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1-7

 学校のチャイムとともに授業が終わり、放課後となる。教室内では、


「放課後どうする?」

「ゲーセン行こうぜ」


 とか、もうすぐテストが近いにも関わらず、残り少ない学校生活を謳歌しようとする生徒の声が聞こえる。

 純夜は「じゅあ、お先に」と日菜に告げ、先に学校の近くの公園に行った。変な噂が立たないように時間差で学校を出ることにしたのである。

 こそこそといけないことをしているみたいで少し面白い。

 校門を出てから、右の角を曲がるとすぐに公園があった。小さな公園である。砂場にブランコ、すべり台などの簡易的な遊具に、休めるベンチが数か所設置してある。


 純夜の帰り道は校門を出てから、左に曲がるので帰り道とは逆であまり来ることはない。

 それにしてもまだ落ち着かない。今から女子の家に行くということ。それも学校一の美少女日菜の家。わくわくよりも不安の重圧の方が大きい。


 公園内では幼稚園児くらいの子供たちが砂場やブランコで仲良く遊んでいる。そこに高校生がポツンと一人。変な違和感がある。

 朝の出来事のせいもあって、不思議そうな目で見てくる子供の視線が気になり、余計に落ち着かない。


(あんまりこっちを見るな。俺は正当な理由があって、女子の家に行くんだ。決してやましい考えなどない。何かの拍子に転んで、そのままベッドに倒れこむようなラッキースケベ的な考えはしていない。期待などしては・・・)


 そんな馬鹿みたいな考えはやめて、純夜は公園のベンチに座った。

寒さのせいもあって、ベンチはひんやりと冷たい。

 純夜は背もたれに寄りかかり、空の上の飛行機をぼんやりと無心で眺める。

 何も考えずにいるといつの間にか視界から飛行機はどこかへ飛んで行った。飛行機が飛び去り、定規で引いたようなまっすぐに伸びた飛行機雲が空を二つに隔てている。ある一つの境界線のように。

 隔たれた空を見ていると、近づいてくる足音が聞こえる。おそらく日菜だろう。だが、その足音は一つだけではない。

 

「ほんとに草野と勉強会するんだな」

「だから、そう言ってるでしょ」


 そこにいたのは日菜ともう一人、鹿野朱莉がいた。純夜にとって朱莉は気が短く、苦手なクラスメイトの一人。

 何故、朱莉がいることを訊くと日菜が放課後、勉強会をするということを朱莉と夏美に話したらしくそれで来ることになったらしい。だが、夏美はバイトで来られないようだ。

 日菜と一対一でも大変なのに、朱莉が来て、女子と男子が二対一というのもそれはそれできつい。どうせ、来るなら清楚系の橘さんの方が良かった。


 (帰ろうかな)


 と純夜は思ったが、そうすることもままならず時の流れに身を任せた。

 公園を出てから、隙間もないような敷き詰められた閑静な住宅街を歩く。

純夜はただ日菜と朱莉が楽しそうに会話しているやや後ろを歩く。邪魔をしてはいけない。楽しい楽しい女子トーク。


 それから、線路を渡り、裏路地に回ると日菜の家に着いた。

 白い二階建ての大きな家。まさしくヒロインが住んでいそうな家だ。

 だが、日菜の部屋はどうだろう。日菜は美貌を兼ね備えていながらも、不器用なところが多い。もしかしたら、部屋はきれいではないかもしれない。心の準備だけはしておこう。


 「どうぞ、今、うちの親仕事だから気楽にしてね」

 「おっ邪魔しまーす!」


朱莉は普通に家に入るが、純夜は玄関の一歩手前で立ち尽くしていた。


 「純夜君も遠慮しないで入って」

 「じゃあ、お邪魔します・・・」


 玄関に入ると、ほんのりラベンダーのいい香りが玄関を包みこんでいた。少し緊張がやわらぐ。すると、日菜は何かを思い出したように、


 「あっ、ごめん。ちょっとここで待ってて」


 日菜が慌てて階段を上ると、二階からガチャ、バタン、ガチャガチャ、バタンと騒がしい物音が聞こえる。


 「二階上がってきていいよ。」


 日菜の呼ぶ声が二階から降りてくる。

思っていたことが現実になってしまうかもしれない。朱莉の後ろを純夜は恐る恐る階段を上がり、日菜の部屋の前に着いた。


 「入るよー」


 と朱莉が声をかけると


「いいよー」


 と日菜からの返事が返ってきた。

 朱莉の後ろに続いて純夜も部屋に入る。

 部屋の中はぬいぐるみや化粧台などがあり、いかにも女子の部屋である。とりあえず、部屋は片付いている。

 だが、予想は的中していたようだ。机の上に無造作に教科書が積まれ、クローゼットからは服の袖が飛び出ている。今、片づけたのがありありと見える。純夜は心の中で思わずため息が出る。

四角いテーブルを三角で囲み、日菜の反対側に純夜、日菜と純夜の間に朱莉という配置で座った。


 「それじゃあ、始めよう」


 と日菜の合図で勉強会がスタートする。

 勉強を始めてから十分、日菜は黙々とペンを動かすも、その横で朱莉は黙々とスマホ弄っている。勉強をする気などさらさらないようである。  

           

 「ねぇ、あんたたち本当に付き合ってないの?」


黙々と勉強をする中で呟かれた一言。一瞬、純夜はドキッとした。


 「付き合っ・・・」


 「付き合ってない。」


 純夜が言い終わる前に、日菜が即座に答える。


 「じゃあ、何で日菜はこんな何の変哲もないどこにでもいそうな普通の奴に勉強教えてもらってんの?日菜なら他にも沢山いるでしょ。」


 と朱莉は言う。随分と失礼な物言いである。


「純夜君はいい人なんだよ。確かに普通ではあるけど。」


 フォローになってない。


 「草野!」

 「はい!」

 「もし、日菜に変なことしたら承知しないから!」

 「変なこととは?」

 「へっ、変なことは・・・変なことよ!」


 朱莉の顔がだんだん赤くなっていき、目線が横にずれていく。見た目によらず、意外とうぶなようだ。それを遮るようにして、


 「チロリン。」


 電話の着信音がなった。


「あっ、私の携帯・・・親からだ。ちょっと出るね。」


 そう言って、朱莉は部屋を出て行く。


「ねぇ、朱莉って男子には結構きついところあるけど、案外可愛いところもあるから、許してあげて。」

「うん。」


 それに関しては既に認識している。案外うぶであり、可愛いところもある。ギャップ萌えというやつか。だけど、朱莉に関して言えばそうは断言できない。少し我が強すぎる。


朱莉が部屋に戻ってから、勉強を再開しようとしたが、そうなるはずもなく、朱莉による怒涛の質問攻めが始まる。


 約二時間が経過。純夜は既にヘロヘロである。「いつから、一緒に勉強しているの?」、「何で一緒に出掛けたの?」、「二人は本当に付き合っていないの?」などと似たような質問を続けられた。

 時刻は六時三十分。そろそろ帰る時間だ。帰ろうとした時、

 

 「ねぇ、二人とも晩御飯、うちで食べない?」


 日菜からの晩御飯のお誘い。


「いいの!?やったー!」


 朱莉は嬉しそうである。だが、


 (ドキッ・・・)


 このドキッは嬉しさのドキッではない。真逆の悪寒のドキッである。


「純夜君その顔は何?」


 日菜のニコッとした笑顔。プレッシャーがすごい。思わず体が縮こまる。


 「そんなに構えなくても大丈夫だよ。あれからちゃんと練習したから」

 「そう。それなら少し手伝うよ」


純夜は日菜の手伝いをすることにした。日菜に一人で料理をさせてはいけない。


 「私はゆっくりさせてもらうわ」


と言って、朱莉は自分の家にいるかのようにソファにごろんと寝ころぶ。


「じゅあ、私、野菜洗うね」

「うん・・・って、ちょっと待ったー!」


 純夜は自分の目を疑った。日菜の左手には食器用洗剤、右手にはスポンジ。一体、何をする気なのか。テレビとかでたまに見かける料理ができない人がやりがちなことはやめてほしい。


「野菜は僕が洗うから、お肉でも切っといて」

「うん、わかった」


すると、純夜が野菜を洗っている隣から

「トンッ!」


 とても大きな音が耳に響いた。

 隣を見ると、日菜が包丁を高く頭の上に振り上げ、真っ二つに振り下ろそうとしている。


「いや、待ていー!」


 振り下ろされた包丁がお肉の寸前で止まる。純夜は思わず叫んでしまった。

一体何を練習してきたのか。


「料理は僕が作るから、鹿野さんと遊んでて」

「・・・」


日菜は何も言わず、朱莉のところへ行く。意外と素直な反応。


 日菜がキッチンを出た後、純夜は一人で料理を作り始める。

 まず、野菜を手際よく切り、その後、お肉を切る。

 次にフライパンに油を少したらし、そこに切った野菜とお肉を痛める。

 そして、ご飯を投入し、卵をかけて、最後に塩コショウを振りかければ、炒飯の出来上がり。

出来は悪くない。炒飯の香ばしい香りが食欲をそそる。


「いただきます」

 三人の声が部屋に響き、部屋はおいしそうなにおいで満たされている。


「んっ、うまい。草野が料理できるなんて意外だな」


朱莉からは好評だが、日菜は何やら怪訝な顔をしている。


「口に合わなかった?」

「ううん。おいしい・・・けど、私のよりおいしいのは何か腹立つ」


そんな理由で怒らないでほしい。


「あんたさ、いろいろできるならさ、もっと自信持てばいいのに。そうすればさ、もっと皆と仲良くできるでしょ」


 と朱莉は純夜に言う。


「自信なんて持てるわけないよ・・・」


ボソリと出た一言。


「えっ?」

「あっ・・・そんなことよりご飯食べよ。」


思わずでてしまった一言。

別に朱莉に言い返そうとした訳ではない。でも、言ってしまった訳は自分がよく分かっている。


 その後の夕食の会話は恋バナになった。誰と誰が付き合っているとか、誰と誰が別れたとかそういう話だ。恋バナを聞いているのは悪くはない。結構面白い。

 話をしているうちに時刻は午後八時を過ぎたので、今日の勉強会はここまでとなった。

 結局、勉強などろくにできていない。








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