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短編とかその他

まだ見ぬ夢の島

作者: リィズ・ブランディシュカ



「俺、明日になったら○○島への航海にチャレンジするんだ」

「まじかよ。大馬鹿者がここにいたとはな。いけるわけねーだろ」


 港町の小さな店の中、航海に出る男達が話をしていた。


 店主は昔の事を思い出して、懐かしさに浸っていた。


 自分もそんな夢を見ていた事があった。


 この世界には、誰もたどりついた事がない島があるらしい。


 その島のまわりは、海流が複雑で、どんな船でも突破できないとか。


 だから、誰もたどり着けたことがないのだ。


 空を飛ぶのりものや、飛翔の魔法があればまた話が違ったんだろうけれど。


 生憎と、そういったものは何もないからな。


 その島には、一体何があるんだろう。


 行けないから、想像ばかりが膨らんでしまうよ。


 案外行ったら、大したものじゃなかったりしてな。


 一度も行った事がない場所へ行く時は、実際に行った時よりも、想像している時が一番、楽しいのかもしれない。

 

 店を出ていく者達を見送る。


 きっとその者達もたどりつけまい。


 みな、現実を知って帰ってくるのだ。






「この地図、どうなってるんですか」


 筆記魔法で地図を作っている男は首をかしげて質問してきた。


 新米だから、まだ分からないところがあるのだろう。


 俺は答える。


「ああ、この黒くぬりつぶされている場所は行った事がない場所だ」

「なるほど。でも行った事がないなら、行けないって事でしょ? なら別に地図に記す必要なんてないじゃないですか?」

「馬鹿言うな。それじゃ、正確な世界の広さが分からんだろうが。行った事がない場所のまわりは行けるんだからよ」

「たしかに」

「でもな、そうでなくても。ロマンがあるじゃねぇか。こうして眺めて、いつか行きたいって思いながらロマンを膨らませるのが楽しいんだよ」


 かつてとある店の店主だった男は、そう新米に言った。


 現実を知っても、ふとした瞬間、ロマンを、夢を忘れられなかった男は、こうして地図作りに携わっていた。


 ひょっとしたら、あと何十年か経ったら、まだ見たことのない架空の島の物語なんてものを買いているかもしれないな、とそう思いながら。







「お父さん、あの本買って!」

「ああ、○○先生の本だな。あれは面白い、よし買ってやろう」

「やったー!」


 今日は人が多いな。


 本屋にこんなにも人がやってくるのは珍しい。


 本を増やすのも一苦労かかるのに。


 少ない本をめぐって、人が行列を作っている。


 ぜったいこれは足りなくなるぞ。


 店主は冷や汗をかいた。


 夢を忘れられずに書いた一作目が、人々の胸を打った。


 そして、大きな噂になってしまったのだ。


 そしてニ作目を書くとなった時にこのありさまだ。


 この分だと、自分がこの本屋の店主をやっているなんて事、ばれてはいけないなと思った。







「おしいちゃん。おじいちゃん」


 孫や息子、熱烈な読者の数人が俺を見て泣いている。


 もうすぐあの世行きになる俺の事を、悲しんでくれているのだろう。


 足元がおぼつかなくなって、うっかり転んでそのまま体を悪くした。


 回復するやつもいるが、動けなくなったら、俺はそこでもうおしまいだった。


 状態が悪くなる一方だ。


「おじいちゃんが生きている間に、あの島に行った人が現れてくれればよかったのに。新しい魔法も開発されたって聞いてたから、きっとすぐあらわれるはずなのに」


 いいんだ。


 夢の島は夢だから美しいし、楽しい。


 俺は悲しみに沈む者達にほほえんで、そっと目を閉じた。


 わずかな胸の痛みは、無視して。


「あの本の作者はここか!? 朗報だ! 夢の島から帰って来た人間がいるぞ!」








 俺は気が付いたら、見知らぬ島に立っていた。


 そこには見たことのないほどの宝と、知らない生き物がいた。


 そして、触れたことのない文化も。


 ああ、想像の中が一番だと思っていたけど、想像を超える現実もあったんだな。








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