旅立ちの日(勘当)
初めまして!
勢いで書いてるので拙いところが多々あるかと思いますが、よろしくお願いします!
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「初級火魔法しか使えない落ちこぼれめ!」
一体何度この言葉を聞いただろう。
「弟のクリルを見てみろ!」
「焔の竜巻ッ!」
クリルがそう呟くと、あたりに熱風が吹き荒れ、炎の竜巻が顕現する。
「ハハッ」
クリルの兄……ソラの顔には、それを見て乾いた笑みが浮かぶ。
焔の竜巻……。
上級火魔法。
魔法を習い始めて一年で上級が使えるなんて、どうやら弟は本物の天才という奴らしい。
まあ、3年経っても中級火魔法すら使えない俺を見た後じゃ、この世のほとんどの奴が天才に見えるだろうが。
「ふんっ」
クリルが勝ち誇った笑みを浮かべ、ソラに蔑んだ目を送った。
ソラはクリルと目を合わせず、俯く。
「ほっほっ、クリルはやはり筋がいいのぉ!」
「いえ、お爺様の教えのおかげです!」
「ほっほっ、謙遜するでない。それに比べて……」
ギロリと、この場に現れた老人の粘着質な目がソラに纏わりついた。
ガドナ・エンドール。
「火魔法の父」とも称される、エンドール家の元当主だ。
そしてソラの祖父でもある。
この人が俺を見るとき、言う言葉は一つしかない。
「本当に貴様は我が家の恥さらしじゃのう」
いつからこうなったのだったか。
魔法を習い始めた頃は、褒められることも多かった。
初級火魔法である火球をすぐにマスターし、得意げになっていたのが懐かしい。
しかし、順調なのはそこまでだった。
それ以降はいくら鍛錬しても、成長が見られなかった。
三日三晩寝ずに鍛錬し続けても、結局火球以外の魔法を、ソラは使えるようにならなかった。
その頃からだ。
今まで期待の眼差しだったそれは、失望……そして侮蔑へと、その在り方を変えていった。
火のエンドール。
エンドール家に属する者は、火魔法に対して卓越した才能を持っていなければならない。
それが我が家の掟だ。
その点、火球しか使えない俺は落ちこぼれも良いところであり、父や祖父からしてみれば掟破りの愚か者なのだろう。
「もうよかろうよ、ケイン」
ガドナがソラの父……ケインに呼びかける。
これは今までになかったパターンだ。
いつもなら、ソラに罵詈雑言を浴びせた後、ソラにはもう何年も見せたことのないような笑顔でクリルを褒めて、去っていくのだ。
その違和感が、ソラの背筋を冷たい手で撫でる。
「そうですね」
ケインはそう言い、ソラの方を向いた。
その目は、血の繋がった家族に向けるものではない。
「ソラ。お前はエンドールの生まれでありながら、碌に魔法を使えない。もうこれ以上、お前を家に置いていくわけにはいかないのだ。よって、今日ここでお前を──」
勘当する。
ソラは、自身に投げかけられた言葉の意味を必死に咀嚼する。
だがしかし、どう捻くれた解釈をしても辿り着く結論は同じだ。
「今日限り、我が家の敷居を跨ぐ事は許さん。早く荷物をまとめて出て行け」
ケインはそう言うと、すぐさま踵を返して去って行った。
ガドナも、もはやソラを見ることさえなく、部屋を去る。
「やっと目障りな落ちこぼれがいなくなって清々するよ!」
クリルは、呆然と立ち尽くすソラにそう言い残し、鼻歌を歌いながら二人の後について行った。
ソラはしばらく呆然としていたが、いつまでもそうしているわけにはいかないため、ケインに言われた通り荷物をまとめ、家の門をくぐる。
数歩歩いたところで立ち止まり、自分が今まで暮らしてきた大きな屋敷を振り返った。
ああ、母さんと妹のカミラにちゃんとお礼を言いたかったな。
弟、父、祖父がソラに冷たく当たる中、母さんとカミラはソラに優しくしてくれていた。
まあ、母さんは少し前に他界してしまったのだが。
今までありがとう、と聞こえていないと知りながらもソラは二人に向かって小さく呟く。
「よし」
ソラは一つ息を吐くと、再び前に向き直り、歩き始める。
今日この日を持って、ソラ・エンドールは、ただのソラとなったのだった。