2027 Velo Trophy 開幕戦・オーストラリアGP! 6
●「前回のあらすじ」
開幕戦・オーストラリアGP、決勝レーススタート。
チームに勢いをつけたいシャフイザは、積極策で先頭を取った。
しかし、レ・ジュールを駆る「二人の王者」はそう簡単に負かせる相手ではない。そのことを、シャフイザは理解していた。
ニスを刷いたように澄み渡る白銀のVelo Voitureが、車体を輝かせ、最終ターンを旋回し、ホームストレートへと向かっていく。
自動車メーカーの最先端技術の結晶――PU。
その魔法のシステムが生み出す、高低強弱さまざまな交響曲が、辺り一帯の空気を深く振動させ。
白銀のVelo Voitureは、秋風と共にファンの目の前を吹き抜けていった。
《2027 Velo Trophy World Championship 開幕戦・オーストラリア。10Lap目に入り、順位が落ち着き始めました。さあ、これから中盤戦に入っていきますが、解説の今村さんはこれからの展開、どう予想されますか?》
《そうですね。ここからは神経戦。タイヤの消耗、エネルギー・マネージメント、燃費、ピット戦略……。自分と周囲のライバルたちの戦闘力を比較衡量して、どう戦っていくか。各ポジションごとに、駆け引きのし合いでしょうね。今日のレースは、開幕戦とは思えないほどどの順位も距離が接近していますから。1回目のピットストップまでは、このまま静かな展開で進むと思いますよ》
レース展開が落ち着いたタイミングで向けられた実況者の問いに、解説者は今村節という独特の話し方でそう答えた。
その説明は正しく、レース展開は停滞し各ポジション共大きな動きなくLapは刻まれていった。
しかし。
上位3台。注目すべき現役トップ3――《三強》と呼ばれる男たちの戦いは、早くも決着の時を迎えようとしていた。
* * *
「Strutt 4ヲ使用シテイルニモカカワラズ、コチラノpaceニ余力ヲ持ッテ着イテ来テイル。想定シテイタ以上ノ差ダナ、コレハ」
「……ああ」
トップを行く、シェッフェル・エッフェル。
そのコックピット・キャノピーの内側に投影されているシェステナーゼが、やや気落ちしたようなトーンでそう言うと。
シャフイザはステアリングのブレーキ・バランスのダイヤルを調整しつつ、不機嫌そうに答えた。
「ストラット」とは、PUを構成する水素燃料エンジン、W.I.M.S、運動エネルギー回生システム、バッテリーなど、多くのパーツの数値をサーキット特性や状況に合わせ、あらかじめ設定・組み合わせた「プリセット」のことだ。
レース中、PUの全ての数値を常時自動調整することはレギュレーションで禁止されており、どのチーム、ドライバーもこの一括変更できるプリセット方式を採用している。
そのストラットの中で、現在シャフイザはレース中に使える2番目の高出力モード――「Strutt 4」を使用している。
Strutt 4は、Strutt 5よりも1Lap辺りコンマ2、3秒ほど速く巡行できるモードだが、当然燃費とエネルギー効率に厳しく、最後まで使い通せるものではない。
つまり、まだ序盤にもかかわらず、シャフイザは後先考えず全力全開で逃げ続けている状態なのだ。
だが、それにもかかわらず。
レ・ジュールの2台は等間隔をキープし、外から見ても余裕の動きで着いて来ている。
ストラット4でこれなのだから、その下のストラットに落とせば……おそらくレ・ジュール勢は、その瞬間に勝負を決めに来るだろう。
「シャフイザ。君ノ意気込ミハ買ウガ、meetingデ話シ合ッタトオリ、コノ開幕戦ト第2戦ハ〝|被害を最小限に抑えるレース《ダメージ リミテーション》〟ニ徹スルベキダ。第3戦ニナレバ、コノ『RS4/28』ノ完成型トイエルup dateガ入ル。ソレマデハ――」
「……わかってる」
シェステナーゼの言うとおり。シェッフェルは、第3戦イギリスGPでRS4/28を進化させる計画を持っている。
このアップデートは、決して甘い見通しを言わないTDの慈乃が珍しく、「シミュレーション上では、このアップデートでレ・ジュールと五分で戦えるようになるはずだ。アップデート・パーツを最初から機能させるのは難しいが、それでも同じステージで戦えるのは間違いない」と豪語した、デザインチームの自信作だ。
効果は期待していいだろう。
それを考えれば、シェステナーゼやチームの面々が考えているとおり。
このオーストラリアGPと次戦のブラジルGPは、無茶をして不必要なポイントロスを防ぐレースを選択するのが得策だろう。
……しかし。
(それはわかってる、わかっちゃいるけどよ……それだけじゃ勝てねぇんだよ……! 王者たちにはな!)
12Lap目。
オープニングラップから、こちらの戦闘力を見極めるようにピタリと後ろを追走していたウォルフが、とうとう動いてきた。
ホームストレートエンドでこちらのスリップストリームに着くと、ターン1で攻略戦を開始。
「チィッッ!!」
ターンのインサイドにマシンを振って、ブロックラインを敷く。
しかし、お構いなしにウォルフはアウト側から被せてくる。
堅実をモットーとするこの王者にしては大胆な動きだが、いけると踏んだのだろう。
実際そのとおり。このウォルフの初撃は、シャフイザがタイヤロック寸前までブレーキングを遅らせなければ抑えられないほど重いものだった。
だがしかし。
白銀を駆る傷顔に、諦めの色は微塵も無い。
「シェステ! moving surface control、4、5、8! 最終ターンの立ち上がりでは、ストラット3をくれ! ターン1が一番危険だ!」
「無茶ダ、シャフイザ。トテモ抑エラレナイ。後退スベキダ」
「まだやれる範囲だ!」
「シカシ……」
「頼む!」
「…………ワカッタ。ダガ、無茶ガ目立ツヨウデアレバsupportハ中断スル。ソレガ条件ダ」
「ああ!」
渋るシェステナーゼをなんとか説得し、徹底抗戦の指示を出したシャフイザは、手持ちのタイヤグリップ、回生エネルギー、燃料を全て使い、後先考えずにその戦力を、後ろから迫る五冠王者に叩きつけた。
ターン1、ターン13。
ブレーキングエリアでほぼ横に並ばれるが――コーナー出口での加速を早めるライン取りで、かろうじて抑えた。
ただ、マシンをマキシマム・モードに入れ続けられるのは6、7Lapが限度。
それ以上やれば、その時点でタイヤが終わる。エネルギーと燃料のやりくりも苦しくなり、極度のペースダウンは免れないだろう。
だからこそ、今。
競り合いを厳しくして、なんとかウォルフからレース展開を変えるような「ミス」を引き出したい。
万に一つ……いや、億に一つもそんなミスを犯すようなドライバーではないことはわかっているが、勝機はそこにしかない。
そう自分に言い聞かせ、気を入れ直してミラーで相手の姿を確認すると。
「……ん?」
14Lap目に入ったところで。突然、ウォルフは攻勢を中断。
再び距離をはかり、こちらの戦力を分析するように1Lap走ると。
「エッフェンミュラー、後退。キルヒネンガ2番手ニ上昇シタ」
「トラブル? ……じゃないな。〝また〟自主的に順位入れ替えをしたのか」
一見すると、自ら2位の順位を捨てにいく意味不明の行為だが。
過去、ウォルフはこの悪手としか思えない一手を指して、何度かレースに勝ってきた。
その勝因は何かと言えば。
それは。
「まぁ~~た、私とあのおバカをやり合わせて、漁夫の利決めちゃおうって腹ね……。相変わらずですこと」
レ・ジュールのもう一台。
「まあでも、このおバカとはどうせ絡むつもりだったし」
(《北欧最速神話》より、《北欧大馬鹿神話》って異名の方が絶対似合うあのクソバカタレが……)
「『2027年開幕戦、おめでとぉ~~!!』セールってことで、乗ってあげるよっ!」
(エッフェンミュラーの目論みどおりに、俺と戦っちまうからだっ!)
シャフイザの胸の内の叫びどおり。
レ・ジュールが誇るもう一人の二冠王者――ユイ・キルヒネンは、2番手に上がるとすぐに先頭のシャフイザとの距離を潰し、一気に背後へと迫ってきた。
ウォルフの戦略は百も承知。
しかし、敵の術中に落ちようと自分が行くと決めたのなら行く! そして、全てを粉砕し勝ち抜いてみせる!
そう言わんばかりの急接近に、シャフイザは顔をしかめた。
(いつもいつもいつも、こいつは舐めた考えでレースしやがってっ! だが……)
ユイの突破力には――
「さあ、去年とは違うってところ……見せてみなよ!」
そのバカ気た考えを実現するのに十二分な〝実力〟が備わっている。
「ウ゛ッッ!!」
高速S字区間のターン11、12を、シェッフェルがMoving surface controlを多用し、ワイドなラインで駆け抜けていく。
ローダウンフォース仕様のシェッフェルのマシンは空気抵抗が少なく、高速区間に強い。
ユイとの間に差ができた。ターン13はオーバーテイクが可能なポイントだが、この差ならアタックには来られない。
と、通常は考えるのだが……。
(……来る)
ユイは、レイトブレーキングの〝キング〟だ。
タイヤの最大グリップ力に対する読みと、それを引き出すペダルアクションのセンスは天性のものがあり。
他のドライバーでは決して狙って来られないような遠間からでも、躊躇なく狙ってくる。
これまでの対戦でそのことを十分に理解しているシャフイザは、瞬間、集中力を引き上げ、行く先に星景を展開させた。
星景を流星群のように流れる幾万の輝点から情報を抽出し、もっとも有効なディフェンスプランを判断すると。
その〝描いた事象〟のままに、ターン13のインサイドに防衛線を展開。
すると。
予想したとおり。自車に全身系を張り巡らせたユイが、脅威的なレイトブレーキングを敢行し前を行く白銀へと襲い掛かった。
獲物を狩りに行くような鋭い動きでアウト側の空間を制圧し、ターンの中間でシェッフェルと並走。
そのままシェッフェルが振り切られ、首位交代になるかに見えたが――。
「ふざけた距離から狙ってんじゃねぇぞっ!! この、似非人気者野郎がっ!!」
しかしここは、前年の「Velo公式ドライバー人気投票ランキング」で〝24人中9位〟だったシャフイザがやらせず。
「ちぇっ! カッコ良く決めようと思ったのにさぁ~~」
アタックに失敗したユイが、口を尖らせて悔しがる。
しかし、その表情にチャンスを逃した焦りのような色は微塵もなく。
逆に、防御に成功したシャフイザの表情には。
「クッソォォ……」
濃い焦燥の色が浮かんでいた。
射程外から予測していた一撃だったにもかかわらず吸収しきれず、順位を脅かされた。
自分とユイの間には、それだけの戦力差がある。
そして、奇跡的にこのユイの攻勢に耐え切れたとしても。次は、余力十分のウォルフが出てくる……。
そのことを考えると、否が応でもこれ以上の抵抗は無意味だと思わされてしまう。
(マシン性能差だけなら、なんとかできる……。だが、乗ってるのが〝あいつら二人〟じゃ、やっぱどうしようもなんねぇ……)
どんなに正確に予測しても、必ずその上を行く〝突破力〟を叩きつけてくる――《北欧最速神話》ユイ・キルヒネン。
常に長期戦を意識し、どんな状況にも対応できる高い〝思考力〟を有する――《狼皇帝》ウォルフガング・エッフェンミュラー。
この全くタイプの違う突出した才能――〝神からの贈り物〟を所有する複数冠王者二人を相手に、戦闘力の劣るマシンで対抗するのはやはり無理がある。
「クッ……」
再び星景の中に意識を飛ばし、頭の中で様々なシミュレーションを組み立てて打開策を図ってみるが……。
いくら思考を広げて先読みを入れてみても、やはりレ・ジュール勢を抑えきる未来図は一つも流れて来ない。
それでも投げずに丁寧にブロックラインを敷き、なんとかユイのプレッシャーに耐えて勝機を窺う。
……が、やはり勝利に繋がる事象を持つ輝点は見つけられず。
「シャフイザ、退キ際ダ。序盤戦ノ取リコボシガseason終盤ニドレダケ響クカ……王者争イヲ何度モ経験シテイル君ニハ、ワカッテイルハズダ」
追い詰められた自分を見かねたのか。
しばらくマシンに関する情報しか言っていなかったシェステナーゼが、はっきりと警告を飛ばしてきた。
「……ああ。わあってるよ」
モータースポーツは、ドライバーという選手の「技」よりも、マシンという「道具」の性能が勝負の大半を決めてしまうスポーツだ。
だからこそ、無駄なリスクは冒さず退くべき時は退く。獲得できるポイントを確実に稼いでいくことが肝要なのだ。
指摘されなくても、そんなことは骨身に沁みるほどわかってる。
「ナラバ、行動ニ移セ」
「……けどよ」
「ン?」
それと同じくらいわかってんだよ……。
「ポイント計算だけじゃ、こいつらには勝てねぇんだよ……!」
「ッ!? ナニ?」
シェステナーゼの警告をシャフイザが振り切ったと同時に。
後方のレ・ジュールが、再びピタリと後ろにつけてきた。
「モチベは高いみたいだけど、マシンが着いて来てない感じ……かな? ちょっと期待外れだけど、まあ、このおバカが去年とは違うってことはチェックできたし。そろそろ終わりにしちゃおうかな」
そう言って、目の前を行くシェッフェルの後部に伸ばしていた右手をぎゅっと握り締めると。
ユイは攻勢のギアを上げ、心の中で、この勝負のフィナーレとなる弾丸を薬室に込めた。
ウォルフとは違い、攻勢に入ると抜き去るまで攻め手を途切らせず。テンションを上げてガンガン突き崩しに来るのがユイのやり口だ。
それを考えると。
「シャフイザ。君ガtopヲ明ケ渡シタクナイ気持チハ理解シテイル。シカシ、コノママ戦エバrace戦略全体ニ影響ガ及ブ。確実ニ表彰台ヲkeepスルニハ、後退ガ必要ダ」
コミュニケーター画面を警告灯のようにイエローに光らせ、シェステナーゼが再び警告を発してくる。
しかし、シャフイザは防御姿勢を崩さない。
「シャフイザ」
「……おまえの言ってることは正しいよ。だが、予算、マシン、チーム規模、政治力、ドライバー二人の力……。様々な面でウチより上を行ってるレ・ジュールに勝つためには、ポイント計算だけじゃ勝てねぇんだ……! それだって、これまでの経験でわかってることだろう」
「ソレハ……」
「ポイント計算はやるさ。だが、〝当たり前のことだけをやってるだけじゃ奴らに勝てねぇ〟……『+α』が必要なんだ! それが何かは、言葉にできねぇ……だが、一つだけわかってんだ。それを手に入れるには……!」
かっと目を見開いたシャフイザが、左のミラーに目をやる。
ターン1。リヤをややスライドさせるほどマシンを荒ぶらせたユイの一撃をなんとか捌き、ターン4を抜けたところで、シャフイザが言葉を継ぐ。
「はあ、はあ……。ライバルや、スポンサー、メディア、ファン、Veloに関わる全ての人間たちに、そして……何よりチームのみんなに『今年こそ、俺は王者獲るんだ』っていう俺の意志を、覚悟を……、俺の走りで刻み込まなくちゃなんねぇんだっ! だから……!」
そこで気息を整えると。
「勝機がほぼなくなっちまっても、ここですんなり終わらせるわけにはいかねぇんだよ」
「……シャフイザ」
ターン9の入口でもユイに並びかけられたが、コース幅の狭さに助けられてなんとか凌ぐシャフイザ。
しかし、予想どおり。ユイの攻めはLap毎に激しさを増しており。
「アハっ! 粘るじゃない! 去年とは大違い! でも、このままやり合って後ろにいる誰かさんの思う壺、っていうのも癪だし……次で決めるよ!」
「――――ッ!? ユイッ!!」
高速区間のターン11、12。
本領を発揮したユイが、シェッフェル優位であるはずのエリアでシャフイザを捕捉した。
出口でのスロットル・コントロールも完璧。ユイは早いタイミングでマシンをシェッフェルのスリップに潜り込ませ、オーバーテイクするのに十分な最高速度を得ると、盤石の体勢で横に並んできた。
「グゥッ……!!」
そのままレ・ジュールは、キレイに調律されたエンジン音とモーター音を響かせながら伸びて行き。
車体の先端部を、シェッフェルの前に出し始めた。
(さすがに、ここまでか……)
万事休す。
さしものシャフイザも抗戦意欲を継続できず。
次のターン13で、ユイにトップを明け渡すことを決断した。
が、その時。
「シャフイザ、使エ」
「――ッ!?」
目の前のコミュニケーター画面と、ステアリングのダッシュボードが……白銀に輝き始めた。
何が起きたのか分からず、目をパチクリさせる。
しかし、シャフイザは一瞬で自失から立ち直ると。
「……ヘヘ、おっしぃっ! シェステ、コードF!」
「了解。P U、mode 11。moving surface control、release。code『f』 start」
シャフイザが嬉々とした声で指示を与えると、キャノピーの内側に投影されている画面に通常とは異なる数値が浮かび、シェッフェルのホイールカバーが可動。
後方への気流を積極的に制御し、シャシー全体も、薄っすらと赤みを帯び出した。
「プッ!! フェ、《フェノーメノ》ッ!?!?」
ブレーキングエリアに入る直前。
ミラーに映った敵機の異変に気づいたユイが、慌ててアウト側にラインを寄せ、《フェノーメノ》を展開できるエリアを潰しに行く。
しかし、それは遅きに逸していた。
「シィィ――――!!」
9、8、7、6と、シフトダウン。
こちらを仕留めに来たユイよりも更にブレーキングを遅らせ、オーバースピード気味にターン13に突っ込むと、出口に向けて強引にステアを切った。
白銀の車体が、オーバースピードの遠心力によってアウト側に流れ、タイヤが滑り始め――かけた、その寸前。
moving Scaleを全展開させたシェッフェル・エッフェル「RS4/28」が、後輪に小さなスリップアングルをかけ鋭角的に車体の向きを変え、急回頭。
そして、W.I.M.Sに蓄えた電気エネルギーによって、前輪軸を駆動させ、一時的四輪駆動車に変身し、その推力を活かし、通常ではあり得ないポイントから加速に入った。
〝シャフイザ・シェステナーゼ〟コンビの代名詞――――《フェノーメノ》
その一撃はユイの決め打ちのアタックを軽々と粉砕し、シャフイザはトップ・キープに成功。
そのまま残るコーナーをクリアし、ホーム・ストレートへと戻ってきた。
グランドスタンドの観客たちは、Veloの見どころの一つともいえる《フェノーメノ》が炸裂したことに歓喜し、白銀のラップリーダーに拍手を降らせる。
去年とは違い、今年の開幕戦は最後まで「シェッフェル・エッフェル VS レ・ジュール」の頂上対決が見られる。
観客たちは一様にそう感じ、この先のレース展開に期待を膨らませた。
しかし。
「さすが相棒、付き合いがいいぜ! その調子で最後まで頼むぜっ!」
「バカヲ言ウナ。《fenomeno》ヲ打ッタ以上、モウtireガ保タナイ。……今ノbattleヲ制シタコトデ、君ノ目論ミモ果タセタハズダ。正シイ選択ヲ行ウノダ、シャフイザ」
「……ふぅー、わあったよ」
シャフイザは、継戦を断念。
シェステナーゼの言うとおり、仕留めに来たユイに反撃できたことで、敵味方に「不振だった去年とは違う」とアピールするための〝見せ場〟は作れた。
だが。
「ただ、見せ場作ってすんなり抜かれるのも癪だから、もう1Lapだけ付き合ってくれ。そしたら、必ず降りるから」
「君トイウ男ハ……。ワカッタ、アト1Lapハsupportヲ継続スル。シカシ、ソレ以上battleヲ継続スルヨウナラ、即座ニteamヘ連絡シ、team orderデ君ノ動キヲ抑エルヨウ要請スル。ワカッタナ?」
「あいよ」
もはや、シャフイザの勝算は「0」に等しい。
このレースだけを考えれば、抵抗する意味はもうない。
だが、チームを鼓舞し、王者獲得の布石を作るために。シャフイザは気を入れ直し。
「んじゃ、もう一暴れといきますかいっ!」
KO寸前の状態にも関わらず、ファイティングポーズを取ってカカッと嗤い。
完全に火の入ったユイの、大攻勢に備えたのだった。




