悪役令嬢は幸せな軟禁生活中
皆さんご機嫌いかがでしょうか?私、メルトリーナは今、軟禁生活中です。
カイルに想いを告げられたあの瞬間、私はメルトリーナでありながら、前世の性格が強く出ていた。
だからカイルの手を取れたんだと思う。でもいざ屋敷を出るとなったら、怖気づいてしまった。
私を慈しんでくれたお父様に何も告げず駆け落ちだなんて、とても不義理であることも。
お母様亡き後、この屋敷の女主人は私が行っていた。私が忽然と居なくなれば、ラランド家は危ないのではないか、そう気付いてしまった。
シルヴィも何か察したのか、今日寝付くまで私の手を握って、どこかに行ったりしないよね、そう言われて、何も返せず、私はシルの頭を撫でた。
カイルの事は大好き。出逢ってからずっと好き。これからだってきっと私はカイル以外に恋することはないと思う。
でも少し不安もある。カイルの職業だ。
私は元日本人で、わりと平和に生きて、よく覚えてないけれど、そんな酷い死に方もしなかったと思う。
だから、もし、カイルが私の目の前で人を殺めた時、どんな顔や、態度をとってしまうか分からない。
そんな私を、カイルはどう思うだろう。面倒だと思うかもしれない。もしかしたら、傷付けてしまうかもしれない。大事な人だからこそ、あんなに楽観的に受け入れてはいけない事だったと私は、メルトリーナは思ってしまった。
怖気づいた私に気付いたのだろう、カイルはほんの少しだけ、表情を曇らせた。
「メル、俺を、まだ………好き?」
「大好きよ」
「でも、家族よりは選べない、か」
「っ、どっちも大切なの、本当よ、カイルの事だって、本当に大好き。でも……」
泣いては駄目、泣くのは卑怯だわ。だって、カイルをこんなにも傷付けたのは私。
「俺は本当にメルを連れ去ろうと思った。俺だけのメルになれば良いと思ったし、他の男に嫁ぐのを見守る事なんて出来ないだろうしね」
こんなにも私を好きだと言ってくれて。
ゲームのカイルは執着とは無縁の性格だったのに、私のカイルは、こんなにも私を欲しがってくれる。
それなのに私はこの人だけを選べない。
なんて残酷な事をしたんだろう。
私は、最低だ。
「でも、メルが俺の手を取ってくれた時、凄く嬉しかったけどさ。同時にあれ?とも思ったよ。あのメルが?って。俺が愛した女は馬鹿みたいに責任感強くて、家族を、周りの人間を大事にするんだ」
「だから、そんな顔、するなよ。良い女が台無しだ」
カイルが私を抱きしめた。壊れ物に触れるくらい、とても優しく。もしかしたら、カイルは私を置いて何処かに行ってしまうの?
「待って、待ってカイル」
「うん?」
「呆れたのよね、優柔不断でごめんなさい。こんな事私が言っていいわけないと分かってはいるわ、それでも私…」
私はカイルの背中に手を回した。しがみつくように、必死だった。
「ずっと、ずっと一緒に居るならカイルが良い。カイル以外の殿方になんて触れられたくないの、だからお願い、待って」
カイルが深い溜め息を吐いた。私は怖くなって思わずカイルの背をぎゅうっと掴んだ。
「メルはさぁ、そういうとこだよね。ほんと可愛すぎて嫌になる」
「いやになる…」
「そこだけ拾わないで、可愛くてしんどいって事だよ。大体俺がメルを逃がす訳ない。別の方法を考えるだけだ」
「別の方法って…」
「今は確約出来ないから聞かないで。でも俺がメルを離す事だけは絶対に無いから」
翌朝私は、痣だらけのカイルと対面する事になる。
『旦那様強かったんだな、わりと痛い』
そう言って笑ったカイルの胸に飛び込んだ。
お父様の出した条件は
・この家を任せられるだけの能力をカイルが身につけること。
・婚姻が済むまでは契りを交わさない。
・しばらくメルトリーナは領地で反省する。
そして何より
・幸せになること。
だった。カイルは今まで私以外には幻影の魔法で姿を変えていたらしく、屋敷ではカイルは居なくなった事になっているらしい。
そんな話をウケるとか言いながらカイルは伝えに来てくれる。凄く忙しい筈なのに、三日に一度はお茶をしに来てくれる。
そうして楽しい時間の後、静かな寝室で私はふと思い出した。
(そういえば、ゲームのストーリーはどうなったのかしら)
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