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最速の世界 15

●「前回のあらすじ」

 34Lap目。久湊の罠にハマった夢兎は、スピンを喫しマシンにもダメージを負った。

 ほぼ逆転は絶望的となり諦めかける夢兎。しかし、シェステナーゼの叱咤激励により気合を入れ直す。

ユイの加勢も得た夢兎は、久湊を急追。奇跡の逆転3位――表情台を目指してひた走る。


 レース最終盤。

 夢兎の驚異的な粘りによって、日本人ドライバー同士による表彰台対決の行方は、どちらに転ぶか全く分からなくなった。

 地元スズカ・サーキットで起こったこのドラマに対して、詰めかけた観衆は大喜び。

 メインスタンドは、二人が目の前を通過する度に歓声とエアホーンの大合唱が乱れ飛び、お祭り騒ぎになっている。


 しかし、対照的に。

 メインスタンドの対面にあるシェッフェル・エッフェルのチームクルーたちは、観客たちとは全く違うレースを見ているかのような強い緊張の色を顔に浮かべていた。


「Come on! ユメ、あきらめるなっ!」

「もう少しだ! 頑張れっ!!」


 祈りを捧げるように組んだ手を額に当てある者もいれば、手を叩きながら強い口調で激を飛ばす者もいる。

 このレースで表彰台が獲れるかどうか。それがチームの運命を左右することを、皆知っているからだ。

 だからこそ、その声援は真に迫るものがある。 


 モータースポーツはチームスポーツだが、チームクルーたちはもうレースに介入することはできない。

 ここまで来たら、託すしかないのだ。


「奇跡は、若者の専売特許。信じましょう、私たちのスーパールーキーを」


 そのことを十分承知しているしおりは、そう言ってやきもきしているエンジニアたちを窘めると、コマンドポストにあるモニターをじっと見据え、そのままレースの行く末を見守った。


 ……そして、もう一人。

 シェッフェル・エッフェルの関係者でありながら、白熱するレースを冷静に見守っている男がいた。


「接触し、戦略ストラテジーが破綻してもなおここまで善戦するとはな……。だが、今日の久湊はれている。マシン・コンディションがベストでない状態で攻略するのは難しかろう」


 夢兎の父・英二は、VIPルームの前を通過していった夢兎のマシンに向かって、そう投げかけると。

 仮面兜の目の部分を光らせ、上から試すような口調で言葉を足した。


「この状況で何ができるというのか……見せてもらおうか。おまえの覚悟、大言の結末をな」




 様々な思いが交錯する中。

「2026 Velo Trophy World Championship Round12 Japan Grand Prix」は、いよいよグランドフィナーレの時を迎えようとしていた。


 * * *


《さあ、泣いても笑っても残り3Lapッ!! 2026 Velo Trophy World Championship シリーズ最終戦もいよいよ大詰め!

 トップ二台は、今シーズン何度も見たこの光景。《王者》レ・ジュール編隊による、盤石のワン・ツー体勢! 7位以下を全て周回遅れにし、あとはチェッカーを受けるのみ!

 しかし、3位表彰台争いは先の見えない大接戦!! しかも争うは、両名とも日本人ドライバー!! 

 苦節の果てに、才能を示す時は今! ロスメンズMGEの久湊新司が逃げ切るのかっ!?

 それとも、白銀の新星! スピード・シンデレラ! シェッフェル・エッフェルの壬吹・ハーグリーブス・夢兎が、30年ぶりのデビュー戦・表彰台獲得という偉業を逆転でやってみせるのかっ!?

 差は1秒……いや、1秒を切ったぁぁっっ!!!!」


「――――捕まえたっ!」


 ターン11・ヘアピン。

 追い求めてきたライバルの背中が、手に届くところまで来た瞬間。思わず声が漏れた。


 残りは3Lap。

 気が急くが、ここは慌てて仕掛ける場面じゃない。

 そう自分に言い聞かせて、一呼吸入れる。


「ハァ、ハァ、ハァ……」

「大丈夫カ、夢兎?」

「……大丈夫」


 ここまでの10Lap。追い上げるために、ずっとハードプッシュしてきた。

 その間、ホームストレート以外で満足に息を吸えなかったから、もう完全に息が上がっていて……。吸って吐いてがスムーズにできなくて、息苦しい。


 それだけじゃない。Velo Trophyの初レースで、想像以上に消耗してしまったのか。Veto(ベロー) Voiture(ヴォワチュール)が発するGフォースに、身体がついてこられなくなってきている。

 体力作りはしっかりやってきたのに……。

 もう、身体が痛くて、力が入らなくて……重い。


 正直言って、全然大丈夫じゃない。でも、もう少し。もう少しだから。

 最後の力を振り絞って声を上げた。


「一回仕掛けるわ。相手の反応が見たい」

「賛成ダ。ダガ、クレグレモ慎重ニ」

「うん」


 久湊の抵抗力がどれほど残っているのかを見るために、まずはくさびを打つことにした。


 メインスタンドに、メタリックイエローのマシンが疾風のように吹き抜けていく。

 その後ろに、一体化するかのように白銀のマシンがピタリと続く。


 二色のマシンは己が持つエネルギーを振り絞るかのようにホームストレートを駆け抜け――そして、ストレートエンドで白銀のマシンが、出足鋭く大外へ出た。


 本気の攻め込みではないが、こちらの方が1Lap・コンマ7秒近く速い。

 決め切らずとも、相手のバランスを崩すくらいはできるはずだと、そう思っていた。

 しかし。

 

「ここまで来て、負けられるものかっ!!」

「ぐっ! 強い……!」


 様子見の軽打けいだでは話にならない! と言わんばかりに、久湊はこちらの攻め手を難なく封じて見せた。


「予想以上のハイペースだったから、タイヤも(パワー)(ユニット)の残量も厳しいんじゃないかと思っていたのだけれど……読みが甘かった。最終盤に向けて、ちゃんとペースコントロールしていたのね、久湊は」

「肯定ダ。付ケ加エテイエバ、今ノ防御ブロックヲ見ルニ、久湊ハposition(ポジション)ヲ守ルタメナラバ、再ビ接触スルコトモ辞サナイ覚悟ヲ決メテイルヨウニ見エル」

「んん……」

「通常ノattack(アタック)デ、今日ノ久湊ヲ攻略スルノハ難シイ。……夢兎。勝負ヲ賭ケヨウ」


 シェステナーゼの提案を聞いた夢兎は、一度コミュニケーターに目をやると、やや視線を落として目を細めた。

 ここで勝負をかける〝切り札(カード)〟……それは、言うまでもない。


 シャフイザとシェステナーゼのコンビネーションを象徴する、必殺な一撃(キラームーブ)

 鋭角的に車体の向きを変え、物理法則を無視したかのようなポイントで加速に入る、最速最短突破走法――――《フェノーメノ》しかない。


 自分が使えるのは、ターンスピードを若干マイルドにしたダウンモデル――《簡易型 フェノーメノ》と言うべきものだが。

 シミュレーターで試した時の突破力を再現できれば、確かに久湊の鉄壁の防御ブロックも粉砕できるだろう。


 自分で使わせて欲しいと頼んだ飛び道具。

 まさに、ここが使いどころだ。躊躇する理由など何もない。本当であれば、即答で「使う」と答えるべきだ。


 でも。


(シミュレーターにおける《簡易型 フェメーメノ》の成功確率は――――約50%。

まだ自信を持って使えるレベルじゃない。それを、タイヤが消耗しているレース最終盤。接触して空力バランスが乱れているマシンでやれるだろうか……?

 身体も、もう言うことを利かなくなってきてるし。久湊はギリギリまで寄せてくるだろうから、例え成功できたとしても、精度が低ければまた接触する可能性もある。

 そうなったら……)


「ッ……!」


 この土壇場に来て、何を弱気なことを! と思う。そう、自分でもわかってる。

 でも、一度浮き上がってきたネガティブな考えは抑えることができなくて。頭の中から追い出そうとしても、追い出せない。


「クッ!」


 気持ちが後退して、何をやっても失敗するんじゃないかと思いだし、吐き気が襲ってきて……力が抜けていく感覚がくる。

 トラウマのようになってしまっているのか。こういう場面になると、途端に自分がコントロールできなくなる。

 だから、この負の流れに抗えず、自分を信じ切れなくなって。最後は心が折れて、自滅してしまう。


 近年は、それがお決まりのパターンになっていた。


(でも、今日の私は……!)


 ――君ハ、raceニ勝チタクナイノカ?

 ――行コウ、夢兎。今日ノ君ナラバ、限界ヲ越エラレルハズダ


 ――俺は、おまえならやれると信じてる

 ――スピードさと一緒に、俺の度胸も貸してやる。だから、そんな情けないツラはここで捨てちまえ。……自信持っていけ、夢兎


(今日の私は……ここでは終わらない! 終われないんだっ!!)


「シェステナーゼ! 次のLap、turn1で勝負を決める! あなたの力を貸して……!!」

「君ニ、全テヲ託ス」


 決意を込めた声でシェステナーゼに指示を飛ばすと、夢兎は胸をぎゅっと握りしめた。


 そして。


(……借りるよ)  


 心の中で、〝もう一人の相棒パートナー〟にも声をかけた。


 もう迷いはない。

 今、自分が持ちうる全てを投じて、必ず、必ず目の前に立つ久湊ライバルを倒す。

 その一念だけに心を絞った夢兎は、気のこもった表情で口を開いた。


「マスター2、コードF、起動!」

「了解。(パワー) (ユニット)mode(モード) 11(イレブン)moving(エム) surface(エス) control(シー)release(レリーズ)。code『f』 start」


 シェステナーゼが、通常のドライビングサポートを行いつつ必殺のシステムを立ち上げていく。


moving(ムービング) Scale(スケール)解放リリース調整キャリブレーション前後軸パワー駆動力配分アジャストメントsuper(スーパー) lithium(リチウム)空気電池、蓄電エネルギー状況ストレージ……all green。brake(ブレーキ) migration(マイグレーション)adjust(アジャスト)ヲ」

「了解」


「あのコーナリング」の準備設定はほとんどがシェステナーゼの管轄だが、ブレーキとデフは頻繁に使うのでドライバーの領分だ。

 大型バンクを駆け上がり、接触した最終シケインを越えたところで、ステアリングのダイヤルボタンで、事前設定された数値を入力する。


「――――準備完了レディ


 あとは決めるだけ。

 いよいよ勝負の時が来た。


 ホースストレートで久湊のマシンが生み出すスリップストリームの中に身を隠すと、夢兎はアクセルペダルを力強く踏み込み。

 シフトアップパドルを自信を持って叩きながら、しっかりと息を吸い込んだ。


「仕掛けてくる気か……無駄だっ! こっちだってタイヤはまだ残っている!」


 こちらの攻め気に反応した久湊が、turn1のイン側へマシンを流し、ブロックラインを敷いていく。

 

「おまえのスピードは既に見切っている! 表彰台に立つのは、この僕だっ!!」

 

 鋭く振ったマシンの動きから、久湊の勝利への執念が伝わってくる。

 だが、もうそんなことで気圧されたりはしない。

 

 自分が描く勝利への道筋をしっかりと見据え、静かに、だが意志のこもった声で。

 夢兎は、勝負を決める「切り札(カード)」の名を口にした。


「フェノーメノ――――!!」


 すると、キャノピーの内側に投影プライズされている画面に通常とは違う数値が浮かび、ステアリング上のダッシュボードパネルも、シェッフェル・エッフェルのアイコンカラーである白銀インフィニティックシルバーに光りはじめた。

 

 変化が起きたのは、コックピットだけではない。マシンの外観も変化。

 前後のホイールカバーが可動し、後方への気流を積極的に制御しはじめ、ボディカウル全体に装備している小型可変鱗――moving(ムービング) scale(スケール)――も、薄っすらと赤みを帯び出し。

 

 そして――。


 9、8、7、6速と、シフトダウン。

 ありったけのドライビングテクニックを全て注ぎ込み、turn1のアウトサイド――久湊ライバルの左サイドへマシンを飛び込ませた。

 

 全身の血が、前方から吸い上げられるような感覚がくる。

 それだけの超・レイトブレーキングを放ったので、一気に久湊と並べた。

 ……が、ブレーキングが遅すぎて全くスピードを殺し切れていない。turnの出口エキジットに向けて右へ切れ込む(ステア)したが、フロントノーズが全然進行方向に向いていかない。

 慣性の法則に従って、マシンが旋回半径を孕んでいく。

 視界に、どんどんコース外の景色が広がっていく。

 もう誰がどう見てもコースアウト不可避のラインだ。


 だが、そんなことは百も承知。

 修正舵は打たず、構わずにぐっとステアリングを切り足し。


「っぁあああ――――!!!!」


 咆哮一閃、と同時にアクセルを踏み込んだ。


 セオリー度外視。運動エネルギーの法則を無視した、全く無謀な軌道入力マニューバ

 誰もが夢兎のコースアウトを予測し、夢兎を応援する人々は悲鳴を上げかけた――――が、次の瞬間。 




〝〝超常現象フェノーメノが、顕現けんげんした〟〟



 

 moving(ムービング) Scale(スケール)全展開(エキスパンド オール)させたシェッフェル・エッフェル「RS4/27」は、マシン全体から白銀の粒子を飛ばすと、後輪にややスリップアングルをかけて――急回頭。


 更に、(ホイール).(イン).(モーター).(システム)によって蓄えた回生・電気エネルギーを全出力し、前輪軸(フロントアクスル)を回転させ、一時的四輪駆動車に変身し推力をブースト。

 W.I.M.Sが発射したその膨大な運動エネルギーを、シェステナーゼは全制御システムを行使し、調和、コントロール。


 路面を完璧に掴んだ(グリップした)RS4/27は、発進(テイク オフ)するようにturnの中間ミッドから一気に伸びると。

 久湊の左サイドの空間に突進。 


 そして――――。


「――ブゥッッ!!!! ぬ゛わ゛にぃぃっっ!?!?」 


 驚愕の叫びを上げた久湊ライバルの脇を突き抜け、夢兎は3位(ポジション)を奪うことに成功した。


「そんな、バカなっ……!! あれは、シャフイザ・クライだけができる『特別スペシャルな仕事』じゃないのかっ!?」

 

 久湊も、当然フェノーメノの存在は知っていた。

 しかし、まさかそれを、ルーキーの夢兎がやってのけるとは夢にも思っていなかった。


「クッ! 冗談じゃないっ!! やっと……やっとの思いで掴んだ初表彰台のチャンスなんだ! 返せ……返せよっ!」


 予想だにしなかった急襲にしてやられたが、久湊は諦めることなく、再逆転を狙って夢兎のマシンのテールを追っていく。

 しかし、抜かれた動揺は消せず……。


「ッ!? しまっ――」


 最終盤で摩耗し切ったタイヤに対して鞭打つような無理な入力を入れてしまい、久湊のロスメンズMGEはturn14・スプーンでコースアウト。




 この瞬間、軍配は上がった。


 * * *


《なんということでしょうか、これはっ!! まさかまさかの大逆転劇っ!!!! ここまで3位表彰台を守り続けて来た久湊新司を一刀両断!! 壬吹・ハーグリーブス・夢兎、デビュー戦表彰台へあとはラスト一周を残すのみぃっ!! いやぁしかし、これは驚きました! 放送席前のグランドスタンドにいるお客さんも、喜び半分驚き半分といった様子です!》

《完全コピーではありませんでしたが、今のはシャフイザ・クライとシェステナーゼの得意のオーバーテイクの形でしたね、よくやりました、壬吹は。ええ》

《シェッフェル・エッフェルのピットも、チームクルー全員が「信じられない! アメージング!」といった表情で喜んでいます……ああっと! 自分たちのマシンがチェッカーを受ける瞬間を見るために、早くもピットウォールの金網によじ登りはじめました!》

《シェッフェル・エッフェルにとって、2026年は厳しいシーズンでしたから。最後にやってきた素晴らしい出来事(ワンダフル タイム)に、興奮が抑えられないんでしょうね。きっと》


 今シーズン1とも言えるビックサプライズに沸き上がる、スズカ・サーキット。

 観客やチームクルーたちと同じように、最初は夢兎も目標を達成したという実感が沸かず。呆けたような表情を浮かべていた。


 しかし。

 PUと風切り音の切れ間に聞こえてくる歓声、スタンドで揺れ動く白銀のチームフラッグと日の丸。


 そして。


「見事ダ、夢兎。君ハ今、自分ノ限界ヲ一ツ乗リ越エタ」


 この瞬間を勝ち取るために、最大限のサポートをしてくれた相棒パートナーの褒め言葉を聞いてようやく人心地が着くと。

 自分の成し遂げたことに対する実感と、達成感が一気にこみ上げてきた。


「……ありがとう、シェステナーゼ」


 泣きたさが抑えきれなくなって。かすれた声でなんとかお礼を言う。

 

「私ハ、君ノ勝利ニ対スル思イヲ手助ケシタニ過ギナイ。コレハ、君ガ自分ノ力デ掴ミ取ッタ結果ダ」

「……」

「シカシ、涙ヲ流スノハマダ早イ。最後ノ1Lap、集中シヨウ夢兎」

「ええ。でも、やっぱりあなたのおかげだから……本当にありがとう」


 目元を微笑ませてそう言うと、ステアリングを握り直してLast Lapをまとめていく。


 後方とのギャップは15秒以上。もう競争力パフォーマンスは必要ない。

 マシンセッティングをクルージングモードへ変更し、酷使したタイヤと、(パワー)(ユニット)を労わるようにゆっくりとマシンを進めて行く。


 turnで減速する毎に、頭の上を通り過ぎていく歓声が気持ちいい。

 さっきまで様々な思いに埋め尽くされていた心の中が、どんどん晴れていって、真っ新(まっさら)になっていくのがわかる。


(こんなに満ち足りた気分になるのって、いつ以来だろう?)


 ふいにそんなことを考えると、自分がここまで来るために協力してくれた人たちの顔が頭に浮かびはじめた。


 シャフイザ、シェステナーゼ、シェッフェル・エッフェルのチームクルー。

 今まで所属してきたチームの仲間たち、Velo Trophyを目指す自分を応援してくれた支援者の人たち。

 そして、私をレースと出会わせてくれた、お婆さま。


 みんなに対する感謝の気持ちで胸が一杯で……一杯で……。


「ッ……」


 そう思うと、気持ちが抑えられなくなって感極まってきた。


 大型バンクの手前にあるストレート区間で一度右手を離すと、ヘルメットのバイザーを開けてさっと涙を拭う。

 でも、拭った後からすぐにまた涙が滲み出す。泣きたい気持ちがこれ以上溢れ出さないように何度も大きな深呼吸をして、気持ちを最後ゴールまで運んでいく。


 そして。

 ホームストレートに戻ってくると、PUや風切り音を越える大歓声が聞こえてきた。


 その声に触発されてコックピットのキャノピーを開けると、夢兎は自分に向けて振られるチェッカーに向けて手を伸ばし。

 遠くにあるそれを掴むように、ぐっと掌を握りしめたのだった。


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