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第12話 帰路では大体ロクでもない事が起きる-3

 ……なんにせよ、ベルフェの許しは貰った。これであの人たちと話せる。この世界で出会った初めての人間――なんとしても味方につけなくては。


「……よし」


 深く息を吸って呼吸を整え、私は二人の傍まで歩いて近づく。


「ぐぅ……」


 地面からなんとか身体を起こした大柄な男を、細身の男は心配そうに案じた。


「……ランド、大丈夫か?」


「ああ、派手に吹っ飛ばされたが、これくらいなんともねえ。……だが、あの小娘のどこにあんな力が……」


 あ、よかった、大きな怪我がないならなによりだ。しかし、なんて声を掛ければいいんだろう。ベルフェが簡単に弾き飛ばしてしまった以上、一緒にいる私もそれなりの魔物だと認識されてしまうのだろうか。そうなるとまずいな、力による屈服はナンセンスだ。


 ……うん、ひとまず名前。名前を呼ぼう。距離を詰めるにはそれが一番良い。 

 私は、二人の背中越しに声を掛けた。


「あの、大丈夫ですか? ランドさん」


「ひいっ!」


 細身の男は驚いて飛び退き、抱えていたストロを地面に置き去りにして、ランドの後ろへ回り込んだ。


「ストロ君? 大丈夫?」


 気を失っているようだが息はしている、ひとまず大丈夫そうだ。ストロは後で送り届けるとして……反省しなくては。背後からいったのは失敗だったな。えーと、こっちの人は確か……そう、ランドが「ドノウ」と呼んでいた。


「ドノウさん、驚かせてしまってごめんなさい」


「ひいっ!」


 ドノウはランドの肩を掴み、更に姿勢を低くした。

 え、また? 驚く理由なんてないはずだけど……。


「ラ、ランド! このローブを着た奴はなな、なんで僕の名前を知ってるんだ!?」


「落ち着けドノウ。俺が呼んだからだよ」


「あ……よ、呼んだっけ……?」


「…………」


 ただ名前を呼んだだけなのに、こうも驚かれると、なんだか悪い事をした気分だ。


「……お前はちょっと黙ってろ。おい、ローブの奴」


 ドノウを(いさ)めたランドは、私を睨みつけながら言った。


「……一体何が目的だ?」


「え?」


「とぼけんな。お前もそこの赤髪みたいに、俺たちを簡単に殺せるんだろ? 弄ぶようなマネなんかしねぇで、さっさと殺せよ」


「……そんなことしません」


「お前、【第三種】の魔族だろ? だとしたら、自分たちの領地に侵入した奴を生かしておく義理なんてねえはずだが」


「私は人間です。ここの魔族じゃありません」


「……フン」


 それを聞き、失笑するランド。


「じゃあなんだ? お前はここで暮らしてんのか?」


「そんなところですね。私、人間と魔物の争いをやめさせたいんです」


「ハハッ、面白い冗談だな。魔物のくせにセンスあるじゃねぇか。いい冥土の土産になった」


「だからそういう、物騒な事はしませんってば」


「だったらこのまま逃がしてくれんのか? しがない冒険者を逃がしたなんて他の種に知れたら、【第三種】の面子が立たねぇぞ」


「はい。魔物が人間と和解する前に【第三種】が滅びてしまっては本末転倒です。なので、お二人にお願いしたい事があるんです」


「嫌だね」


「…………」


 そんなハッキリと……。

 まだ言ってもいないのに……傷付くなぁ。


「あの、せめて内容を聞いてから判断していただけないでしょうか? 私、人前で話すのとか、意外と得意なんですよ」


「魔物のことは信用できねぇ。お前みたいにフレンドリーに接してくるヤツもたまにはいるらしいが、そいつらを受け入れた連中ってのは大抵、裏切られてる。金を持ち逃げされたり、装備を盗まれたり、仲間だと思って油断しているところを襲われたりな」


「…………」


 どうやら、私が思っていたよりずっと、人間と魔物の間にある溝は深いらしい。だが、それでも。それでも私は――


「お願いします。話だけでも聞いてく――」


 ガサガサッ――と森の茂みが揺れた。

 次の瞬間、うっそうとした木々の奥から数匹の獣が飛び出してきた。とても耳が大きく、まるでオオカミのような風貌をした獣が、私たちを取り囲む。


「あぁっ! ランド!」


「騒ぐな! 短剣を構えろ!」


 と、ランドとドノウはとっさに臨戦態勢をとる。

 数は三匹。なんだ、このオオカミみたいな動物は……。


「……ミミナガオオカミ?」


「――そんな名前じゃないわよ」


 呆れ気味に、少し離れた所にいたベルフェが口を挟んだ。


「そいつらは『グレシード』っていうの。常に三、四匹で行動していて、その大きな耳で獲物が立てた音を拾い、狡猾に狩りをするのよ」


「へえ……カッコカワイイ見た目ですね。ペットにほしいくらいです」


「随分のんきね。いつ襲われてもおかしくないのに」


「……え? 襲われるんですか!?」


「そりゃそうでしょ。現にアンタたち、取り囲まれてるじゃない」


「でも、このグレなんとかは【第三種】の魔物なんですよね? 同族を襲ったりするんですか!?」


「まあ確かに、グレシードは【第三種】の領地を縄張りにしているけど、『魔物』じゃなくて『魔獣』だから、高い知能を持っていないの。獣と同じよ。そいつらはここの主であるガーノの言うことも聞かないし」


 魔獣かぁ……また厄介な悩みの種が増えたな……。

 ただ、今はそれどころではない。


「……でも、このグレシードたち、全然襲ってきませんよ?」


 さっきからずっと、私たちの周りで様子を窺っているだけだ。


「案外、友好的だったりしません? この子たち」


「それは、私が威圧して牽制しているからよ。私がここを離れたら一気に遅いかかってくるでしょうね」


「うわ、それは怖いですね。早急に追い払っていただけると助かります」


 ええ、それはそうなんだけどね、カゼコ、私に一つ考えがあるわ――とベルフェは怪しい笑みを浮かべた。

 ……嫌な予感。


「私、家に槍を忘れてきちゃった」


「……槍って、あの、粉塵爆発が起きたような音と光が出るアレですか?」


「そう。アレがないと、とてもじゃないけど追い払えないわ。一旦、取りに帰るから、それまでどうにか耐えていてくれる? くれぐれも死なないようにね。せっかく出来た友人を失うのは、私――イヤよ?」


 なにを言っているんですか。

 私がそれを口に出す前に、ベルフェは背中に赤い羽を拡げ、空へと飛び上がった。


「……嘘。本当に行っちゃった」


 素手で大男を吹き飛ばせるヤツが。

 指一本使わずに、殺気と魔力だけで魔獣を牽制できるヤツが。


「なに言ってんですかー!」


 そんな私の声だけが、森にむなしく響き渡った。

キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー

ー12ー

【魔力】その2


基本的に無色透明である魔力はその純度が増し、一定の値を超えると色を伴うのだが、染色された魔力はその色によって、様々な固有の効果が付随する。そこから更に研ぎ澄まされた一握りの魔力は発現の仕方も変化し、その色と状態を形容した名称で呼ばれることになる。名付け方は様々で、最も多いのは本人が自ら命名すること。何かしらの団体に所属している者は、そのグループの目上の人物に付けてもらうこともある。

余談ではあるが、魔力の扱い方を習う魔導学校には13歳から入学することができ、卒業までには平均で5年間かかる。ただし、成績優秀者が最速で履修した場合、理論上、3年での卒業も可能。

……さらに余談ではあるが、魔導学校の授業料はカゼコの世界でいうところの、私立の大学並に高い。

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