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Dreamers:the fourteenth stage  作者: くろーばあஐ
1/1

紅葉と同じ色

 秋風に揺れるは、暖色の木々と鮮やかな橙色の髪。


 幼い顔立ちと相反して、右手から滴る赤色。


 恐怖に塗られ、右手が落とされた老人は、命だけはと頭を地面に擦り付ける。


 しかし、復讐に支配された彼女には聞こえない。


 鉄の大剣を振りかざし、目を見開く老人の頭に叩きつける。


 そして、村は静かになった。


 葉の擦れる音が響く中、白い手を汚した彼女は



 静かに咽び泣いた。


 冷たくなった大切な人の前で。



    ◇◆◇



 がっくりと肩を落とす。

 絶望に顔が染まっていく。

 ああ、あまりにも酷い。どうしてこんな...こんな...


 こんな悪い点数になるのだ...



「まあまあ、そんな日もあるって!気にしない気にしない!」

 いつもの帰り道。同級生に会わないよう警戒しながら下校するのも慣れた。

 光は悲しむ私の背中をぽんぽん叩いて励ましてくれた。


 でも、私が一番頭を抱えたのはそれじゃない。

 自分の勉強時間を削って教えてくれた光に、合わせる顔がないからだ。

 よく光の家にお邪魔しては、ワークとにらめっこしながらインプットしようと試みた。

 わからないところは光から先生より丁寧なレクチャーを受けて頭に叩き込んだ。


 結果を言えば、平均ギリギリ。

 でも実は、今までよりはいい方なのだ。

 光先生のおかげで、赤点は回避できた。


 でも個人的には納得いかない。

 簡単な計算ミスをしたり、漢字のとめはねを甘くしたり、単語のスペルを間違えてしまったりなどばかりで減点されていた。

 本当はもっと喜ぶべきなんだろうけど、なんかこう...素直に喜ぶことを拒む何かがある。


「とりあえず平均点以上はオッケーだね。次はそれ以上いこっか!」

「うう...とことん前向きに...ありがとう...」

 私の勉強のモチベは光と勉強するから上がる。光に残念がってほしくないからこんな必死になっている。

 まあ、どんなに頑張っても、自分の脳のスペックを上げるのは厳しいんだけど。


「っていうかさ、私よりエルに教わった方が確実じゃない?パッと見ればわかるんだし、私が考える時間省けて効率いいと思うけど」

「あ〜...それね。私も思ったんだけど、エル理解しても教えるのが下手でさ...『何でわからないのかがわからない』ってタイプで...」

「ああ...だから私に」

 他人からすれば、何てことない普通の話のように聞こえるが、話の本人は全知全能不老不死のハイスペックな神様に近い生き物。たまに自分が変な状況に巻き込まれていると忘れてしまう。



 といった感じに、テストの反省をしながら誰かの庭から伸びる木の枝の下を通ったところで、ふといつもと違ったことに気がつく。

「あれ...?」

 はたと足を止め、それをまじまじと見た。

 家と家の間、細い隙間にそのイレギュラーは眠っていた。


 肩までの短いボサボサのオレンジの髪に、小学生くらいの幼い顔。

 元が何色かわからないほどに汚れてボロボロのノースリーブのワンピース。多分白色だった。

 そして最も目を引くのは、不健康なほど白くて細い体に刻まれた、火傷の跡や切り傷、殴られたような痣の数々。


「ん?どうしたの?」

 先に歩いて行ってしまった光も、気づいて私の隣に戻ってきた。

「いや...この子、昨日はいなかったよなあって...」

「この子?うわっどうしたんだろこの痣...!?」

 光が子供のそばに駆け寄る。

 ちなみに、今の光の「うわっ」は蔑む意味の「うわっ」ではなく、驚きと心配の「うわっ」である。わかっているだろうけど、念の為。


 私も子供のそばに寄り、折れてしまいそうな手首を握る。

「えっと...脈はあるね。生きてはいると思う」

「でももう死んじゃいそう...?呼吸も浅いし...」

 私たちは医者ではない。ただの通りすがりの中学生だ。

 この子は助けられるのか、助からないのかなんてわかるはずがない。


 でも私たちの考えは偶然にも一致した。


「優羽香、私がこの子おぶっていくから、私の家まで行って救急車呼んで」

「うん...でも光。救急車は呼んじゃだめな気がする」

「何で?明らか怪我人じゃん!このままほっといたら死んじゃうかもよ?」


「あ、うん、それはわかってるんだけど...きっと公共の場に出しちゃいけないよ...ほら」

 私が指差したのは子供の頭。

 それを見た光は驚愕を隠せなかった。


 小さな二本の角のようなもの。

 それがオレンジ色の髪をかき分けて当然のように居座っていた。


    ◇◆◇


「で、どうしたの、あの子」

 光の家、光の部屋。

 ベッドの上で小さな寝息を立てているのは、路地裏で拾った子供。


 あの後に、光は応急処置として回復魔術をかけ、二人で支え合いながら光の家まで運んだ(とは言っても、ほとんど光がおぶってくれてたんだけど)。

 使用人さんたちに頼んで、包帯や消毒をしてもらい、とりあえずひと段落はついた。

 だがやはり医者を呼ぶことはできない。専門的処置は不可能なので、それからどうすればいいかわからず固まっていた。

「あの子は帰り道で倒れてたのを見つけて...愛華、助かると思う?」

 光は眉を下げて不安そうに言った。私も同じ気持ちだ。無事に目覚めるかどうかも怪しい。

「私は、医者じゃ、ない。だから、わからない」

 愛華も無表情ながら少し申し訳なさそうに言った。大きな耳も下がっている気がする。

「う〜ん...私たちができるのはこれまでなのかな...」

 この子の傷が浅いことを祈るしかない。光はそう思っているだろうが...


「光、私さっき専門じゃないけど、心強い助っ人を呼んだよ」

 携帯の画面を見せて、安心させるように笑った。



 ────────数分後。

「あー。こいつはダメだな。かなり重症だ」

 部屋に入って早々、エルは無慈悲にもそう言い捨てた。

「えっ!?助からないってこと!?このまま死んじゃうの!?」

「そうだな...助からないどころか、こいつは...もう...」

 光の質問に、エルはベッドに近づいて顔を顰め、言葉を濁した。

「そ...そんな...」

 驚きと悔しさで下唇を噛んだ。初めて会ったはずなのに、悲しさに支配される。

 ああ、私がもう少し早く気づいていれば...


「...もう十分な処置ができてる。しばらくすれば目が覚めるだろう」

「「「............は?」」」

 呆然とする私たちを見て、エルは肩を震わせた。

 悪戯の成功を喜ぶ子供のように。


 ─────────────────────



 愛華と光がエルを軽く叩きまくってる間、私は眠っている子供の顔を覗き込んだ。

 顔立ちや体つきから、この子は女の子だろう。

 路地裏にいた時も思ったが、あまりに酷く痩せ細っている。まるで数日...いや数週間ほどまともに食べていないようだった。

 ここへ来た時は、体のどこを見ても泥や血で汚れてしまっていたが、傷の手当てをする時に使用人さんたちが軽く拭いてくれたおかげで、完全に綺麗とは言い切れないが、見つけた直後よりはよくなっている。

 そして、最も出血していた背中の傷。ものすごく強い鉄の匂いと、「何かが千切られたような跡」があった。

 その「何か」がなんなのか検討がつかず、その子の意識が戻るまで保留、ということになった。

 さらに、服も洗おうと使用人さんが確認したところ、なんと彼女は太腿の真ん中ほどしかない丈のワンピース一枚しか着ていなかったのだ。

 しかも裾どころかあちこちがボロボロで生々しい傷があらわになっていた上、足の骨も折れていた。


 いつもの私の怪我とは全く比にならない量の傷。

 エル曰く、使用人さんより前には治療も手当てもされておらず、できてから数ヶ月経った傷も複数個あるとのこと。

 折れた足はせいぜい数時間前にできたものだが、支えも無い状態で無理に歩いたと思われ、かなり悪化してるらしい。

 痛々しくて直視できなくて、思わず目を背けた。

 この子には頭の角を含め、不可解な点が多すぎる。目が覚めたときに質問攻めしないようにしなければ。

 ふと見た先に、二人から背中を叩かれてるにも関わらず、涼しい顔で少女の眠るベッドを見るエルを見つけた。

 神妙な面持ちで顎に手を当てて考え込む彼女を見ていると、それに横目で気づいたエルが私の方を向かずに言った。


「...優羽香。こいつ、『種』持ちだ」

「「えっ」」


 私と拳を振るのを止めた光が同時に驚きの声をあげた。それに釣られて愛華も叩くのを止めた。

「そ...そんなまさか...偶然通学路にいた子だよ?」

「元から『種』を持つ者同士は引き寄せられやすい。その偶然は当然だ」

 当然の偶然...もう何がなんなのかわからない。

「こいつが起きたら、すぐ話を聞かないとな」

「ちょ、ちょっと待ってエル!起きてすぐ!?」

 吃驚して思わず声が大きくなってしまい、慌てて口を塞いだ。幸いにも、その子が起きる気配はなかった。

「何か問題があるのか」

「いや、問題っていうか...これだけ傷ついてるってことは、多分何かとんでもないことに巻き込まれちゃったんだよ。そういう時って、心も重症なんだろうし...それに、見ず知らずで通りがかっただけの私たちに事情を話せるかどうか...」

 突然全く知らない場所にいたら、どんな人も大抵パニックになる。そこですぐに『悲劇』について話せと言われてもさらに混乱させるだけだろう。

「ならどうすればいい?私は対人関係においては素人だぞ」

 ため息まじりにエルは言った。

 とはいえ、私だってそれについて玄人なのかと言われれば、そんなわけないと完全否定できる。そんなコミュ力があればいじめられたりしない。

 首を捻ってこめかみを押してうんうん唸ってみても、案の一つも浮かばない。

 やっぱり平均点ほどの点数しか出せない私では力不足だ。


「...あー、優羽香...?大丈夫?」

 知恵熱で頭から湯気を出しかけた私にかけられた心配そうな光の言葉。

 その顔を見て、やっと結論を出した。

 ...やっぱり、こういうのは専門の人がやるべきだよな。

 悩むのを止め、ふっと笑った。


「助けて光っ!」


    ◇◆◇


 ソファに座って、光に借りた本を読んでいた。

 推理小説を勧められたが、読み始めて数ページでキャラクターの名前などを忘れていってしまい、推理どころか物語についていけなくなりかけていた。

 でも本を読むのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。特にこういった暇を潰すのには最適だった。


 光が私に出した案は、そもそも彼女が起きなければ始まらなかった。

 そのため、こうして本を読んで気が付くまで待っている。

 それから、同じ部屋にたくさん人がいると驚いてしまうかもしれないということで、私以外のみんなは愛華の部屋に行った。

 正直、口下手な私一人でこの子の相手をできるとは思ってないが、渋々...というほどではないが、やるしかないと覚悟を決めた。

 それに、子供は嫌いじゃないので少し楽しみにしてるところもある。

 とりあえず今は、私にできることを達成するための準備をしていよう。

 女の子の寝顔を見て、少し笑った。


「......じかんだ...」

 私が一人になって十数分。ふと、そんなか細い声に顔をあげた。

 女の子が上半身を起こして辺りを見回している。きっとこの状況に驚いているのだろう。

「おはよう。えっと、大丈夫?」

 私は本を机に置き、ソファから立ち上がってベッドに近づいた。

 まずは彼女の不安を解いてあげなくてはならない。信頼を築くほどじゃなくてもいいが、それなりに緊張の糸を解す。

 女の子はまん丸の目で私の顔を見て、知らない顔と理解したようで後ずさった。

「え...誰...?むらの人じゃない...?」

「あ、安心して!別に危害を加えるつもりはないから!」

 ほら、と両掌を胸の前ほどまで軽く上げる。

 敵意がないことを示すジェスチャーだが、女の子は警戒を解こうとしない。

「きがい...?きがいって何...?」

 ベッドからあまり動いてはいないが、あからさまに少し距離をとっている。初対面だから当たり前っちゃ当たり前だが、こんな小さい子に避けられるとちょっと傷つく。

 だが、彼女はそんな私の気持ちはよそに、自分の右腕を見てさらに目を見開いた。

「何...何これ...!?腕もっと白くなってる?足動かしにくい...!何これ...!?」

 白い顔に恐怖を浮かべ、身体中のあちこちを見たり触ったりして驚きの声をあげた。

「もしかして、包帯のこと言ってる?ギプスも知らない?」

「ぎぷす...?ほうた...?何それ...わかんない...取れるかな...」

「あああ!取っちゃダメ!まだ傷治ってないからっ...!」

 左肩の絆創膏を外そうとする女の子に、思わず少し大きな声が出てしまった。

 女の子はそれに驚いて私の顔を見たまま固まってしまった。

「あ、ご...ごめん...びっくりしたよね...。でもしばらくは取っちゃダメだから、ね?」

 今度は小さな声で戒め、頷いたのを確認してふうと息をついた。


 彼女はあまりに無知だった。

 いや、無知というより、教育を受けてもいないのかもしれない。

 小学生くらいの子なら絆創膏の存在は知ってても良いはずなのだ。

 そうなると、この子を見つけた時に一瞬想像した仮説も捨てきれなくなってしまう。


 想像した仮説──────彼女が親から虐待を受けていたという説。


 この傷の量。路地裏で眠っていたこと。折れていた足。全く治療されていなかったこと。さらに包帯や絆創膏を知らないこと。

 それの全てを加味すると、親などの身近な存在に暴力をふるわれていると思われる。

 この子が路地裏にいたのは、死にかけていたから捨てられた...と思うのが自然。


 何かの本で読んだのだが、昔『鬼子』という都市伝説のようなものがあった。

 生まれたばかりの赤ちゃんに歯が生えていたり、肌が赤かったり─────角があったり。

 そういった『異質』な子供は『鬼子』と呼ばれ、殺されたり忌み嫌われてきた...みたいな感じだった気がする。

 彼女がそうとは言わないが、それに似たような意味で怖がられていたのかもしれない。


 たまたま外に出た時に、暴力団的なものに襲われたとも考えたが、数年前の傷の跡などがあるため、今日ついさっきに起きた出来事でないだろう。

 なんにせよ、この子がろくな扱いを受けていたとは考えにくい。『悲劇の種』を持つなら尚更だ。


 でも、これはまだ憶測にすぎない。今から彼女の事情について聞くのも苦しいだろう。

 だから、まずは私と話ができるくらいにしよう、というのが光の考えである。

 なぜ私なのか。愛華によれば、

「なんか子供に好かれそうじゃない?」(要約)

とのこと。あまりに雑な抜擢をくらい、ちょっと納得いかないところもあるが...まあ、信頼されてるということで。エルや愛華の「目つき悪い組」を見て泣かれるよりはいいかなと思った。


 とりあえず彼女のことを聞くのは後にして、警戒を解くべくまた会話を試みようとした。

 だが、彼女は左の手首をまじまじと見ていた。

「クサリが...ない...?テカセも...ない...どこかで落としたかなあ...」

 鎖?手枷?何故そんなものが必要なのだろう?逃げないように?

 だとすると『鬼子説』の可能性は低くなる。


 鬼子は生まれてきたらすぐ殺されたりしてきたらしい。ならば、逃げたとしても困ることはない。むしろそっちの方が都合がいいまである。

 それなら何故生まれた後に殺さず、生かしていたのだろう?

 もしかしたら...あまり考えたくないが、傷を作った者に特殊な性癖があるとか。...これだけは本当にやめてほしいが。


「あの、えっと、落ち着いて聞いてほしいんだけどね。君は路地裏...道の端っこで倒れてたんだ。その、傷も酷かったから、治療ついでにここに連れてきたの」

 戸惑う女の子に、できる限り丁寧に説明した。変に刺激してしまわぬよう、細心の注意を払いながら。

「治療...どうして?」

「え...どうしてって...怪我してたから...?」

「怪我...怪我したら...治療するものなの?」

 澄んだ目で首を傾げる彼女に、だんだん私もわからなくなっていった。

 この子は意図的に傷つけられた。それは間違いないはずなのだが、それ以外が本当にさっぱりだ。

「え...っと...とにかく、じっとしてる方がいいよっていう...その、ちょっとの間だけ言うことを聞いててくれればいいから」

 とは言ったものの、どうしたものか。

 彼女の親の虐待説が出てる以上、送り帰すのは最適とは言えないだろう。

 家出でもして行くアテがないなら預かってもいいが...。


 女の子はまだ気になるのか、包帯やギプスをいじっていた。つっつくだけでは外れはしないだろうけど、それで傷が痛まないかが心配だけど。

 ふと気づくと、私はその仕草に、彼女に愛着が湧き始めていた。


 自分の腕や服が破れて露出した肌を撫で回してる女の子は、なんの前ぶりもなく思い出したように私を見た。

「ねえ、あなたは【だんざいしゃ】?それとも新しい【そんちょう】?」

「え、だんざ...?」

 あまりに急に聞いてくるものだから、思わず反射的に鸚鵡返ししてしまった。

 【だんざいしゃ】...【断罪者】だろうか?誰を断罪するのだろう?宗教的な家庭だったのかな?

 【そんちょう】は多分【村長】か。

 何故彼女はそんなことを聞いてきたのか。【断罪者】と【村長】は、彼女の人生に大きく関わったと見ていいだろうが、どう関わっているのか。

 まあ、少なくとも私はそのどちらにも該当しないはず。

「違うよ。私は...ただの通りがかりだよ」

 彼女にとっての【断罪者】が何を意味するかはわからないから、多分と少し保険をかけとく。

 それを聞いて女の子は安堵する、かと思いきや訝しげに眉を潜めた。

「違うよ...そんなことない。だって...【だんざいしゃ】と【そんちょう】以外ここに来るはずないもん...。他に来る人って言ったらハルくら...い...」

 突然、女の子は時間が止まったように固まった。

 口を半開きにしたまま、彼女の顔色は徐々に悪くなって、大量の冷や汗が頬を伝っている。

 急に体調が悪くなってしまったのだろうか。原因が全くわからず、私はどう声をかけるべきか迷っていた。

 すると、ぶつんと糸が切れたように、彼女の金糸雀色の瞳から大粒の雫が落ち始めた。

 ぎょっとしたのも束の間、彼女は顔を覆って嗚咽を漏らした。

「あ...ハルっ......!ごめん......ごめんなさい...!」

 何かに取り憑かれたように肩を震わせ、掠れた声で謝り続ける女の子。

 本当にどうすればいいのかわからず、私はその場に立ち尽くして、涙に溺れてしまいそうな彼女を見ることしかできなかった。


「ああ...ぼくが...ぼくがもっと...大人しくしてれば...っ!」


 頭を抱えて叫びに似た泣き声をあげる。

 何もできない私は、彼女が泣き止むまで、乱れる彼女の橙色の髪を呆然と眺めていた。


「ごめんなさいごめんなさい...もう大人になるから...!」


「ぼくから何も...奪わないでっ...!!」




    ◇◆◇




─────その頃、愛華の部屋では

「優羽香大丈夫かなあ...」

「心配しないでもいいだろう。あの子供は人になつきやすい」

「そ、そっか...そんな動物みたいに言わなくても...」

 柔らかいソファに座ってても落ち着かない。

 もし、あの子が突然暴れ出しでもしたら。もし、気性の荒い子だったら。

 色んな不安が浮かんでは消えを繰り返し、ほんの一分一秒でさえ長く感じる。


 一方、エルはこの暇を期に色々な紅茶を飲み比べていた。

 「アッサム以外も美味しいよ」と勧めると、あっさり他の茶葉を試し始めた。

 あまり好みじゃないと首を傾げたり、美味しかったりすると目を輝かせてたりして、いつもより反応が異常なほどわかりやすい。

 好きなものには素直だなと少し呆れた。


 好きなものに素直なのは、この部屋にもう一匹。

 私がだいぶ昔に買ってもらったゼンマイで走るねずみの玩具に狙いを定め、今に飛びかかろうとしている愛華。

 この子は今、わざわざこれで遊ぶために猫族にしか使えない魔術で子猫の姿になっている。

 楽しそうだからいいが、魔力の無駄遣いな気がする。


 紅茶を美味しそうに飲むエルとねずみを追いかけて走り回る愛華を見ていたら、不安を感じていた自分が逆に浮いているように感じた。

「......自由だなぁ...」

 明後日の方を見ながらそう呟いた。


Q.ちょっと爆速投稿すぎない?

A.定期更新してる人に謝った上でその質問をしよう。

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