『電車』だけれど、オムニ『バス』 ①
作者がとある駅を出発し、とある駅に到着するまでの間に時間つぶしを兼ねて作った作品を、いくつかまとめて載せていきます。
今回は4作品です。
電車の中で作ったので、内容は……まぁね。
『携帯』
ある日、男が飼い犬と共に家にいると、置いてあった携帯がなり出した。「なんだよ、こんな時間に。一体誰だ?」そう独り言を言いながら、さっきまでYoutubeを見ていた携帯を右ポケットの中に入れ、電話に出ると、聞こえてきたのは耳馴染みのある声だった。
「もしもーし、ごめん、今日終電逃しちゃってさ、家泊めてくれないかな?」
男は一瞬眉間にしわをよせた。いくら友達とはいえど、こんな時間に急に泊めてと言われると、少し躊躇ってしまう。
「しょうがないな、いいよ、迎えにいく。どこにいるの?」
男はそう聞きながら、机の上に置いてあった携帯を手に取り、地図アプリを開く。
「あー、ここかー。じゃあ、ついでに近くの居酒屋でなんか食べよう。まだやってるかな」
壁にかけてある携帯にチラリと目をやる。
「やってるやってる。じゃあ、5分くらいで着くから待ってて」
そう言って男は、履いていた携帯を丁寧に脱ぎ、靴に履き替えたのだった。
『本人不在』
時刻は17:00を回ったところ。とあるホテルのフロントに、7人の男女が集まっていた。
等間隔に、円形に並んでいるのは、緊張感の表れなのだろうか。それとも密を避けているだけなのか。どちらにしても、傍から見たらなかなか不気味な光景である。
5人の男のうち、一人は警察官の格好をしている。そしてさらに一人、よく見る探偵の格好をしている。他の男女は各々私服を着ていて、統一性はなかった。
探偵の格好の男が、他に向かって口を開く。
「私には、今回の事件の犯人が分かりました」
「なんですって?」
「事件……ですか?」
「あの方が死んでしまったのは事故だって話だったじゃないか!」
警察官の格好の男以外が、ざわざわとし始める。遮るように声を張った探偵は続ける。
「いいえ、あれは事故に見せかける為の巧妙なトリックが使われた殺人事件です」
「そ、それじゃあ犯人がいるってことなのか?」
「よくぞ聞いてくれました。そうです。犯人はこの中に!」
そこまで言って顔を上げたところで、探偵は動きを止めた。
「あれ?畑山さんは?」
その声は打って変わって間抜けであった。
「畑山さんとは、308号室に泊まっていた畑山さんのことでしょうか」
警察官の声色は何一つ変わっていない。
「そうそう。畑山さんが犯人なんだけどね、今居ないの?畑山さん」
「え?あいつが犯人だったのかよ!」
「やだ!私の部屋の隣じゃないの!」
「まぁいいです。畑山さんが居ないのであれば、仕方がありませんね。誰か代わりに犯人の役をやってくれる方はいないですか。あ、葉山さんで良いや、名前似てますし。じゃあ葉山さん、証拠となるスーツの汚れをこれから付けるので、少しじっとしていてくださいね」
『かばん』
その男は、昨日誕生日だった。ところが、彼の周りに彼を祝ってくれる人は、居なかった。みんな忙しいのだ。仕方がない。男は、自分で自分のプレゼントを買うことにした。早速携帯電話をポケットに突っ込み、歩いてすぐのショッピングモールへ向かった。
誰かのプレゼントを選ぶのは、不思議と難しく、時間がかかるものだ。それは贈り先が自分であっても例外ではなかった。割と広い店内をしっかり三周して、彼はようやく一つのカバンを手に取った。黒くてかっちりとした見た目、なのに艶があり、上品さも感じる。男は吸い寄せられるようにレジへと向かった。思えば、男は学校を卒業してからカバンを使った覚えがなかった。一年前の自分は、もやしで生き延びているような貧乏人だったから、カバンなんか無くても気にしなかった。しかし今の自分はもう違う。金なら、ありあまるほどある。
男は電子決済でカバンを購入し、家まで持って帰る。そして、ポケットから携帯電話を取り出して、そのカバンを思わず写真に撮った。美しい。誰かに見せたい、と思ったが、彼の周りには彼のカバンを見てくれる人はいなかった。みんな、忙しいのだ。数日後、彼は携帯電話をポケットに入れて、贅沢なディナーを食べに行くのである。
『ジンドル』
あのおじさんは、なんだか嫌なやつだ。ドアの前でかばん一つ持たないで仁王立ちをしている。乗客がやってきても、退こうとしないで腕につけた携帯ばかり見ているもんだから、仕方なく周りの人が少し下がって、乗客は体を縮めてこの電車に乗らなければならない始末だ。まったく。あの人は一体なにを考えているんだ?ドアの真前に立たれたら他の人が入れないだろ?あたかも自分のところかのように陣取っちゃって。ふと、スーツの裾が不自然に汚れているのが目に止まった。スーツくらい綺麗に着なさいよ。普段から大雑把な生き方をしているのだと、心の中で嘲笑してやった。ああいうやつがいるから、電車は嫌いなのよね。
そんなことを考えていた時、後ろから女性の声が聞こえた。「すいません、退いてもらっていいですか?乗れないんですけど」気づいたら、私の背後のドアが開いていた。私は思わず心の中で叫んでしまった。「いや、このおばさん声野太すぎ!おっさんかよ!」
読んでいただきありがとうございます。
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