ネクロマンサーの嫁
またもやプロローグ的なのが長いです。
ちょっと、調子に乗っていたのかもしれない。
幼なじみたちと異世界に召喚されて、地球じゃありえないようなすごい力も授かって、鍛えればどんどん身に付いて。
突然見知らぬ場所にいて魔王を倒して欲しいと言われた時は、とっても驚いたし怖かった。でも、特別な力を貰った私たち四人なら、きっとこの世界を救って、帰ることができると思っていたの。
そうやって、いい気になってたから、ここで死ぬのかな。
私の体を貫いた剣が引き抜かれる。
体が熱い。なのに震えが止まらない。
回復魔法をかけなきゃなのに、頭の芯が痺れてうまくできない。
せり上がってくるものを吐き出したら、赤黒い血の塊だった。
「しっかりして、ウタ!」
膝をつく私に、朱莉ちゃんが駆け寄って抱きしめる。
その声に応えたいのに、私の喉から出てくるのは、か細い息の音だけ。
「なんで回復魔法が効かないの!?」
「落ち着け朱莉!」
「兄さん、でもウタが!」
「止血する。回復魔法はかけ続けろ」
健さんがいつものように冷静に指示を出す。
でも多分、もう無理じゃないかなぁ。体の端っこの方から、命がなくなっていく感覚がするの。
冷たい声が降ってくる。
「異世界の勇者だなんて大層な肩書きですが、さほどの強さではなかったようですね。はぁ……興ざめです」
私を刺した魔人だ。
「テメェ!!」
ぼやける視界をそちらに向ける。
激昂した勇くんが魔人に斬りかかっていく。
正義感が強くて、真っ直ぐで、強くて、誰よりもかっこいい勇くん。
最期に、勇くんの顔が見たかったなぁ。
★☆★☆★
森のダンジョン。
四人の人間と、羊のような角を生やした魔人がいた。
そのうちの一人は左胸から夥しい血を流し、既に意識がなかった。元から色白だったその肌はもはや生気がない。
ポニーテールの少女が泣きながら回復魔法をかけているが、魔人の武器の効果か、焼け石に水だった。
精悍な顔つきの青年が流れ出る血を抑えようと包帯を巻いている。
そして四人目の人間は、怒りに我を忘れ魔人に猛攻を奮っていた。
魔人は余裕の表情でひらり、ひらり、と剣を躱す。その度に赤い髪が嘲笑うように揺れた。
そして、冷めた目で呟く。
「殺す価値もありませんね」
「アアッ!?」
魔人は攻撃を避けながら器用に肩を竦めた。
「ザコを倒す趣味はないので、私はこれでお暇しましょう。もう少し強くなったら、戦ってあげますよ……では」
魔人は背を向け、森の中へ消えていった。あっというまに遠ざかり、小さくなっていく背中。
「待ちやがれ!」
「勇輝!」
包帯を巻き終えた青年、健が勇輝の肩を掴む。
「離せよ!」
それでも勇輝が止まらないので、健は腰に吊った刀を鞘ごと叩きつけた。
勇輝は鈍い悲鳴を上げて倒れた。
異世界召喚の際、手に入れたチート性能があるから、死んではいないだろう。
しかし、あのまま魔人を追っていたら、殺されていたか、あるいは森で迷って死んでいたかもしれない。
「なに……すんだよ、健にい……」
「む、意識は残っていたか。勇輝、今は唄の治療が最優先だ。戦っている場合じゃない」
それに、戦っても勝てる相手ではない。
その言葉は飲み込んで健が振り返り……鋭く叫んだ。
「誰だお前は! いつからそこにいた!」
そこには、黒いローブの男がいた。フードを深く被り、鳥かごを片手にぶら下げている。
朱莉が驚いて振り返る。
一切気配など感じなかった。この世界に来てから、敵の接近に気が付けなかったのは、二回目だ。一度目は、先の魔人である。
朱莉は唄を強く抱き寄せた。あの魔人並みに強いのなら、自分たちに勝ち目は無い。
「あー、別にキミらと戦うつもりは無いよ」
「なら何故気配を殺して近付いた」
健は刀の柄を握り、臨戦態勢だ。勇輝も半ば無理矢理立ち上がる。
「ボクはネクロマンサー」
カチャン、と軽い音がした。鳥かごの扉が閉まった音だ。
同時に空っぽの鳥かごの中に人魂のような炎が灯る。
「その子、ずっとカワイイなって思ってたんだ」
ローブの男が唄を指差す。
「死んじゃったから、ボクが貰うね?」
★☆★☆★
「んぅ……」
目が覚めると、見知らぬ天井だった。
「あっ、起きた?」
青年が顔を覗き込む。
人懐こそうなくりくりした猫目と、ばっちり目が合う。
夜明け前の空のような、爽やかな青色の瞳。それよりも数段暗めの藍色の髪。
知らない青年だ。
「えっと、おはようございます。あなたは?」
身を起こしながら尋ねる。
眩しいほど白いシャツにクラバット。部屋の内装も上品で清潔感がある。たぶん、私たちを支援しているお金持ちの方だろう。
青年は笑顔で答えた。
「ボクはグンター。傷は平気そうだね」
傷という言葉で思い出す。
そうだ。私、魔人に……
刺されたはずの左胸にそっと手を当てる。
心臓は問題なく動いていた。痛みもない。
「生きてる……」
致命傷を治したことは無かったけど、心臓を貫かれても元どおりになるなんて、回復魔法すごすぎる。
魔法得意な朱莉ちゃんが頑張ってくれたのかな。健さんや勇くんにもお礼言わなきゃ。
「あの、皆はどこに?」
「他の勇者の人たちは……」
グンターさんの続けた言葉に、戸惑う。
「旅を続けてるんじゃない?」
「……え?」
「少なくとも、ここにはいないよ。キミを置いてどっか行っちゃったんだ」
そんな……そんなはずはない。
私たちは仲間で、最高の幼なじみで。
「怪我もボクが治したんだよ」
四人で魔王を倒して、地球に帰るって誓い合ったのに。
「あんまり言いたくないけど」
悩み事があれば真っ先に相談した。
嬉しいことがあれば皆でお祝いした。
四人でいれば、楽しくて、辛いことも乗り越えられた。
「キミ、捨てられたんだよ」
私たちは、心が通じ合っていた。
そう思ってたのは、私だけだったの?
ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
グンターさんを困らせてしまう。でも悲しさで心がパンクしそうで、どうしても止まらなかった。
そっとグンターさんが包み込むように私を抱きしめる。
「泣かないで……ボクが一緒にいてあげる。ボクだけは絶対、キミを捨てたりなんかしない」
彼は安心させるように、優しく頭を撫でて、耳元で囁く。
まるで魔法のように、その言葉は私の脳に溶け込む。
悲しみでいっぱいだったはずの心に、するりと入り込み、甘く癒す。
「本当に? ずっと一緒にいてくれる?」
「うん。永遠に一緒にいてあげる」
そう言って彼は、笑顔を浮かべる。神様のようにも見えるし、悪魔のようにも見える、そんな笑顔。
ふと、彼の肩越しにあるものを見付けた。
それは、扉の開いた、空っぽの鳥かごだった。
タイトル:ネクロマンサーの嫁
普通に短編として出しても良かった気がする。でも私が書きたかったのは長編なのでネタ置き場へ。
◯世界観
剣と魔法のファンタジー。異世界から転移する人がいるみたいですね。魔王もいるらしいです。詳しく考えてない。
◯登場人物
唄
主人公。優しい女の子。補助魔法が得意。
死んだんだけどネクロマンサーが生き返した。綺麗なゾンビみたいなものです。生きている頃と全く変わらず生命活動しているけど、魂と体が魔法で繋がってるだけなので、ネクロマンサーが魔法を解けばただの死体に戻る。
だんだん捨てられた悲しみを乗り越え、ネクロマンサーに惹かれていく。
グンター
ネクロマンサー。魂や心を操る魔法が得意。
魔法を極めすぎて実質不老不死。強い。異世界勇者を遠見の魔法でチェックしたところ唄ちゃんに一目惚れ。しかし唄が勇輝に惚れていたのでどうアプローチしようか考えあぐねていた。そんな中いつものように覗き見していたら唄が殺されてしまい、誘拐しに行った。唄を守りきれなかった勇輝にはちょっと怒っている。だから絶対に返さない。唄の身も心も自分のものにする。
唄のことが大好き。きっかけは見た目だったけど、内面を知れば知るほどもっと惹かれていく。自分を捨てた仲間でも心配して、感謝の気持ちを忘れず、丁寧で、思いやりがあって。ボクのお手伝いも進んでやろうとしてくれる。ホントに彼女は優しくてカワイイね。この前花壇で蝶と戯れていた時なんて、天使かと思ったよ。
純粋で無邪気だけど倫理観がバグってるので残酷な実験とか平気でする。
魔王も近付かない辺境の地にお屋敷を構えている。結界の外は強い魔物がうろうろしてるので、唄ちゃんは外に出れないね。
勇輝
異世界に飛ばされた幼馴染み四人衆の一人。
快活な少年。異世界来て一番調子乗ってたのはコイツ。
唄を奪われてからは憎しみに囚われ、力に執着し、戦いに明け暮れるようになってしまう。
絶対に唄を取り返す。
朱莉
ポニーテールの女の子。健の妹。元々兄妹で剣道をやってて、刀と魔法で戦う。
勇輝への恋心を諦めたつもりだったけど、唄が居なくなってチャンスだと思ってしまう自分もいて、でも勇輝は変わってしまったし、死ぬかもしれない恐怖も骨に沁みたし、親友との別れはやっぱり辛いし……で、だいぶいっぱいいっぱい。
健
最年長。朱莉の兄。元々兄妹で剣道をやってて、刀と魔法で戦う。
最年長なだけあり、一番現実が見えてる。死は覚悟していたし、勇輝も朱莉も精神的に参ってるからどうにかしたいと頑張っている。
◯書きたいもの
歪んだ恋愛物語
純粋無垢故に恐ろしいヤンデレ(しかも強い)
優しい少女と触れ合ううちに人の心を取り戻していくヤンデレ
幼馴染みを失い悲しみと憎しみで殺戮マシーンと化したヤンデレ
唄ちゃんがグンターと結ばれた後に勇輝くんが迎えに来るけど、悪鬼のようになってしまった勇輝を唄は拒絶する。ってストーリーを考えてたけど勇輝くん報われなさすぎる。でも勇輝くん悪鬼モードになったら朱莉や健兄さん死んでも構わなさそうだしな。