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第10話 帰路では大体ロクでもない事が起きる-1

「――あの! ちょっとストップ!」


 そんな私の悲痛な叫びは、風切り音にかき消された。 


「…………」


 ――速い。


 行きがけは割と苦労した、あの深い森の上空を、風を切りながら飛んでいくベルフェ。

 そのベルフェに腕を掴まれて、まるで鯉のぼりのようにバタバタとはためいている、私。


 手を離されたら落ちる。

 怖い。

 怖すぎる。


 「ちょっと! ねえ! 止まって! ベルフェさん!」


 私の腕を掴んでいるベルフェの手を叩き、なんとか気付かせようと試みる。


 その甲斐あってか、ベルフェは怪訝そうにこちらを向いた。


「なに? なんか言った?」


「言いました! 止まってください!」


「なんで?」


「速いからですよ!」


「速くていいじゃない。少しでも早く城に着いた方がいいでしょ?」


「限度ってものがあります!」


「怖いの?」


「怖いです!」


「……無駄に正直ね。別に落としたりしないわよ」


 そう言われても、怖いものは怖い。

 ジェットコースターや飛行機と違ってシートベルトもないし、あったところで安心できない。


「私は歩いて帰りますから、先にベルフェさんだけ――ん?」


 一瞬、森の中に人影が見えた。

背中に何かを背負った二人組。ハッキリと確認できたわけではないが、身体のサイズ的に、子供ではなさそうだった。

 ……おかしい。この辺りはベルフェの家が近いから、城下のオークたちは「近寄る者はいない」と言っていた。だとしたら誰だろう……?


「あの、ベルフェさん。この辺に城下の人が来ることってあるんですか?」


「んー? ないわよ。私の家の近くには寄りつかないようにって言ってるから」


「今、誰かが森の中にいましたよ」


「そんなはずないわ。ああ、でも、子供とかなら探検気分で来たりもするんじゃない?」


「多分ですけど、子供じゃありません。少し戻ってみてください」


「……分かったわよ。一応、確認してあげるわ」


 急ブレーキをかけて、ベルフェは空中で静止した。そして、飛んできた方向へと向き直る。


「ベルフェさん? 早く戻りましょうよ」


「ここからでも分かるの」


 ベルフェがそう言うと、魔力で構成された背中の羽が段々と赤い光になって消えていき、とても小さな羽になった。おそらく、飛べる最低限を残しているのだろう。


「……何をしてるんですか?」


「魔力検知」


「……っていうのは?」


「辺り一帯に魔力を飛ばして探知してるの。魔力を保有している物体との距離を把握できるから、敵と戦う前に相手の位置を探ったりするのが主な用途ね」


「筒抜けってわけですか。物騒ですね」


「敵の位置を把握していれば戦わずに避けることもできるんだから、一概にそうとは言えないわ」


「ああ、確かに、それはそうですね」


 と相槌を打った私は、そこでつい、高い所が苦手なのにも関わらず、足元を見てしまった。当然、眼下に広がるのは一面の森――のはずなのだが……。


「ベルフェさん、あそこは一体なんなんですか?」


「今度はなに?」


「あそこです、ほら、私たちの足元」


 そう言いつつ、私が指をさしたのは、緑が生い茂る森の中で異様な存在感を放っている、深い谷のような地形だった。その部分だけ、まるでどこかから切り取ってきたかのように、底の見えない穴が空いている。ベルフェの住んでいる丘の周りにあった広場よりも、得体のしれない違和感があった。


「あの辺りだけ木が全く生えてないっていうか、そもそも地面がありません。周りは普通の森ですから、谷ってわけでもありませんよね?」


「ああ、あの穴は私が空けたのよ」


「ベルフェさんが?」


「昔、ガーノと喧嘩した時に、私が投げた槍をアイツが避けて、それがあそこに突き刺さったの」


「……それで、あんな地獄への入り口みたいな大穴が?」


「そうよ」


「埋めた方がいいんじゃないですか? 危ないですよ」


「埋めようにも、穴が深すぎてどこまで続いているか分からないから、埋めようがないんですって。あの穴の件は私が知る限り、ガーノが一番怒った出来事ね」


「……だと思います」


 自分の領地に底なしの大穴が空いているなんて、魔王さんも苦労してるな。幸い、城下からはかなり離れているから、無辜(むこ)の民が割を食うことはないんだろうけど。


「まあ、アンタが他の土地から人や魔物を連れてきた時に、観光名所とかにでもしたらいいんじゃない――」


 そこで、ベルフェは眉をひそめる。


「……いたわ。高速飛行中に肉眼でよく気付いたわね、アンタ」


「もう目がカサカサですよ。それで、誰なんですか?」


「反応は三匹。その内二人はガーノの魔力を微塵も感じないから、ここのヤツじゃないわ。よその魔物がここに来る理由もないし……大方、人間かしらね」


「人間にはあるんですか? その、魔王さんの領地に来る理由っていうのが」


「あるのよね、残念ながら。だってあいつは、人間に仇なす魔物たちの――王さまだもの。ガーノ自身がどういう考え方を持っていようと、現状、周りからはそう見えているのよ。そっちの方が都合のいい人間も大勢いるらしいし、今回もその類でしょ、どうせ」


 茶化すような言い方だが、どこか物悲しげにしつつ、ベルフェは背中の羽を再び大きくしていく。


「さて、せっかくだから行ってみましょうか。アンタとガーノが掲げる、人間と魔物の和解がどれだけ困難なものか、実際に体験してみるといいわ」


 と、ベルフェはその何者かがいる地点へ目的地を変え、羽を拡げた。

キャラクタープロフィール、及び世界観の補完コーナー

ー10ー

【魔力探知】

 自らの魔力を周囲に散布することによって付近の異なる魔力を探知するという、魔力噴出の応用編。その射程は魔力の色や質によって変化するが、基本的には300m程度が目安。なお、二人以上が近場で同時に魔力探知を行った場合、互いの魔力が広域で干渉しあって使い物にならない。

夜間や見通しの悪い地形での戦闘にはもちろん、浮気調査からかくれんぼにいたるまでと、用途は様々。

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