第22話 戦闘終わりのあれこれー2
「……え、ちょっ、なに!? なんで抱きつくの!?」
驚いているのか、照れているのか、迷惑がっているのかは分からないけど、とにかくしどろもどろな様子のベルフェ。
今の私には、それを推測する余裕もない。
「だって、私、ずっと……ずっと怖くて……精一杯頑張ったんですけど、本当にもう、どうしようもなくて、このままランドさんたちも私のせいで死んじゃうんだと思って……私……もう……」
声が震えているのが、自分でも分かる。
言いたいことがうまく纏まらないこの感覚も、もう十年以上は感じていなかった。
私が最後に泣いたのは――いつだったっけ。
「……悪かったわ。カゼコが人間と一緒に危機を乗り越えれば、偏見を取っ払った深い関係になれるんじゃないかと思って、あの場を離れることにしたの。あと【黒い霧の魔力】を自力で発現させるには、恐怖や覚悟のような強い意志が必要だから、それも兼ねたいいアイデアだと思ったんだけど……そうね、怖かったわよね。ごめんなさい」
「……違うんです。ベルフェさんが謝る必要はないんです。私が未熟だったから……私がもっとうまくやれていれば――」
「――やったじゃない」
ベルフェは私の背中に手を回して、抱き寄せながら言った。
「人間と協力して逃げ延びて、自分の命を狙っているグレシードも助けた。人と魔物の仲を取り持つ――なんて大層な目標を掲げている人間が取る行動としては、それはそれは立派だったと思うわよ」
「そんな、甘やかすような言葉をかけないでください……」
「甘やかしているつもりはないわ。言い方は悪いけどね、私、カゼコを試したのよ。上空から一部始終を眺めて、覚悟が感じられなかったり、ガーノに上っ面だけで協力しているような人間だったら、放っておいて家に帰るつもりだったわ。そんな気難しい私が認めたんだから、泣きそうな声なんて出してないで、もっと自分を誇りなさい」
「…………」
そんなこと言われても……。
いや、むしろ、そんなことを言われたからこそ――
「うぅ……ぐすっ……ベルフェさぁん……」
本当の、本当に、いつ以来だろう――こんな、視界が滲むほどの安心感を抱いたのは。
「泣かないの。……ねえ、カゼコ? 【黒い霧の魔力】を持っていながらグレシード相手に苦戦するようじゃ、先が思いやられるわ。あの子たちより凶暴な魔物や魔族は山ほどいるし、そんな魔族と互角以上に戦える人間だってたくさんいるのよ。カゼコが矢面に立つのであれば、そういう奴らとの衝突は避けて通れないと思うけど、それでも心は変わっていないの?」
「……はい。魔力はもっとうまく扱えるように頑張ります。何か揉め事が起これば、私が一番前に立って引き受けます。困っている誰かがいたら手を差し伸べて助けます。私はそういう、周りに安心感を与える存在でありたいです。だって、私は魔物のママになるんですから」
「……ママ?」
「なんでもないです……気にしないでください……」
「気になるわ。ガーノになにか良からぬことを吹き込まれたんじゃない? どう考えても大半の魔物よりカゼコの方が年下でしょ? そこに母性を求めるってどうなの? 人類の平穏のためにも、あのマザコン魔王は始末した方がいいかもしれないわね。私、ちょっと槍を取ってくるから――」
「取ってこなくていいです……」
背中に赤い羽を拡げるベルフェを、私は抱きしめて止める。
「……比喩です。あくまでも比喩表現ですから」
「ふふ、冗談よ。カゼコを泣きやませようと思って。……悪かったわ。グレシードのことを泣くほど怖がるとは思わなかったのよ」
バツが悪そうに、ベルフェは言う。
ただ――
「確かにあの子たちも怖かったですけど、これはそういう意味で泣いているんじゃありません……」
「……え? じゃあなんで泣いてるの?」
「自覚がないなんて……罪な女です……ベルフェさんは」
それからしばらくの間、ベルフェさんは泣いている私をふりほどこうとすることもなくずっと黙っていたが――やがて、気まずそうに口を開いた。
「……よく分からないけど、一つだけいいかしら? 涙も収まってきたみたいだし、そろそろ離れる気はない? アンタは背中を向けてるからいいでしょうけど、いい加減、私は人間の目線が痛いわ」
「……あ」
そうだ、すっかり忘れてた。
ベルフェから離れ、私はランドの方を振り返る。
「ごめんなさい、ランドさん……失念していました」
「……いや、別にいいけどよ。そういうのは、せめてコレをほどいてからにしてくれ」
地上に運ばれてからずっと触手に掴まれたままだったランドは、開口一番にそれを話題にした。
「……そうですね。ごめんなさい。それに関しては本当にもう、心の底から申し訳ないと思っています」
キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー
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【グレシード】その2
年齢(寿命) 15~20年
身長(全長) 1m50cm~2m
体重(平均) 170kg
特技(特徴) 優れた聴覚
種族 グレシード
所属(縄張り)第三種
魔力 -
【第三種】が支配している森――そこで食物連鎖の頂点に立つグレシードという種族にとって、自分たちよりも強く、それでいて気ままに暮らすベルフェは一番の天敵である。
グレシードは丘に近寄らないが、暇つぶしとして彼女の方から絡んでくるのでお手上げ状態。「獲物を狩るには狩られる側の気持ちも把握しておかないとダメよ」という名目で、【赤い雷の魔力】を足元に打ち込みながら追いかけ回してくるという迷惑っぷり。
本能的にどんな相手との戦闘も恐れない魔獣という種にしては珍しく、追われる恐怖を知っている獣である。




