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「きゃあッ! 冷たい……」
「海なんだから当たり前だろ?」
海が海に触れて冷たいと言っているとなんか変な感じだ。
「は、離さないでよ陸?」
「海ちゃんが海怖がってどうすんのよ」
「私だって好きで海って名前になったんじゃないんだから!」
海は足が着くくらいに慣れてきたので俺が支えてくれるならもうちょっと深い所まで行ってみたいと言い出した。
万が一海が溺れてしまってパニックになってしまったら俺も一緒に溺れかねないので空もついてきた。
「あ、足がつかなくなった」
「俺がついてるから安心しろって」
「あたしもね!」
空が海のもう片方の手を取った。
「ほら、これなら大丈夫。 海ちゃんだけりっくんにくっついてるのはなんか気に食わないけど」
「はいはい、後で空にも陸を貸してあげるから」
「俺ってお前らに貸し借りされんの?」
「今の所みんなのりっくんなんだからりっくんは文句言わない」
そして足がつかなくなってしばらくすると海はこの辺でいいよと言った。 そうすると海は俺達からパッと手を離した。
「暴れなければ沈まないからじっとしてろ」
「大きな胸が重たくて足を引っ張ってるのかな?」
「うるさいよ空」
海が力を抜いてぷかぁ〜ッと海に浮く。
「なんか気持ちいいね。 こうして見上げると上に空がある」
「私の下にも海ちゃんがいるよ」
なんか不思議な光景だ。 海と空、海を包んでるのは大きな空、そして海に包まれている陸。
「なんかあたし達って切っても切れない関係みたいだね!」
「だからこんな関係になってるんじゃない? ややこしいわね。 けど嫌じゃない」
「まぁ俺達昔から一緒だったもんな」
「うん! りっくん中心でね」
「このまま時間がずっと止まればいいのにな……」
海がボソッと呟いた。 この先も俺達はずっと一緒にいれるんだろうか? いや、そんなわけないよな。 昔から一緒にいて変わらないような俺達の関係も海の告白から少しずつ変わってきている。
海は俺が好きで空も俺が好き、そして姫花も。 時間が進むに連れてこのままではいられなくなる。
「見て姫花達あんなに小さいよ?」
空の指差す方を見ると本当だ。 まだ大丈夫だろうと思ってこんなに遠くに来たんだなと思った。
「あ、本当だ。 そろそろ戻るか」
「あれ? 海ちゃんは?」
「陸〜ッ! 空ぁ〜ッ!」
少し離れた所から海の声が聞こえた。 まるで水面に浮かんだマンボウのように波のリズムに合わせて俺達と離れていた。 ほんの僅かに目を逸らしただけなのに。
「海!」
「海って名前だけあって海に呼ばれてるのかな? って追いかけなきゃ!」
俺と空は急いで海のもとへ向かった。 俺達と離れてパニックになって沈みかけていた。
なんとか追い付き俺と空は海を引き上げる。 空がついてきてくれてよかった。
「うわぁ〜ん! 怖かったよぉ〜」
「まったく、だから離すなって言ったろ!」
「ご、ごめん、考え事してたらつい……」
「もう! 海ちゃんが海で行方不明なんて冗談でも笑えないから」
「海が海を攫ってくように見えたわ、今度はずっと俺から離れるなよ?」
海の腰に手を回して離れないようにする。
「こ、怖かったけど…… これいい…… 」
海も俺の腰に手を回してがっちりと掴んだ。 海が恍惚とした表情で俺を見ていた。 反省してないだろこいつ……
「攫うって言うより海ちゃんにイチャイチャさせるように仕向けてるようにしか見えないんですけど?」
「私泳げないから仕方ないもん。 これなら海も悪くないや」
「てかそんなくっつかれると動きにくいんだけど?」
「りっくんまで溺れたらあたし1人じゃどうしようもないんだから海ちゃんは自重しなさい!」
そうしてようやく俺達は姫花の所へ戻ってきた。




