第15話 少なくとも食べられたら負けー1
……私の記憶が正しければ、この近くのはずだ。
「――ランドさん! この辺から右方向に向かって走ってください!」
「まだ乗るとは言ってねぇよ! そっちに行くと城から離れるぞ!」
「もうお城には間に合いません! いいから早く!」
「チッ……! ついてこいドノウ!」
「ああ!」
ランドは素早く進路を変え、それにドノウも続く。更にその後ろから、グレシードが統率のとれた動きで追いかけてきている。
「おい、一体どうするつもりなんだ!」
後ろを振り返ってグレシードとの距離を確認しながら、ランドは言った。
「この先に大きな穴があるんです! なんとしてもそこまで走ってください!」
「そんな所に行ってどうする!? ああ、そうか! お前もさっきの赤髪の奴見たいに飛べるんだな! それで魔獣共を振り切ろうって寸法か……いや、だったら今すぐ飛びやがれ!」
「いえ、違いま――」
「違うよランド! おそらく、彼女は僕たちを吊り下げた状態だと上昇できないんだ! だけど地面がなければ魔獣は手を出せない! だから彼女はその大穴の上で滞空して、あいつらが諦めるまで時間を稼ぐつもりなんだ!」
「ハハッ! なるほどな! それでか!」
ドノウが割り込んで持論を展開するが、それも違う。ごめん。ランドもぬか喜びさせてしまって申し訳ない、ごめん。
飛べたら飛んでるよ、もう。
「期待を裏切るようで心が痛むんですが、私は飛べません!」
「そんな! じゃあ目的はなんなの!?」
「私ではなく、お二人に飛んでほしいんですよ!」
「いや、僕たちも飛べないけど!?」
「……語弊がありましたね。お二人には、その大穴に向かって飛んでほしいんです!」
「待って! そっちの方が語弊があるよ!? それは飛ぶんじゃなくてただの身投げだ!」
長身ではあるが、そんな細身の身体のどこから出ているんだろうかという大声で、ドノウは叫んだ。
気持ちは分かる。ただの自殺教唆だもんね。
でも。
「大丈夫です――お二人を死なせはしません。絶対に」
「……なにをするつもり?」
「さっき、私がランドさんに切り掛かられた時、私の周りに黒い霧が漂っていたのを見てましたよね?」
「ああ、うん。見てた。素人目ながら、あれはかなり強力な魔力だ。あんな魔力を持っているのならそれこそ、その辺の魔獣なんて簡単に倒せるはずだから、どうして使わないのかずっと不思議に思ってた」
「……実は、使えないんです」
「まあ、だよね。こんな状況に陥ってるわけだし、なんとなく察してたよ」
察されていた。
「でも、それを今から使おうと思います」
「……え、使えるの?」
「ドノウさんが背負ってるオークの子を捕まえた時も、状況が状況で、後が無い程切迫していたんです。なので、お二人に飛んでいただければ、多分、もしかしたら、出せるかもしれません」
「そこは出せると言い切ってほしいな!」
「……出ます! 出せます! 出してみせます!」
「アハハ! いいね! 威勢がいい!」
「はい!」
「……お前ら、混乱で頭がおかしくなったんじゃねぇのか?」
割と本気で私たちを心配しているランドへ、ドノウは笑いながら弁解する。
「正気だから安心してくれ! で、ランドはどうする? 僕はこれ以上走れそうもないし、魔獣に噛みつかれて死ぬくらいなら、颯爽と飛び降りたい気分なんだけど」
「……ドノウ。お前、普段は弱気なくせに、変なところで度胸があるよな」
相方への戸惑いを隠せないランドは少しだけ黙ったが、やがて意を決したのか、とても低い声で、私に向けて言った。
「……死んだら化けて出るからな」
「はい、もしもの時はお待ちしてます。好きなだけ枕元に立ってください。……ああ、でも、魔力が出なければ私も死んじゃいますね」
……ともかく。
これで全員、覚悟は決まった。
さあ、捨て身のバンジー(命綱なし)といこうじゃないか!
キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー
ー15ー
【ドノウ】
年齢 23歳
身長 178cm
体重 58kg
特技 財政管理(ランドの金遣いが荒いため)
種族 人間
所属 ギルド
魔力 無色透明(弱)
武具や薬品に使用する素材の採集を生業とする細身の男。僅かにではあるが魔力を使用することができる。しかし、その控えめな性格により戦闘職には就かなかった。
20歳の時にランドと出会い意気投合、以後二人でコンビを組み仕事をしている。
安全な地域での素材採集は大きな儲けが出にくい仕事のため、財政は常に危機的状況。
今回の仕事は頑なに反対していたが、依頼主の美女が「もし引き受けてくださったら報酬は弾みます」と言いつつその胸も弾ませたため、あっさりと陥落した。
人の嘘を見抜ける漢ではあるが、美女の谷間からは目が離せない漢でもある。




