四歩で一度振り返り
また途中からセレネちゃん目線入ります。
◻︎月××日
数日経った今でもあの日の事を思い出す。
セレネに触れた時の事。
潤んだ瞳で上目遣いで私を見つめて。
頭を撫でて欲しいとおねだりされた。
ゆっくりと髪に触れ。
優しく、優しく。
壊れ物を取り扱うように。
そっと撫でてみる。
すると、堪え切れないように顔をクシャっと歪めて、セレネは泣き出した。
また、私は、間違えたのだろうか?
これ以上触らない方がいいのだろうか?
─どうしたら?
その場で動けなくなってしまっていたら。
泣き出したセレネがなんと私にしがみついてきた。
顔をグリグリと胸に押し付けて。
もっと撫でてと、言ってきた。
何故泣いているとか。
誰を待っていたかとか。
私を誰と間違えたとか。
そういったものは、その時は全部吹き飛んでいた。
─セレネが私を頼って、縋り付いてくれている。
その事実だけが、わたしを満たしていた。
右手で優しく撫でて。
左腕でセレネを抱き寄せて。
耳元で「大丈夫だよ。」と囁いて髪にキスを落として。
このまま、城に連れて行ってしまおうか─。
と、考えていたら。
セレネの姉上がやってきて、無理矢理セレネを連れて行ってしまった。
─とても、残念だった。
姉上、タイミングが良すぎるでしょう?
私の兄上といい、勘が良すぎませんかね?
それは、ともかく。
また、次に会った時。
セレネは、どんな表情をしているのか。
また、誰かを待っているのだろうか。
ひとりで寂しく泣いていないか。
私に、笑いかけてくれるのだろうか─。
※※※
クロちゃんに、会いたかった日。
代わりに殿下が、やって来た日。
余りにも、悲しくて。
寂しくて、どうしようもなくて。
殿下に撫でてと、お願いしてみた。
セレネのこと、キライじゃないなら。
今、ここにいてくれるなら。
いつもの乱暴な殿下でも。
髪の毛ぐしゃぐしゃにされても。
それでも、寂しいのが紛れるなら。
セレネのそばにいて欲しかった。
実際の殿下は、すごく優しかった。
ゆっくりと、そっと撫でてくれて。
心配そうな顔でセレネを見つめてくれるから。
だから。
だから、我慢してた涙があふれてきて。
殿下に泣きついた。
もっと、優しくして。
もっと、頭撫でて。
もっと、もっと。
セレネのこと、かまって─。
殿下が、何故、こんなに優しくしてくれるのか、わからないけど。
もう、自分では涙は止められなくて。
もう、いい加減、泣き止まなきゃ、いけないのに。
優しい殿下が、嬉しくて。
もっと、甘えたくなってたのかも、しれない。
もうすぐ5歳になるんだから。
泣いてばかりじゃダメですよって。
お姉様に注意されちゃうけど。
でも、すこしだけ。
もうちょっとだけ。
優しい殿下に、甘えたいの。
そしたら、元気になれる気がする。
だから、また、殿下がカエル持って来ても、我慢するから。
もうすこしだけ、撫で撫でして、欲しい。
あと、ちょっとだけ、セレネのそばにいて─。
活動報告に小話載せてます。
よろしかったら、覗いてみてくださいね。