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第五話 学年首席の東野さん

 それは五月も末、中間テストが終わり、席次表が発表されると、辺りはかしましくなった。

 ずっと中等部のころから、学年首席を維持していた、一条綾いちじょうあやが次席に転落したのだ。


 代わって、学年首席の座についたのは、無名の東野唯という少女、席次表の前で「東野唯って誰?」「高等部から入って来た、明智くんの玩具とかいう……」「ああ、それなら聞いたことある」そういった会話が繰り返された。


 明智は唯が誇らしくてならず、親友の長宗我部に「俺の唯が、学年首席だぞ。まあ当然だけどな」と、鼻高々で惚気て、「東野さんは、お前のじゃないと思うぞ」と冷静に突っ込まれたが、一向に気分を害するでもなく、上機嫌だった。


 ちなみに明智は学年八位、長宗我部は学年二十一位だった。


 それを境に、唯の事を『明智くんの玩具さん』と呼ぶ者は、誰一人いなくなった。

 代わりに『学年首席の東野さん』が、唯の新たな呼び名になった。


 明智は先日読んだ、唯の小説を長宗我部にだけ見せた。

 唯の小説だとは言わずに、意見を求める。


「なんか、ナショナリズムを刺激する小説だな。読み終わる頃には、読者は柴中佐に傾倒して、ファンになる仕様になってる。お前にしては珍しいもの読んでるんだな。」

 長宗我部に意見を言わせると、明智はネタばらしする。


「これ、唯が書いたんだ。なかなかだと思わないか?」

 明智の言葉に、長宗我部は目を見張る。

「お前、これどんな手口で調べたの?東野さんのあの様子じゃ、自分から言うわけないしなあ。まあ、ちょっと想像はつくけど。」

 明智は、長宗我部に呆れられながらも、上機嫌さを崩さない。


「極東の小国と侮られていた日本が、国際社会で認められて行く経緯とか、唯に似てると思わないか?俺は唯がどこまで登りつめるのか、すごく興味があるし、助けてやりたいと思ってる。」


 熱に浮かされた様に、口走る明智に、長宗我部は漠然とした不安を抱いた。

 その不安が現実のものとなるのに、そう時間はかからなかった。


 唯のスマホやパソコンを、不正な手段で覗き見し続けている明智は、唯の検索履歴から、唯が国内外の高層建築物に興味を持ち、入館時間や入場料などを調べているのを知った。

 早速、開館前のスカイツリーを、明智財閥の力で貸し切りにしてしまい、唯を連れて天望デッキに二人きり、朝日が昇るのを見た。


 唯は「凄い!スカイツリーには、前から来たかったんだ!明智くんって凄いんだね。貸し切りなんて生まれて初めてだよ。ありがとう。」と終始上機嫌で笑顔を絶やさない。


 気を良くした明智は「俺にとっては大したことないんだぜ。他に行きたいところが有れば、言ってみろよ。」と、唯に大言壮語を言うが、明智の場合口だけではなく、実行力が伴うのだ。


 唯は「急に思いつかないけど、その時はお願いするね。」と、最高に可愛い笑顔で言った。


 明智は唯のその笑顔と、感謝の言葉だけで、胸いっぱいお腹いっぱいだ。

 心の奥底から、満足感を味わい、満たされていた。


 その後も明智は、唯のスマホとパソコンを覗き続け、唯がショパールというブランドの、ピンクの文字盤に月と星のモチーフのあしらわれた、ハッピースポーツという腕時計を欲しがっている事を知った。

 普通の高校生には手の出ない価格だが、明智にとっては、小銭同然の金額だった。

 ディプロマシー部の部室で、唯に手渡すと、唯は困惑した様に言った。

「こんな高いもの貰えないよ。貰う理由もないし……。」


 明智は片眉を上げると「じゃあ、早いけど誕生日プレゼントって事で。」

 明智の台詞に唯は苦笑する。

「私の誕生日、三月だよ。」


「とにかく、その可憐で可愛らしい腕時計、俺がつける訳にいかないだろう。唯以外に貰い手がないんだから、素直に受け取れよ。」


 なんだその、色気づいて、可愛いくなったジャイアンみたいな台詞はと、話を聞いていた部員全員が思った。


 長宗我部が苦笑して、「明智、お前、東野さんを困らせるなよ。」と割って入りつつも、唯には「明智もこう言ってるし、ひとまず東野さんが預かるって事でどう?」と、中間案を提示する。


 唯は困惑しつつも、長宗我部の案を受け入れた。

 大事なものをしまい込むように、スクールバッグに入れるのを見届けると、明智は満足げに微笑んだ。


 唯は確信した。

 明智がどんな手段を使ったのかは、想像がつかないが、明智は唯の事をストーキングしている。

 スマホもパソコンもおそらく筒抜けに違いなかった。


 だが、あの団体からは、常に封書で連絡が来るから、まだ明智にはバレていないだろう。

 唯はコンビニで切手を買うと、自宅で現況を知らせ相談する手紙を書き、切手を貼って自宅近くのポストに投函した。

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