第18話 覚醒 黒い霧の魔力ー3
別に隠すつもりはなかったけど、意図的に遠回しな表現にしたのは事実だ。
……正直に白状するか。
「……その通りですよ! 現状、かなり分が悪いです!」
「なんでだ? 見た感じちゃんと魔力は出てんだから、追い払えるだろ!」
「無理です! 一度も扱った経験がない触手二本じゃどうにもなりません!」
「お前のは黒色の魔力なんだから、他にもなにかしら具現化して戦えばいいだろうが! そういう系統だろ!」
「系統!? 具現化!? 知りませんよそんなの!」
「なんで知らねぇんだよ!」
「詳しい使い方も教わらずに城を追い出されたんだからしょうがないでしょ!」
……無事に城に帰れたら魔王さんから説明してもらおう。切実に。
――うん、ランドと会話をしながらでもこなせるくらいには、グレシード二匹を相手取るのには慣れてきた。
しかし、とうとう。
立ちあがった三匹目のグレシードが――向かってくる。
どうする。どうする――
「ランドさん! 二本の触手で三匹の魔獣に対処するには、どうすればいいんでしょうか!?」
「よく分からねぇが、とりあえず触手が三本ありゃ解決する!」
「もう出ません!」
「だったらある分でどうにかしろ!」
「それが出来ないから聞いてるんです! ……そうだ! ドノウさんは? ドノウさんは何かいいアイデアを思いついてたりしませんか!?」
策や作戦に関しては多分、ランドより期待できる。
「ドノウは駄目だ! 飛び降りたショックで気を失ってる!」
返事をしたのはランドだった。
「…………」
……そっか。普通はそうだよな。安全が保障されていない状態で高所から飛び降りるなんて、私だって気絶する自信がある。意識を失っていることを責めはしない。
「なあ、俺を掴んでいる触手を三本目にするってのはどうだ!」
「あっ! いいですねそれ――なんて言うと思いますか!? 危ないでしょ! 第一、ランドさんを掴んだままだと素早く動かせないんですよ!」
「なんで俺を掴んだまま振り回そうとしてんだよ! ちゃんと降ろしてから使え!」
「そりゃ私だって、さっきから二人を引き上げようとしてますけど……グレシードを牽制しつつだと気が散ってうまく操れないというか……とにかく、今はこの二本で手一杯な感じなんです!」
「だったら結局二本でなんとかするしかねぇんじゃねぇか!」
「バレましたか! 今からちょっと集中するんで静かにしててください!」
「待て! 今の今までベラベラ喋ってたくせに――」
と、なにやら異を唱えるランドを無視して、私は強引に会話を切り上げる。決して逃げたわけではない。頭数が三匹に戻ったグレシードと戦う以上、改めて神経を張り詰める必要がある。
三匹目が走り寄って来たのを確認すると、他のグレシードは私から一旦距離を取り、戦列を整えた。
次の交戦で獲物を確実に仕留めるためだろう。……頭いいなぁ、ホントに。
……最悪、怪我をさせてでも戦闘を続行できないようにするしかないか。まあ、そこまで威力のある大振りの触手が、俊敏なグレシードに当たるかどうか分からないけど。
私はグレシード用の触手を自らの傍に戻し、ランドとドノウの触手の方に意識を注ぐ。今のうちに少しでも二人を――
「グルル……!」
「……む」
三匹のグレシードの内、中央にいた一匹と目が合った。
……確か、動物と目を合わせるのは駄目なんだっけ。敵対の意思があるように思われたりするらしい。だけど合ってしまったものは仕方がない。せめて最後の抵抗をしよう。
魔獣とはいえ体格はオオカミに近い。だったらもう犬みたいなものだ。
私はグレシードに手のひらを見せ、言った。
「……お手。だけど直接は怖いから、できれば触手に――」
「――グルァ!!」
「そりゃそうだよね! 分かるわけないし、やってくれるわけないよね!」
無謀な説得は実を結ばず、グレシードは一斉にこちらへと襲い掛かってきた。うまく並行して処理をしないと詰められる……!
私は先程と同じく、一本目の触手でグレシードの足元を薙ぎ払った。それをジャンプでかわすグレシード。これもさっきと同じ、そこを二本目で追撃して――
ガシュッ。
「……!」
当たったのは一匹だけ。
素早く振り抜いた触手を、二匹のグレシードは爪で切り裂いた。なんとか一匹は遠ざけたが……。
まずい。それほどの強度がないとバレている。
「くっ……!」
こちらに向かってくる二匹のグレシードへ新たに生成した触手を振るう。より近い方を優先して放った触手は、華麗な跳躍で躱された。
怪我を負わせてしまうのを覚悟で、かなりの力を込めて振るったせいか、グレシードは迎撃よりも高いジャンプによる回避を選択した。このままゼロ距離での戦闘になれば触手は出したそばから破壊されるだろう。根元を盾にしてもその先がない。だったら――
「一か八か……あれをやるしか!」
私は、もう一匹のグレシードに使おうとしていた一本目の触手を、跳躍したグレシードの背後――死角から巻き付けた。
「グガァッ!」
後ろ足から前足へと巧みに触手を這わせ、牙や爪を封じた状態で空中に持ち上げる。
そしてそのまま、大穴の上へと移動させて――
「人質――いや、狼質を取りました。この子を無事に返してほしければ、速やかに立ち去りなさい」
と、ジェスチャーを交えつつ他のグレシードに呼びかけた。
……これじゃまるで私が悪役みたいだけど、「魔王から授かった力を使っている」という要素だけを俯瞰して見てみると、あながち間違いでもないのかもしれない。
キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー
ー18ー
【黒い霧の魔力】
魔力純度 S
攻撃性能 B
防御性能 A
収束性能 S
拡散速度 A
魔力重量 B
【第三種】の王。ガーノ・デラウェア、及び弓野風子が所有している魔力。魔力噴出により、霧状の魔力が使用者の周りを漂う。
拡散速度が高いため、遠距離まで飛ばせば辺り一帯を黒い霧で覆うことが可能。
収束性も高いため、空中の魔力を統合して手や触手、ローブなどの物体を生成することができる。
魔力の重量が軽ければ、自身に纏わせることによって疑似的な飛行が可能なのだが、【黒い霧の魔力】はそこまで軽くない。
ただ、やはり魔王が所持しているだけあって、総じて強力な魔力である。




