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第4話 No.2に会いに行こう-1

 ――落ちる、落ちる、落ちている。物凄い速度で地面が迫ってくる。いや、私が地面に迫っているんだった。

 あと数秒で激突する。走馬燈が頭をよぎる時間もない。

 相変わらず魔力が出る気配は無いし、このままだと最低でも足を骨折、落ち方が悪ければ最悪――


「丘まで歩かなきゃいけないんだから、せめて腕から着地を――」


 今更、体勢を変える時間なんてあるわけもなく、出来たのは咄嗟に目を瞑ることだけだった。


「……ッ!」




 ……もうとっくに地面にぶつかっていると思うが、痛みは無い。体がなにかに触れている感覚はある、硬くはない。

 モヤッとしていて、それでいて柔らかいこの感触は、たった今、私を掴んだ魔王の魔力の手に近い。というか同じだ。

 ゆっくりと目を開けると、黒い霧が集まって出来た大きな手が、私を受け止めていた。


「……今、どうやって出したの? 完全に無意識で、わっ、ちょっと――」


 黒い霧の手はたちまち霧散し、私はすり抜けるようにして地面に落ちた。

 自分で出したはずなのに、全くコントロールが効かない。


「もう一回出せないかな……」


 腰をさすりながら、もう一度魔力噴出を試みるが、やはり出ない。


「……やっぱりダメか」


 ……それにしても魔王さんめ。この世界のことをなんにも知らない私を一人で放りだすなんて、チャレンジャーすぎやしないか。行く前から考えるのもアレだけど、帰りはどうすればいいんだろう。一階から堂々と城に入れるわけもないよなぁ……。


「……まあ、とりあえず、今は丘に向かうのが優先。しっかりフードを被って、と」


 私が落ちたのは城の側面だから、表に回って城下町を通り、道沿いに丘を目指す。これなら迷ったりしないはずだ。


「歩きだと半日はかかりそうだけど……そういえば、ここの食事ってどんな感じなんだろう。勝手な想像だけど、とんでもないビジュアルのヤツが出てきそう。私、食べれるかな……」


 ここに留まっているとそんな考えばかり浮かぶので、とりあえず歩くことにした。



   * * *


 

「誰かいる……」


 歩きだしてすぐに、城の正面が見える位置まで来た。大きな門があり、城の入口まで石畳の道が続いている。門の両端には、悪魔が1人ずつ立っている。

 とても人間に似た姿をしていて、どちらも長い尻尾が生えている。遠目からだと尻尾の有無以外で人間との見分けをつけるのは難しそうだ。


「本当に大丈夫かな。私、尻尾は生えてないんだけど……」


 とはいえ、ローブを着て身体は隠れているわけだし、挙動不審な態度を取らなければ大丈夫だろう。私はフードをさらに深く被って歩き出す。

 段々と門との距離が縮まってきた。話しかけられたらどうしよう。

 コツコツと石畳を歩く音に気付いて、2人の門番がこちらを振り返った。

 落ち着け。目線を下げすぎず、しっかり前を見て堂々と――


「行ってらっしゃいませ、サニールージュ様」


 ……声を掛けられてしまった。しかも誰かと勘違いされている。

 返答の仕方を間違えるとバレるかもしれない。そもそも声が違うし。

 サニールージュさんに会ったことが無い以上、一番無難な返しは……。


「あぁ、行ってくる」


 そう言って2人の間を通り抜けた。

 「行ってくる」はいらなかったかもしれない。怪しまれていないだろうか。むしろ何も言わない方が良かったのかも……。

 脳内で反省会をしていると、後ろで2人が話す声が聞こえた。


「なぁ、今……」


「ああ。俺、初めてサニールージュ様の声聞いた」


「あとで他の奴に自慢しようぜ」


「いいや、今すぐに行くべきだ。そういうレベルの出来事だぞこれは」


「流石に仕事中はまずいだろ」


「しかしだな、この感動を一刻も早く伝えないと――」


 距離が離れすぎて聞こえづらい。まだ聞いていたいが、立ち止まるのも不自然だし、しょうがない。

 声を聞いただけであの盛り上がり。サニールージュさんとやらは、不愛想というレベルを超えているのではないだろうか。

 しかしこれは幸運だ。ローブで全身を隠した今の私は、どうやら『サニールージュ』という人物に雰囲気が似ているらしい。

 どうやら無口な人のようだし、喋る必要がないというのは、ボロが出づらくて良い。

 これなら城下町もなんとかなるかもしれない。




 門を抜けると、そこはもう城下町だ。

 森まで続く立派な大通りがありはするが……。


「やっぱり町っていうより集落よね……」


 町とは言えないが、集落として見るならここは活気があるほうだと思う。

 しかしなにより気になるのは、辺りにいる魔物の姿だ。

 私が歩いている大通りのすぐ近くにある小屋。その軒先で小柄な魔物がなにか作業をしている。狩りの道具でも作っているのだろうか。いや、そんなことよりもだ。

 小学生くらいの大きさで、暗い緑色の肌。私の勝手な知識だと、【悪魔】より【ゴブリン】の方がしっくりくる姿をしている。

 小柄な魔物は作業に集中していたが、側を通り過ぎる私に気付くと、軽く頭を下げた。

 予想していなかった行動に戸惑いながらも、少し遅れて会釈を返す。


「【第三種】は悪魔を率いるって、魔王さん言ってたしなぁ。ゴブリンじゃないのかな……さすがに直接聞くわけにもいかないし……」


 



   * * *



 城下町を進むにつれて、ますます状況が分からなくなってきた。

 最初に会ったゴブリンのような魔物。

 そのあとすぐに、大通りですれ違ったのは、厚い毛皮に覆われた大きな体の魔物。豚のような特徴的な鼻をしていた。あれはどう見ても【オーク】だ。

 歩いていて目に入る魔物はほとんどがこのどちらかで、城の門番していた悪魔らしい悪魔というのは非常に少ない。

 門番の2人を見ていなければ、想像と違うけど悪魔ってこんな感じなんだ。で、納得したかもしれないが、見てしまった以上仕方ない。城に戻ったら聞いてみよう。


 それともう一つ。私をサニールージュだと思っているからなのか、誰に対してもそうなのかは分からないが、ここの魔物はみんな礼儀正しい。

 ほとんどの魔物が挨拶をしてくれた。それを会釈でしか返せないのは申し訳なく思う。

 ここに住んでいる魔物の礼儀正しさは、魔王の教育の賜物だろう。

 そんな事を考えているうちに、城下町を抜けて、森の入口までたどり着いた。


「ここからは森か。さぁ、一層気を引き締めて――」


「あの! すいません!」


 突然、後ろから声を掛けられて、思わず声が出そうだった。

 なんとかこらえて後ろへ振り向く。

 立っていたのは大きな体の魔物、オークだった。私からはオークにしか見えないのでそう呼ぶことにする。

 どうして私を追いかけてきたんだろう? もしかして人間だとバレたのか?

 どうやら全力で走って追いかけてきたらしく、オークは息を切らしている。こちらは喋れない以上、待つしかない。

 それからわずか数秒で呼吸を整えて、オークは言った。


「そのローブ、城の方ですよね?」


 無言で頷く。


「森へ行かれるのであればどうか、息子を探していただけないでしょうか」


 子供が森へ入ってしまったのか。だけど、ここは城から最も近くにある森。そんな所に意思の疎通が出来ない危険な魔物がいるとは思えない。

 一度森の方を見て、再びオークへ向き直る。説明を求めていると分かるように、首をかしげる。


「……理由ですよね? この辺りの森はとても過ごしやすいので、子供たちもよく森で遊んでいます。普段なら帰りを待つだけなのですが、他の子の話によると、どうやら息子は丘の結界へ向かったようなんです」


 なるほど、魔王は、「あいつは、家には誰も近づけさせない」と言っていたが、結界を張って拒んでいたのか。……それだと私も入れないのでは?


「危ないから近づかないように、と普段から言っていたんですが、とにかくやんちゃで……『あの丘には近づくな。なにか用がある場合、必ず城の者に伝えること』そう魔王様が言っていたので、こうしてお願いを……」


 他人を拒むために【第三種】のNo.2が張った結界。どれくらい危険なのか想像もつかない。とにかく一刻も早く向かうべきだ。べきなのだが……

 どうやって了承の意を伝えればいいのか。喋るしかないか、一言くらいなら大丈夫だろう。


「息子の名前は?」


「ストロです」


「分かった」


 それだけ伝えると、森の方へ振り返って走った。

 この辺りの地理にはまだ詳しくない。安請け合いもいいとこだ。

 だけど、人も魔物も、親は親だ。息子を心配するあのオークを少しでも早く安心させたかった。

 必ず見つける。結界をなんとかして、丘に住んでいる悪魔の少女にも会う。

 なんだか今までより足取りが軽い。息が切れにくい。魔力が身体に流れているからだろうか。それとも、果たさなければならない使命があるからだろうか。

 

 私は――長いローブをはためかせて、森の中を駆け抜けて行く。



キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー

-4-

【第三種の城の門番’s】

年齢 190&200歳(人間に換算すると19~20歳程度)

身長 168&177cm

体重 62~&72kg

特技 見張り

種族 悪魔(第三種)

所属 第三種

魔力 黒い霧の魔力(微弱)


第三種の魔族が棲む城門の警備を任されている悪魔たち。二人は兄弟であり、兄の方が身長が高く、プライドは弟の方が高い。門を正面から見て、右に兄、左に弟が立つというのが習慣になっている。仕事中にする雑談の話題が尽きかけていた時、二人の間を、ローブを着た少女が通った。これでまたしばらくは、二人が退屈する心配はないだろう。

雨の日も風の日も、彼らは城門に立つ。

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