はじめの一歩
◯月◯日
以前セレネに私の宝物のヘビの抜け殻をプレゼントして大泣きされた後、セレネの母君にアドバイスをいただいた事を実践しようと思う。
ただ、母君をうたがうわけではないが…こんなことで、本当にセレネの方から近寄ってきてくれるのだろうか?
◯月△日
本日セレネの元へと向かう前に、城のパテシエに頼み、母君に教えていただいた、今セレネの中でブームが起きているという、「ふわとろクリームのシュークリーム」を用意してセレネの元へ。
いつものとおり、直接セレネの部屋へと訪れたら、これまたいつものとおり、びっくりして逃げようとしたけど、甘い匂いの漂う袋を掲げてみせたら、ピタリとセレネの足が止まった。
そして、私の手元の袋をジッとみている。
中身はシュークリームだと教えてあげると、ソワソワしだしたので、こっちへ来るよう促したが、やはりまだ戸惑ったいるらしい。
そこで深追いはしない紳士な私は、テーブルの上へとシュークリーム入りの袋を置き、バルコニーへと戻り帰る。
─フリをして、こっそりとセレネの部屋を覗いた。
セレネはキョロキョロと周りを見渡しながら、そっと袋に近寄って中身を確認してた。
中身が自分の大好きなものだと判明した途端、パァッと満面の笑顔になり、口いっぱいにシュークリームを頬張っていた。
可愛い…。
そして、口の周りについたクリームを舐めたい…。
そう思った。
でも紳士だからやらないぞ、私は。
◯月◇日
シュークリームだけだと芸がないと思い、何かセレネの好きな菓子はないかと悩んでいたら、2番目の兄上が、城下町で流行っている店のクッキーが好きだと教えてくれた。
何故兄上がそんな情報を持っているのだろう…謎だ。
そして、今私がやっている事が兄上に全て筒抜けになっているのも、謎だ。
◯月×日
また、城のパテシエにお願いをして、クッキーを作ってもらい、セレネの部屋へ向かおうとしたら、メイドにもう少し可愛らしくラッピングしたら良いのではないかと、言われた。
ただ単に、中身を包むだけで、後ほど捨ててしまうものを飾り立てる必要性はわからないが、「女の子は包む物も可愛いと喜びますよ。」と言われたので、早速実践してみた。
「可愛いリボンで袋の口を縛りましょうか?」と聞かれたので、緑色のリボンを渡した。
─私の瞳の色のリボン。
いつもより、ドキドキしながらセレネの部屋へ。
バルコニーからひょいっと顔を出すと、相変わらずびっくりして、逃げようとしていた。
…けど、途中で止まり、こちらを伺っている。
少しは警戒心が解けたのだろうか?
私は手に持っていたクッキー入りの袋を見せて、テーブルの上へと置いた。
セレネは、テーブルの上の物が気になる様子で、その場からもう逃げない。けど、近づかない。
その姿は何かに似ていた。
何だっけ?
とりあえず本日も、そのまま帰るフリをして、バルコニーへ。
私の姿が見えなくなったら、真っ直ぐ袋を開けてクッキーを食べるかと思ったら…。
リボンを解いてしばらく眺めていた。
─気に入ってくれたのだろうか?
だとしたら、嬉しい。
◯月◻︎日
あ、1番上の兄上の飼い猫に似てたんだ!!
私をみてジリジリとしている姿がそっくりだ!