家族団欒アフタートーク
「あの子はもう行った?」
振り返ると娘の背中は既に小さく見える。
寒空の下、厚着で歩いていく彼女は、記憶にある昔の姿と比べてとても大きくなったが、端々に見える癖は何も変わっていなくて、懐かしく思う。
僕は彼女の背を見送ると、妻の方へと向き直った。
「うん。にしても元気にやってるそうで良かったね」
「えぇ、本当に」
妻はとても穏やかな表情を浮かべている。
恐らくは僕も似たような顔をしているに違いない。
「何年振りだったっけ、来てくれたの」
「二年振りよ。あの子ももう大人なんだし、むしろ来てくれてる方だと思うけど?」
「そうなの?僕は毎年会いに行ってたけど」
「それは貴方がマザコン拗らせてただけでしょ?
お義母様は本当に幸せ者だったわ」
呆れたように苦笑する妻。
何も言い返せない。
そんな僕の内情を理解してか、妻は別の話題を広げる事にしたようだ。
「あの子今年25でしょ?そろそろ結婚相手の一人や二人連れてくると思うのよね」
「…一人はともかく二人はまずいんじゃないかぁ」
「あら、当人がいいんなら私は別にいいと思うけど。
それとも貴方は世間体を優先すべきとでも仰るの?」
邪悪な笑みを浮かべて妻は笑っている。
楽しそうに揚げ足を取る彼女は、僕の記憶にあるものと一切変わりなく、この顔の彼女に勝てた記憶はない。
「あーそうだね、確かにあの子が幸せなら何でもいいか。うん」
「あら、いやに素直じゃない。変なものでも食べたのかしら」
「いつも通りだと思うけどな。それに」
僕は手のひらを太陽に翳した。
「何年も何も食べてないじゃないか」
その手は半透明で、文字通り太陽が透けて見えた。
彼女もこの返しは分かり切っていたようで、僕達の墓石に腰を下ろして肩をすくめた。
「それもそうね。死んでから何年も経ってるもの。
……ふぁあ、二年ぶりに起きたらなんだか疲れたわ。
そろそろ寝ようかしら」
「次に起きるのはいつになるだろうね」
「いつになるかしらね。次はボーイフレンドを連れてきてくれるといいわね」
「「それじゃあ、おやすみ」」
◇
「パパとママ、相変わらず元気だったなぁ。
死んじゃった時は悲しかったけど、すぐ声かけてきたし、何なら幽霊になった後の方が元気だし。
ホント、変な家族」