだ暑いし、明日のお昼過ぎまで干してれば御の字よねー」
その時少し悪臭がしたのか、女はクンクンっと2度鼻を鳴らすと悪臭が気のせいではない事に気づき悪臭の原因を探した。
ベランダには今朝掃除をしたゴミを含め6袋。鼻を摘むと近寄りその内の3袋が臭いの原因である事に気づく。
「二重に袋もしたし、防げたと思ったのにな…明後日が燃えるゴミの日だし…でも、これって燃えるゴミなのなか?スマホ先生で調べても書いてないし…どうしよう」
女はキッチンに向かうとありったけのゴミ袋を持ちベランダへ戻ると臭いの原因である3袋の内の1袋を持ち上げる。
「重っ。それに何か液体出てるじゃん。タユタユしてて重さ倍増。ゴミ捨て日持って行けるかな」
女は新しいゴミ袋を広げ何十も重ねた。内2つはクンクンっと臭いを嗅ぎ封じ込めた事を確認し、最後の1袋。女はハっと何かに気づき部屋に入ると、先程ソファに投げ捨てたブルーに白のストライプのネクタイを手に持ち戻って来ると、最後の1袋の封を開け「これも持ってけー」っとゴミ袋にネクタイを入れ封をし、他の2袋同様何十も新しいゴミ袋を重ね臭いを封じ込めた。
そして、息を切らせながら部屋に入り、崩れる様にソファに寝転がる。ふーふーっと息を整え、クンクンっと自分が着ているお気に入りのワンピースに悪臭の臭いがついていないかを確認すると、楽しみにしているかの様に電子レンジに近づく。
「あったまったかなー。あったまってるかなー。もう冷たくないかなー。冷めてないかなー」
女は椅子を電子レンジの前に置き座ると静かに電子レンジを開ける。お皿に乗った固形物を人差し指で触る。
ブニブニっと強く反発するそれを女は人差し指で何度も確認する。
「違う」
女は怒りを露わにするとその掌サイズのブニブニする固形物を手づかみで握り潰し、電子レンジを乱暴に閉めると1000w1時間と設定しスタートを押した。
「全然あったまってないじゃん。ドキドキもしてないし…見ててやるからやり直して来な」
女はそのまま椅子に座り時々電子レンジの中を回る固形物見ながらとスマートフォンの中の先生で何かを調べていた。
心 電子レンジ 温め方
おしまい。
tano