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第一話


 ちひろは不満だった。

 生がぜんぜん家に帰ってこないのだ。

 いや、帰ってくるには帰ってくるのだが、自分の知らない間に帰ってきて、知らない間に仕事に行くことが多い。

 彼の特殊な仕事の事情を思えば仕方のないことだとは思うけれど、ちょっと鈍感な自覚のあるちひろでも、どうやら生はまっすぐこの家に帰ってきているわけでは無いらしいことは、薄々感じ取っていた。

「生は忙しいし、いろいろあると思うの。でも、生からもらえた私のお仕事って、生がこの家でゆっくりするためにしてることでしょ?なのに、これだと私がいるせいで生がこの家に帰って来れてないみたい」

 ある日、ちひろは3日ぶりに家でゆっくりと過ごしている生に、自分の不満をぶつけてみることにした。

 生はぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。

「そんなことないよ」

 思っていた通りの答えに、ちひろは口をへの字に曲げた。

「いく、外でお風呂入ってきてるでしょ。この家でお風呂入るの、嫌?」

「仕事で汗かくからさ。考えすぎだよ、大丈夫」

「だいじょうぶじゃない」

「ちひろ、」

「生が私のこと大事にしようと思ってるの、分かってる。安心させようとしてくれてるの、知ってる」

「…なにか、不安にさせてる?」

 生の言葉も、まなざしも、優しかった。

 それでも、絶対に自分に踏み入らせようとしない一線があることを感じさせた。

 誰にだって秘密はあるし、ましてや居候の身で家主の生活にとやかく言うのは余計なお世話だろう。

 けれど、ちひろにだって思うところはある。

「私も、生のこと大事にしたいし、生が安心してここで過ごせるようにしたいの。でも、生のこと、何にも知らなくて、何にもできないの、つらい」

「充分だよ。俺は、ちひろがここで幸せに過ごしててくれるなら、それでいい」

「わたし、私は…生が、ここに毎日、まっすぐ帰ってきて、安心してくれるなら、それが幸せなの」

「…それは、難しいなぁ」

 生が眉を下げて笑う。

「ちゃんと、心配させてほしいの」

 ちひろは笑わなかった。

 じっと生の目を見て、それから、生の前に手を出して、小指を立てた。

「おねがい」

 差し出された小指を、生はぼんやりと眺める。

 生がこんな幼稚な約束に、どんな気持ちを抱くのかは分からない。

 断られたら、それまでだ。

 ちひろは生の反応を待つ。

 数秒後、生はゆっくりと自分の小指をちひろの小指にからませた。

 ちひろはそれに少し驚きながら、生の気が変わらないようにと小指に力をこめ、お決まりの歌を早口で歌う。

 ゆびきった、と最後のフレーズまでされるがままだった生は、満足そうなちひろにお伺いを立てるように言った。

「一日くらいは誤差ってことで許してくれたりする?」

「だめ」

「だめかぁ」





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