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 翌日、純夜は学校で奇妙な現象に襲われている。何やら学校が騒がしい。それに昇降口で靴を履き替える時、階段を上がる時、廊下を歩いている時、やたらと視線を感じる。勿論、普段はそんなことはない。

 基本、誰からも話しかけられることもなく、教室に入り、普通に着席する。それなのに、今日はよく注目される。


 純夜は他からの視線を避け、誰とも目を合わせようとせず教室のドアの前に着いた。

 いつものように教室の後ろのドアを開けると教室の左後ろの角で日菜と二人の女子が話している。


 一人は長いツインテールの女子。名前は鹿野朱莉かのあかり。スカートをギリギリまで上げ、いつもネイルを欠かさない。性格はチャラい、いわゆるギャルっぽい。気も短く、付き合いが難しい。純夜からすれば苦手な相手だ。


 もう一人の方はうなじが見えるくらいのショートヘアの女子。名前は橘夏美たちばな なつみ。夏美は朱莉とは違って、清楚な女子だ。男子からも人気があり、夏美のうなじはすらりとしていて、ふんわりとした色気があり、夏美の後ろの席が男子ならばそれはもうたまらないだろう。特にうなじフェチの男子にとっては。


 その二人は純夜が教室に入ってきたのを見て、何やら楽しげに会話しながら、純夜の方にちらちらと視線をずらしてくる。それだけではない。


 男女問わずクラスメイト全員から視線を感じる。純夜は気づかないふりをして、前の黒板に書かれた日直の文字を見て、一番端の前から三番目の廊下側の席に座る。


 (何か僕、変なことしたかなぁ)


 純夜は疑問を抱いている。体がそわそわして、落ち着かないそんな奇妙な体験の真最中、声をかけられた。


「おはよう」


 志村日菜だ。美少女ヒロインで学校内の人気者。日菜は挨拶をして、純夜の隣の席である自分の席に座った。今日は珍しく髪を結んでポニーテール。滅茶苦茶可愛い。ポニーテールの日菜は純夜にとって新鮮だった。


 純夜は挨拶を返そうとしたが、日菜の奥でさっき話していた朱莉と夏美がこちらを見てニヤリと笑っている。気にはなるが挨拶を返さない訳にはいかないので挨拶をする。


「おはよう、志村さん」


 だけど、日菜は不満そうな顔をしてムッとしている。何故、日菜が挨拶を返しただけで不満そうな顔をするのか純夜にはわからない。少し考えるように天井を向くとすぐに答えが返ってきた。


「な・ま・え」

(あー)


 純夜は心の中で理解した。口に出したら怒られそうな気がしたからだ。

「んっ、うん」とわざとらしく咳をこむようなふりをしてからもう一度、挨拶をした。


「おはよう。日菜」

「うん。おはよう。純夜君」


その瞬間、教室内がざわざわとどよめき始めた。


「えっ、今何が起こった?」

「草野のやつ、志村さんを下の名前で呼んだ?」

「もしかして、本当に付き合っているの?」


と話す声が聞こえる。それは純夜だけでなく日菜にも聞こえている。

何かのスキャンダルに出くわしたようなざわめき。

しかし、クラスのざわめきにはもろともせず、日菜は話し始める。


「ねぇ、私たちが付き合っている噂話が流れているの知ってる?」

「はぁ、何それ?そんなのあり得ないじゃん」

「でしょ。ありえないよね。昨日、私たちが二人でいたところを見られてそれが噂で広がったの」

「なるほどねぇ」


 案の定、日菜との変な噂が広まってしまった。

 そして、純夜は漸く理解した。何故スキャンダルのようなざわめきをしているのか。いや、実際スキャンダルではある。

 だけど、付き合ってないときっぱり否定されたのもそれはそれで少し悲しい。一緒に出掛けた仲なのに。


「ということで、今日は図書室での勉強会は難しいと思います」

「まぁ、そうだよな。」

「なので・・・」

(今日は休みかなー)


と純夜は心の中で残念がっていたが、


「今日は私の家で勉強会をやりましょう。」

「えっ、家?日菜の?」

「そうだよ。」


日菜は男子を家に入れることに何にも思わないようだ。


(おいおいおいおいおい。マジで何言ってんの。待て。これは夢だ。そう夢なんだ。こんなこと夢でしかあり得ない。朝から皆の視線を感じること、日菜と付き合っている噂、すべてが夢なんだ。きっとそうに違いない。)


勝手に現実逃避をしている。

夢であるならば家に入っても問題ないと思い、純夜は返事を返す。


「いいよ」

「オッケー。学校終わったら、近くの公園に集合ね」

「うん。(えっ?)」

(『オッケー』?もしかして夢じゃない)


純夜は今更ながら気づいた。だが、時すでに遅し。約束は成立していた。


 純夜は慌てて取り消そうとしたが、朝のチャイムがなり、同時に先生が前のドアから教室に入ってきて、すぐにホームルームが始まってしまった。

今日のホームルームは落ち着きがない。日菜のスキャンドルのおかげで。それに純夜はが「日菜」と下の名前で呼んだことにより、火に油を注ぎ余計に炎上した。


 だが、騒がしいのはクラスだけではない。現在、純夜も物凄く動揺している。日菜の家で勉強会をする約束をしてしまったことに。

 おそらく、純夜がクラスの中で一番心が騒いでいる。

 それにも関わらず、日菜は平然としている。動揺している素振りはない。いつも通りに先生の話を聞いて、堂々と凛々しく佇んでいる。


 その姿はれっきとした美少女。洗練された落ち着いたオーラを出している。

 これが普段の学校の姿なのだろうと純夜は思う。


 未だに教室のどよめきが収まらぬ間にホームルームは終わった。

一度、純夜は落ち着くために教室を出ようとする。静かに椅子から立ち上がりそろりと誰にも気づかれないように後ろのドアから教室を出ようとした時、声をかけてきた奴がいた。


「よっ、純夜。」

 ニヤニヤしながら、声をかけてきた男。こいつは阿部悠斗。

 悠斗の呼び方はこいつで十分。

 悠斗はクラスの中で純夜に話しかける数少ない人物である。悠斗はことある事に純夜に一方的に話しかけてくる。悠斗自身は純夜を友達として、見ているが、純夜はイマイチである。単なる迷惑野郎としか思っていない。苦手ではあるが嫌いじゃない。一応、面白いやつではある。


「ちょっと、来い。」

「えっ、待って。」


 悠斗は純夜の腕を掴んで、半強引に教室から連れ出し、トイレの中に連れ込んだ。

 トイレに連れ込みだすとは随分古典的なやり方だ。昔のドラマでよくありがちな光景だ。トイレは誰からも見られず問いただすためにはもってこいの場所。


「おい、どういうことだよ」


 悠斗は怒っているように見える。こちらを見ようとはせず、下を向いて、今にも怒りの角を突き出そうとしている。


「何がだよ」

「とぼけるな!」


床に向かって大声を吐き出した。言葉の選択を間違えたようで余計に怒らせてしまった。


「何でお前が休日に志村さんと二人でいたんだよ。俺とお前は『彼女つくらない同盟』のなかじゃないか。」

「はぁ?」


顔を上げた悠斗は怒ってはいなかった。目から大粒の涙を流している。


「裏切り者!」


 こうなってしまってはこいつはもうダメだ。悠斗は大きな誤解をして、一人で感傷的になっている。もう手は付けられない。

 そもそも『彼女作らない同盟』ってなんだよ。そんな同盟を結んだ覚えはない。


「あのさ。何で、僕と日菜が付き合っている噂になっているわけ?」

「これを見ろ。」


 そこに出されたのはスマホに映し出された一つの写真。純夜と日菜が二人で歩いている写真。その写真を見ると楽しそうに笑っている。確かに第三者から見れば二人は付き合っているようにも見える。


 「それで、何で学校中に広まっているわけ?」

 「これがSNSで拡散したからだよ。」

 「あー、そういうことか。」


 現代の技術は恐ろしい。簡単に確証のない噂が広まってしまう。それにプライバシーのかけらもない。プライバシーの権利とはよく言ったものだ。


 「もう戻りたいんだけどいい?」

 「待て。まだ話を訊いていない。」


 悠斗は両壁に手をつき、足を床につけ、大の字になって、廊下につながる通路を塞いでいる。


 「訳もなにも、僕は日菜と付き合っていない。」

 「裏切り者の言うことなど聞けん!」

 (じゃあ、訊くなよ。)


 さらに悠斗は意味不明なことを言い出す。


 「たとえ俺はお前が別の道に行こうとも俺はお前を見捨てないぞ。」

 (こいつ、何くさいこと言ってんだよ。もう突っ込む気にもなれん。はぁ~。)


 純夜はため息交じりにどうしようかと考えていると悠斗の後ろに人影が見えた。そして、その人影は悠斗の後ろに近づき、悠斗の大の字になった大きく開いた股を蹴り上げた。


 「ぐふっ・・・」


 倒れこむ悠斗。


 「悠斗!?」

 純夜は悠斗の体を揺するが反応がない。

 撃沈。

 純夜は顔を上げて、人影を見るとそこにいたのは日菜だった。


「日菜!?何でここに?」

「次、移動教室だよ。遅いから呼びに来たんだけど、変な話が聞こえたから・・・ついね、やっちゃった。まぁ、ほら早く行こう。授業始まっちゃうよ。」

 日菜はテへぇと笑ってしているが、純夜は恐ろしかった。男の股間を蹴るとは男の敵だ。純夜は今後の言動にはさらに気を付けることにした。


「それにしても日菜は大胆だね。」

「何が?」

「いや、なんでもない。」


 その後、美術室に移動し、授業が始まって、その十分後に悠斗が美術室に入ってきたが、悠斗は先生にこっぴどく怒られた。怒られた悠斗は「誰かに股間を蹴られた。」と言い訳をし、生徒からは笑われ、先生をさらに怒らせた。

 悠斗は純夜に助けを求めるも、純夜は知らない振りをした。



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