捨てる神あれば拾う神あり
多分毎話このくらいの文字数だと思います。
少なくてすみません……。
「ソラ!あんたはもう上がって良いよ!明日早いんだろ?」
「え、いいの!?ありがとう、リンダおばちゃん!」
ソラは、今しがた洗い終わった皿を軽く指で擦り、一つ頷くと他の皿に一緒に並べた。
「じゃあお先に失礼します!」
ソラはそう言い、厨房を出た。
ソラが家を追い出されたあの日から、約3ヶ月の時が流れていた。
家からは少しの金も貰えず、取り敢えずあるだけの貯金は持って出てきたが、とても長くもつような額では無かった。
行く宛も無かったため、初めは宿に泊まっていたのだが、このままでは金が底をつくのが目に見えていた。
そんな時に声をかけてくれたのがリンダである。
リンダは、家族で小さなレストランを経営しているのだが、最近人手が足りなくなり、働いてくれる人を探していたらしい。
それで声をかけられたのがソラという訳だ。
まあ二人が初めて出会った時、ソラはこれからどうしたものかとレストランの入り口の段差に腰掛けながら悩むという、軽く営業妨害のような事をしていたのだが。
それでもソラが金に困っている事を知り、ならウチで働くかと誘ってくれたリンダには感謝しかなかった。
そういった経緯で、ソラは1日3食の食事と2階の空いている部屋を一室貸してもらえるという条件で、リンダの下で働く事となった。
ちなみに空いている部屋というのが長男の部屋らしく、去年成人したため家を出て他所に就職し、そのせいで人手不足に陥ったそうだ。
今まではリンダと、娘のアイラの二人でお店を回していたらしい。
本当にあの時リンダさんに拾われてよかったなぁと、しみじみ思いながらソラは宛てがわれた部屋に戻って明日の支度をする。
ソラにとって、明日は今までの人生で一番と言っていいほど重要なイベントがあった。
それは、エリクラル魔法学院への入学試験である。
エリクラル魔法学院とは、平民や貴族といった身分に関係なく、魔法を扱うことさえできれば、誰でも入れる学校だ。
……それが例え初級火魔法だけだとしても。
ちなみに、この国には魔法学院がもう一つあり、カラドーナ魔法学院という。
カラドーナは、エリクラルとは違い、貴族専用の学校である。
実は、ソラはカラドーナの方は知っていたが、エリクラルの方は最近まで知らなかった。
何故かと言うと、エンドール家は男爵位を与えられており、末端ではあるが貴族であるため、ソラは本来カラドーナに入学する予定だったのだ。
エンドール家は、元々貴族ではなかったのだがソラの祖父…ガドナの新魔法の発見という大きな功績により叙爵されたのである。
恐らく弟のクリルはカラドーナに入学するのだろう。
まあ勘当されたので、もうソラには関係のないことだが。
だがエリクラルに行けば、もしかすると火球以外の魔法をを使えるようになるかもしれない。
そう思うと、ソラはどうしても気持ちを抑えきれなかった。
学院に通うとなると寮に住む事になり、もうこの店で働くことはできないだろう。
その事をリンダに伝えると、笑いながら行ってきなと、背中を押してくれた。
せっかく雇ってくれたのにも関わらず、すぐにやめてしまう事にソラは罪悪感を感じていたが、リンダの快活な笑顔を見て少し気持ちが軽くなった。
「これでよしっと。今日は早めに風呂に入って寝るか」
いつもより大分早いが、ソラは風呂に入りベットに横になった。
明日は絶対に遅刻するわけにはいかないのだ。
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「じゃあ気をつけて行ってくるんだよ!お弁当作って入れておいたから、お昼になったら食べな!」
「ありがとう!また落ち着いたら遊びに来るよ!」
開店前の朝早い時間、店の入り口でソラは見送りを受けていた。
「絶対ですよ!絶対来てくださいね!約束ですよ!」
そう言って人差し指を立て、ソラに近づいたのはリンダの娘のアイラだ。
アイラとはこの3ヶ月でかなり仲良くなった。
たまに客から兄妹と間違われるほどだ。
ちなみにアイラは15歳でソラと同い年である。
どちらが兄、姉かで言い争いしたのは良い思い出だ。
詰め寄ってくるアイラに対し、ソラは苦笑を浮かべて分かったよ、と返す。
「よし、行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
荷物の最終確認をして、ソラは二人に告げる。
二人ともとびきりの笑顔を返してくれた。
ソラも笑顔を返して歩き出す。
二人はソラの姿が見えなくなるまで、店の前から手を振って見送ってくれた。
やがてソラから二人の姿が見えなくなると、ソラは一旦立ち止まる。
そして、パンパンっと両手で軽く頰を叩き、よしっと気合いを入れると、再び前を向いて歩き始めた。
次回入学試験です。