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第一話 明智くんの玩具さん

「明智くんの玩具さん、明智くんならA棟の屋上にいるわよ。」


 同じ一年A組のクラスの女子たちが、くすくす笑いながら唯に言った。


「え……あ、ありがとう。」


 唯がきょどりながら言うのがおかしいのか、その場に居合わせた全員が吹き出す。


「早くいかないと叱られちゃうかも。」


 女子生徒の一人が唯を促すので、唯はぺこりと頭を下げると、足早にA棟の屋上に向かう。

 今日は二人きりのかくれんぼで、唯が鬼だった。

 明智が鬼の日は、ものの数分で捕まる唯だったが、逆の日はてんで駄目だった。


「遅い!罰ゲーム決定だな。今度の日曜あけておけよ。」


 屋上で明智に言い渡されて、唯は不安げな表情になる。


「取って食いやしないから、そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだ。」


 明智はそう言って、唯にデコピンする。


 今、可愛いって言った……。

 唯は顔を赤くして、うつむいた。

 これが唯の日常だった。


 放課後、唯は明智に連れられ、ディプロマシー部の部室で、コーヒーや紅茶をいれる。

 ディプロマシーとは、20世紀初頭のヨーロッパを舞台に、列強諸国が外交交渉と軍隊を駆使して覇権を競うボードゲームである。

 ルールを教えられたものの、唯は未だにちんぷんかんぷんで、唯がゲームに参加する時は、明智がオブザーバーにつく。

 だが事実上、唯はお茶くみ兼マスコットガール、という位置づけだ。

 男子部員だけの部に紅一点、唯は意外と重宝され、先輩たちにも可愛がられている。


 なにより、クラスでは『明智くんの玩具さん』としか呼ばれない唯が、『唯ちゃん』とか『東野さん』と、きちんと名前を呼んでもらえる、貴重な場所だった。


「東野さんって、休みの日とかって何してるの?」

 明智の親友・長宗我部義愛ちょうそかべよしちかが、空のコーヒーカップを弄びながら、唯に話しかけてきた。


「本読んだり、ゲームしたり、DVD見たりって月並みだよね。」

 唯が自虐気味に言うと、長宗我部が首を振る。


「そんなことないよ。どんな本読むの?」

 長宗我部に促されて、唯は一瞬の間を置いて言った。

「『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』っていうのが面白かったよ」


「へえ、もしかして小説とか書いたりするの?」

 長宗我部の質問に、唯はためらう様に間を置いて、「うん、まあ……」と曖昧な返事を返す。


「読んでみたいな、東野さんの小説。」

 長宗我部が笑顔で言うも、唯は手をぶんぶん振って、「駄目っ。下手だし恥ずかしいから駄目。」と、必死に言うので、長宗我部は苦笑してそれ以上追及しなかった。


 それを黙って聞いていた明智は、にやりと笑う。

 悪だくみを思いついた目だった。

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