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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 南区茜

尊い百合ものが書きたかった。

アラームの機械的な電子音。その音が鳴ってすぐに私は起きる。   隣のあの子はまだ寝てる。布団を軽くたたんだ後、音をたてないように扉を開け外へ。  朝の、静粛でどこか厳かな雰囲気のある町に漂う、少し冷えた空気を胸いっぱいに吸い込む。 向こうの山から先ほど上ったらしい朝陽の橙が、私の上半身を温かく包む。 しばらく外でぼーっとした後、私は先ほどと同じように、音を立てないよう扉を閉めてから、あの子をまたいで窓越しへ。カーテンを少し開ける。日が昇っているのは逆向きだからさして明かりは入らないけど、ちょうどキッチンがぼんやりと見えるほどには明るくなる。以前はキッチンにある電灯をつけていたが、それだと彼女が苦しむみたいだったからやめた。別に細かい作業をするでもないから、明るさはこの程度で十分なのだ。実家にいるときはおばあちゃんが、目に悪いからやめなさいと言って暗所での作業を許してはくれなかったから、こんなことでも最初のころは何となくわくわくしたなぁと少し昔のことを思い出しつつ、私は朝食の準備にとりかかる。二人分のごはんを用意するのはもう大分慣れてきた。薄紅色のお茶碗二つに、昨日炊いたたけのこご飯を冷蔵庫から出し冷えたまま盛り付ける。キャベツをゆで、いい具合にしんなりしてきたところで鍋からあげ、冷水で冷やす。ベーコンとソーセージ、卵を同じフライパンで器用に焼き、卵だけは残してふたをし、他は先のキャベツと一緒にさらに盛り付ける。 ・・・あくびが聞こえた。あの子が起きたみたいだ。回すたびにおかしな音のなる蛇口をひねり、水を鍋に注いでもう一方のコンロで火にかけ、鰹節を加える。冷えたごはんの盛られた茶碗二つを電子レンジに入れ、お任せコースであたためボタンを押す。豆腐を冷蔵庫から取り出し、手のひらの上で切った後、鰹節の良い香りのする鍋にどぼどぼと落としていく。目玉焼きはもうできただろうか。様子を見て、よさそうだったので皿の上に盛り付けた。 ・・・そういえばあの子、まだ起きてこない。目は覚めてるでしょうに、もう。 「おはよー。顔でも洗ってきたら?起きてるんでしょう。」そう言うと、あくびがして以来微動だにしなかった布団が揺れ、へーい と気のない返事が返って来た。「もうできるから、机の上拭いといて。」 今度はうおぉ・・・という小さな叫び声をあげ、彼女が起き上がってきた。「おはよ いい匂いね」 「おはよう。 ええ、今朝は鰹節でだしをとってみたの。それとも何、あなたベーコンのことを言ってるの。」 彼女はにへらっと笑い、洗面所へ歩いて行った。 もう。 私は少し笑いながら、できあがったお吸い物を器にそそいだ。 彼女が帰ってきて自分の布団をたたみ、そこに机を置いて台ふきで軽くふいた後、キッチンにある料理を運んで行った。私は半端に開いたカーテンを端までやって、それからキッチンに戻り二人分の箸とかコップとかを運ぶ。 「ねぇ。」彼女が、突然ふと思いついたように言った。 「何?」なんだろう。 「あのね、・・いや、やっぱ何でもない」 「何よ。」 「なんでもない!それよりさ、今日はどこ行こっか!ね!」 何を言おうとしたか気になり、さらに問い詰めようとしたが、彼女の頬が少し赤いのを見てやめた。 ・・・つもりだったが悪戯心が勝ってしまった。「ちゃんと言ってほしいなー。朝から自分のために働いてくれた人に対して何も言わないっていうのは、ねぇ?」こらえきれず笑いながらそう言うと、彼女は頬を少し赤く染めたまま、ちらっとこっちを見て ありがと・・・と言った。 私の頬がさらに緩む。「はい、どうも。今日はどこに行こっかね。さ、ごはん冷めないうちに食べちゃお。」 何か言いたげな目を向けながら彼女は私を見下ろしていたが、ほどなくしてあきらめたように机の対極にへたりこむようにして着座した。 「じゃ、食べよっか。」「・・・うん。」「いただきます。」「ん、いただきます。」 



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― 新着の感想 ―
[一言] 穏やかな朝の風景、全編を流れるあたたかい雰囲気が好きです。主人公が彼女に向ける無償の愛が伝わってくるような作品ですね。少しとぼけてはいるけれど決して憎めない彼女の仕種も絶妙だと思いました。 …
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