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第七話

 次に起きたとき、覚醒しきる前に感じたのは刺すような痛みだった。

 思わず(うめ)いて体を丸めようとすると、自分に何かがかぶせてあるのが分かった。

 生理的な涙を浮かべ、じくじくと痛む目に手をやりながら確認すると、自分にかぶせられているのはどうやらレジャーシートのようだった。

 顔に当てた手が柔らかいものに触れ、左目が何かに覆われているのも分かった。おそらくハンカチを長い布状のもので結ぶように固定されているらしい。

 布の上からでもわかる傷口の熱と体中の痛みに自然と荒くなる呼吸をなんとか落ち着け、自分の今の状況を思い出そうとする。

「あ、いく」

 呼ばれた声の方向を見ると、少女がスコップを片手に近寄ってくるところだった。

 その奥にある土の山と、穴。脇に置かれた傘の下の、毛布にくるまれた黒い塊を見て、自分が何をしていたかを思い出し、バサッとレジャーシートを跳ね上げる。

「わ、まだ寝てていいよ」

 驚いた声でそう言った彼女は、どれだけの時間、土を掘り返していたのか、着ているカッパや手、靴まで、全身をどろどろにさせていた。

彼女は持っていたスコップを置き、自分を座らせるように袖を引く。

「ち…ひろ、さん。おれ、すみません。俺も、やります」

「え、だ、ダメだよ、手がいたそうだし…」

 確かに、自分の手はかなり傷ついて、目にも劣らず痛みを訴えていた。だが、少女に任せきりにもできない。

 「大丈夫、なんともないです」と返す言葉は完全に嘘だったが、少女は止められないことが分かってか、口を閉じる。

 しかし、立ち上がろうとする自分を「待って」と制して、ぱたぱたと立ち上がると、どこから持ってきたのか、リュックサックを手に戻ってきた。

 そのまま「うーん」と悩む声を上げながら漁り、中から何かを取り出す。

「はい、これ、くつした。手につけて」

 履き口を広げてこちらに見せる少女についていけず、眺めていると、何を心配したのか「あ、大丈夫、しんぴんだよ」と慌てて少女は付け加えた。

 勢いに押されそろっと手を入れ、「ありがとうございます」と言うと、少女はどんどんと自分に物を持たせ始めた。

「それでね、これはスコップ」

「カッパは、わたしのあげるね、わたしはレジャーシートかぶる」

「それでえっと、お茶飲むよね。ふた開けてあげる、はい、どうぞ」

「これ、チョコ。チョコ食べれる?あめちゃんのほうがいいかな」

 はい、ありがとうございます、どっちでもいいです…と渡されるものを受け取っていき、持てなくなったころに、すみません、と声を上げると、「ごめんごめん、いっぱいだね」と少女は手を止めた。

 今更ながら喉が渇いていることに気付き、震える手で慎重にペットボトルを傾け、お茶を口に含む。

 激しかった動悸(どうき)がゆっくりと収まっていくのを感じた。

 お礼を言ってペットボトルを返すと、彼女は「ますじゃなくていいよ」と言った。

 言葉の意味が理解できずに首をかしげる。

「こそあど弁じゃなくて…しゅうそく語じゃなくて…えっと、ありがとうでいいし、ごめんでいいし、わたしのこともちひろでいいよ」

 どうやら丁寧語のことを言いたいらしい。

「わたし4年生だから、たぶん、いくは6年生だし、」

 どう見ても小学校2年生くらいの彼女が案外もう少し上の年齢だった驚きや、自分を小学生だと勘違いしている可笑(おか)しさを顔には出さず、とりあえず「そっか」とだけ答える。

 半分ほどに割ったチョコをかじりながら、傘のかけられた礼を見る。

 礼も知ったら驚くだろうな、と思った。

 「…頑張れそう?」とぼんやりとした自分の表情に心配したのか、ちひろが顔をのぞき込んでくる。

 少し強くまばたきをしてから「うん」と返し、半分だけ食べたチョコの残りを、礼の傍に置いた。

 


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