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第5話 No.2に会いに行こうー2

 森に入ってから1時間くらいは経っただろうか。ようやく丘の近くまでやってきた。


「この辺りにいるはず……わっ――」


 地面から出っ張っていた木の根に足を引っかけた。普段なら気付けただろうけど、走り疲れて注意力が落ちていたようだ。

 顔から転ばないように、せめてもの抵抗として手を突き出す。


 

 ――突き出した手が地面に触れる事は無かった。

 私の身体から噴出した黒い霧が、城から落ちた時と同じように支えてくれたからだ。


「また勝手に出た……ってことは、意識して動かそうとすると……」


 瞬間、霧は霧散した。素早く体勢を戻して立ち上がる。二度目だったので流石に予想はできた。


「勝手に出てきて勝手に消えるのはともかく、守ってくれてありがとう。さあ、子供を探さないと――」


 大きく空気を息を吸い込み、「ストロくん」と名前を呼ぼうとして、やめる。

 多くの木々が並び、あまり見通しのよくないこの森で誰かを探すなら、呼びかけるのが一番早い。

 しかし、子供というのは呼ばれたからといってホイホイ出てくるものではない。

 行ってはいけない場所を冒険中の今なんかは特に。


 さらに、無口な『サニールージュ』として振る舞っている以上、あまり声を出すと別人だと思われる。

 ……かといって呼びかける以外の方法を思いつかないのも事実だ。


「子供だし、大丈夫か。おーい! ストロくーん!」


 歩きながら呼びかけを続ける。


「ストロくーん! この辺は危ないから出ておいでー!」


 木々の向こうでなにか、影が動くのが見えた。見失わないように急いで追いかける。

 視界に入ったのは、私から逃げるように走る小さなオークだった。

 この方向は丘に近づいている。どこからが結界なのか分からない以上、急いで捕まえなくては。


「ストロ君でしょ? ちょっと待って! 止まって!」


「なんで僕の名前知ってるの! 追いかけて来ないでよ!」


 ……怪しまれている。ストロ君が立ち止まる気配はない。

 魔王から魔力を分けてもらってかなり速く走れるようになったが、足元の悪い森の中では、やはり向こうに分があるようだ。

 中々距離を詰めることが出来ない。


「お父さんに頼まれたの!探してきてくれって!」


「…………」


 ……もう返事もしてくれない。会話での解決は無理そうだ。どうにかして追いつかないと――



ストロ君が走っている先に、不自然な光景が広がっている。そこから先には木や草が全く生えておらず、まるでグラウンドのような広場になっていた。

 森の中に存在する環境としては、違和感がある。


 すでにここは丘の直前。ということはあの場所からが結界――


「ストロ君! そこから先は本当に危ないんだって!」


 少しづつ距離が縮まってはいたが、広場までに追いつくのは無理だ。結界に突っ込めばどうなるか分からない。

 会話が出来ず、物理的にも追いつけないならもう手段は無い。通常であれば。


「自分の意思で出せたこと、ないんだけどな……」


 魔王が私にやったように、黒い霧を飛ばしてストロ君を掴む。それしかない。

 ここまで二度、魔力噴出に成功している。自由は効かないが、魔力が出ないわけではないのだ。


 大事なのは『無意識』だ。

 城から落ちた時は無意識に目を瞑って、転んだ時には無意識に手を突き出した。

 意識して出そうとするのではなく、無意識に出す。……そんなことが出来るのだろうか。


「やるしかない…………魔力噴出!」


 やはり出ない。というか、「魔力噴出」と叫ぶ時点で意識してしまっているしね。


 ……いよいよ最後の選択肢だ。全力疾走しているこの状態から、身を投げ出して派手に転ぶ。

 それで魔力が出たとしても私が黒い霧に支えられるだけ、というのは大いにあり得る。というより、おそらくそうなる。

 転びそうな私を支えてくれようとする黒い霧が、ストロ君の方へ向かってくれればいいんだけど。


「いや、余計なことは考えない。無意識、無意識…………とう!」


 思いっきり地面を蹴って、空中を舞う。



 さあ、勝手に出てきて勝手に動け。そして――勝手にあの子を救ってみせろ。



 顔から地面に突っ込む寸前で、なんとか、黒い霧は出てきてくれた。

 ――今までとは比べ物にならないほど、たくさん。

 もはや濃霧といっていい。てっきり、人間一人を支えるくらいの量しか出ないものだと思っていたんだけど。


 霧は辺りの木々を飲み込みながら、ストロ君へ向かっていく。


「――わっ! 放せ!」


 先の方からストロ君の声が聞こえる。どうやら捕まえてくれたようだ。

 そして私自身、転んで傷だらけになるのを覚悟していたが、無事に済んだ。つくづく頼りになる霧だ。私を支えて、逃げる子供を捕まえて、辺りの木々をなぎ倒している。……最後のは余計か。


「とにかく良かった……霧の事は考えない、考えないように」


 考えないようにしている時点で意識しているとは思うのだが、幸い、霧はまだ消えていない。

 身体を支えてくれていた霧から降りて、私はストロ君の元へ向かう。


 ……ああ、だけどその前に。


「バレないように、フードを深く被って――っと」

キャラクタプロフィール、及び世界観の補完コーナー

ー5ー

【ストロ】

年齢 11歳(人間に換算すると11歳)

身長 125cm

体重 40kg

特技 怖い物知らず

種族 オーク

所属 第三種

魔力 -


第三種の城下町で暮らしているオークの少年。若さ故の好奇心にものを言わせ、森の奥へと入り込んだ。オークの寿命は人間と同程度であり、精神の成長速度もまた、人間に近いといえる。しかし肉体面においては、十代の間に一段と成長するという特徴自体は人間と似通っているものの、その度合いは人間以上で、成体のオークは2mを超える場合が多い。

単純に身長だけの話をするならば、魔王だって見下ろせてしまう。そんな巨体の持ち主たちである。

……ストロ君の紹介は、また今度。

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