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1-2

 静まり返った校内。窓の外からは部活に励む生徒の声。


 純夜は誰もいない静かな廊下を一人歩いていた。足音がタッ、タッ、と響き、心臓の音がドクッ、ドクッと胸を打つ。やや緊張気味。

 なぜなら、あの美少女ヒロイン日菜と二人きりの放課後。

 図書室のドアの前に着いた。


「ふぅ~」

とりあえず一息。心を落ち着かせる。純夜は静寂の中、静かにドアを開ける。

 

 図書室の中に人影はない。本の壁がずらりと立ち並び、カーテンの隙間からは僅かに夕日がこぼれている。

 純夜は奥へと進み、そこには日菜がいた。

 その姿はもはや女子高生の域を超えている。


 窓辺に座る彼女は美しすぎた。夕日をバックに黙々とペンを動かす姿。髪を耳にかける仕草は到底、言葉では表すことができなかった。純夜は見惚れていた。ただただ一枚の絵画を見るように眺めることしかできなかった。


「あっ、来たなら声かけてよ」


日菜がこちらに気づいた。


「いや、今来たところ」


平然と嘘をつく。既に来てから数分が経っているはず。


「まぁ、座って、座って」

「うん」


 純夜は向かい側の席に座る。やはり落ち着かない。日菜が目の前にいることを意識すると余計に緊張する。


「あのさー、この問題どうやって解くの?」

「どれ?」


そこに出された問題はごく普通の因数分解の問題。高校に入ってすぐ習う簡単な問題だった。


「一応訊くけど、三年生だよね?」

「ばっ、馬鹿にしないでよ。あと半年で卒業の三年生。ただこの問題がちょっと、ほんのちょっとわかんないだけだから。わかれば他の問題なんて余裕だから」


 一体何処からそんな自信が湧くのやら。それにしても想像以上の酷さだった。もはやここまでとは。

純夜は一度、彼女のおバカ加減を理解し、心を落ち着かせ頭の中を整理する。


「えっ~と、ここはこうでなるでしょ。で、これがこうなるから、ほら、解けたでしょ」

「純夜君・・・天才。頭いいんだね」


日菜は息を呑んで、まるで神様を見るような目で純夜を見る。


「そんなこと・・・ないよ」

その言葉は謙虚さを意味するものではなかった。また、別の意味があるように感じられた。


「ところで、純夜君は順位何位くらいなの?」

「僕はたいしたことないよ」

「純夜君は私の順位知っているのに、私が純夜君の順位を知らないのは不公平だよ。」

「わかった。言うから・・・80位」

「・・・」


沈黙の反応。

それもそうだ。200位中80位。中のやや上。

当然微妙な反応となるのだが、


「すっ、すごい」

「えっ?」

「80位!すごいよ。私より順位が高い」

(そりゃ、そうだろ。流石に190位より下はない。逆にそっちの方がすごいよ)


「ねぇ、ねぇ、もっと勉強教えてよ」

「はいはい」

それから、約二時間。二人きりの時間は過ぎ、下校のチャイムと共に幕を閉じる。


「今日はありがとう。もし良かったらだけどこれからも教えてほしい」

「うん、いいよ。いつでも」

「じゃあ、毎日図書室で待っているから」

「毎日!?」

「ダメかな?」


またもや、上目遣いを使ってきた。再び会心の一撃。当然断ることはできない。


「ぜっ、全然、ダメじゃないよ」

「ありがとう。明日もよろしく。またね」


そう言って、日菜は手を軽く振って、去って行く。

夏が終わり、日は短くなり、窓の外は思っていたよりも薄暗くなっていた。

ほとんどの生徒は下校し、残っている生徒もごく僅か。


(『頭いいんだね』か。いつぶりだろうな。そんなこと言われたの。でも、所詮は平凡に過ぎない)


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