第19話 覚醒 黒い霧の魔力ー4
なにはともあれ、うまくいってなにより。言葉は通じていなくとも、私の意図は通じるはずだ。現に、二匹のグレシードはジリジリと後ずさりをしている。
「よしよし。この子は後でちゃんと放すから、そのままどこかに行って――」
バシュ。バシュ。
背後から、聞き覚えのある音がした。
霧の触手が切られた時の音に近い――というかそれだ。
「…………?」
爪も牙も動かせないはずだけど……。
私がおそるおそる振り返ると、そこには、口や手足ではなく、毛を逆立てた尻尾で触手の切断を試みているグレシードの姿があった。
「……嘘!? 尻尾まで鋭いの!?」
この全身凶器め……!
「待って! 危ないから暴れないで! そこで触手が切れたら落ちるよ!? 降ろすから! 降ろしてあげるからジッとしてて!」
なんてガッツだ。ひとまず大穴の上からどかさないと危険――
バシュン!
「あ……」
切れた。
自力で触手の束縛から解放されたグレシードだったが、そこに降り立つ地面はない。重力に引かれ、真っ逆さまに落ちていく。
「だから言ったのに……もう!」
私はすぐさま新しい触手を造り、もがきながら落下していくグレシードに向けて伸ばす。丁度、ランドとドノウがいる辺りで、触手はグレシードに追いついた。同じ過ちを繰り返さないように、今度は尻尾まで固定してしっかり巻き付ける。
「危なかった……」
私が安堵のため息をついていると、
「ガルル……!」
さっきまでの後ずさりはどこへやら、二匹のグレシードはゆっくりと、再び前進してきた。どう見ても怒ってる……。
「待って! ストップ! 穴に落としたわけじゃないから! そこからじゃ見えないかもしれないけどちゃんと助かってるから! それにむしろ、今のはこの子の過失を私が補った形になるんじゃないかと――」
「なあ! 言い訳をするより無事なコイツを見せた方が早いんじゃねぇのか!?」
と、ランド。
大穴の中からもっともな意見が飛んできた。
うん、その通りだな。早速グレシードを引き上げて――
「……んん?」
「なんだ、どうした? 早くしねぇとヤバいんじゃねぇのか?」
「そうなんですけど……あれ……?」
私は、もう一本の触手も穴に降ろし、グレシードに軽く巻き付ける。
よし、今度こそ――
「……んん?」
「『ウンウン』唸ってどうした? なんかあったのか?」
「いや……あの……持ち上がらないんですよ。重くて」
「はあ? どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。吊り下げることはできても、そこから上の位置に運べないんです」
「……おい。ちょっとその余ったヤツを使って、二本で俺を持ち上げてみろ。ドノウはオークのガキを抱えてるから、この中じゃ俺が一番軽いはずだ。」
「はい、分かりました」
グレシードに使用していた触手を一本ほどき、今度はランドに巻く。
さあ、一気に上に――
「…………」
「どうだ?」
「……ランドさん。重いです」




