第2章 光無の森は黒き翼と共に
《光無の森》・・・本当の名称は『闇羽の森』。
この森では昔から不可解な事が起きていたらしい。近所に住む今年で九十八になる爺さんが言っていた。この森はその昔戦場であったと、そしてその時に敵さんが使用した化学兵器によって多くの兵士が視力をいや・・・光を失ったと、そしてその光を失ったまま亡くなった兵士たちの怨念が今も森にて光を探してさまよっていると、そしてもし出逢ったらこう聞かれるそうだ―――。
「お前たちの目を俺達に寄こせ――――!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!」
『ドサッ!』
「――てなっ。って未々大丈夫か? あれ、愛がいねぇー?」
さっきの誰かさんの超うっさい悲鳴で未々が倒れ込んでいた。悲鳴の主は言わずもがな。
乾は倒れた羽沙を介抱する体制で羽沙の柔らかな頬をペチペチと軽く叩いた。しばらくすると羽沙が目を覚ました。
「あー、ケンちゃんおはようー」
「『おはよう』って、今は放課後でそしてさっきまで森について話してる途中だったろうが」
「解説はいいが、彼女もどうにかしてもらえないか?」
汐先輩がそう言って近くの木陰を指差した。そこにはうずくまって顔を下に向け何かをブツブツと言っている高女の姿があった。
「おーい、愛。何してんだよ? こんなの迷信に決まってんだろ」
乾がそう言ったら、高女がその場から立ち上がりこちらに向かってくる
「そうよね、そんなオカルト地味た話きっと誰かが流したデマよ。そう、そうに決まっている」
自分に言い聞かせるように愛のヤツはまだブツブツ言っている。
「こんな調子で大丈夫かよー? 汐先輩はどう思います?」
「まぁ、暇はしないと思うけどね。フフッ、楽し事になりそうだ」
乾は先が思いやられる気持ちであるのに対し汐先輩は少し楽しそうだ。ちなみに部長である千手先輩は部室でお留守番している。今回の件は俺らに任せると言って。
「世美先輩が今なら羨ましく思えるぜ」
とか言いつつ乾たちは先に進んでいった。
しばらく歩いていると少し木々が開けた場所に出た。小さな祠が有り何かが祀られている。そこは例の三人の生徒が私物である【シルバー色のケータイ】、【手鏡】、【形見のブローチ】だったりを失くした場所だった。
「ここいら辺か~。例の生徒の持ち物が失くなった場所は!」
「うん、目印の祠も有るし間違いないよ!」
「明らかに何かあるって感じね」
一年生トリオの面子は辺りを見回してみる。が、特に変わった様子もないようだ。風が吹き木々が揺れ、近くからカラスの鳴き声が「カァー、カァー」と鳴いているくらいだ。まぁ、君が悪いとは思う。
「こんな人気のない場所で物が忽然と消えるなんて、ふむ、ミステリーだね」
汐先輩は少し興奮気味に話した。大人びている普段とは少し違う先輩の姿がそこにはあった。
「そこの石の上に三人とも物を置いておいたら、いつの間にやら消えちゃってたんだって」
「人じゃないならやっぱりユーレ痛っ!?」
乾が最後まで言う前に愛の[面]が入った。鈍いバチーンという音が静かな森に響く。
「ゆっ、幽霊なんているわけないでしょっ! バカ犬!」
「竹刀でクリーンヒット出す前に口で言えっつーの武士女! 頭割れたと思ったわ!」
「いっその事割れちゃえば良かったんじゃないの! 閻魔様に裁いてもらいなさい!」
「そうなったら、お前の前に化けて出てやる。ついでにてめぇの姉ちゃんに今までの悪行を包み隠さず言ってやらー!」
「なんですってー!」
「やんのか!」
片方は竹刀を、もう片方は拳を造って構える。まさに一触即発状態っ。だったのだが――。
「いい加減にしないと・・・、僕も未々ちゃんも起こりますよ」
汐先輩が静かな怒りを露わにし、乾も愛も黙り込んだ。
「すいませんでした、丹田先輩」
「許してください、マジでお願いします」
二人がそう言って頭を下げて許しを得ようとすると――。
「なーんて・・・怒っていませんよ。二人共頭を上げてください」
「ホントに怒ってないんですか?」
愛が恐る恐る聞き返す。すると丹田先輩は――。
「ええ、今のはジョークの様なものですから。さぁ二人共、そろそろ本題に戻りますよ。困ってる人が実際にいるのだから」
これにて痴話喧嘩いやもとい相性の合わない二人のケンカはまた終わりを迎えた。
その後、四人で辺りを隈なく探したが特に変わった様子は無かった。ただ、地べたにはたくさんの【黒い羽】が落ちていた。鳴き声といい、【黒い羽】といいこれは――。
「カラスか?」
乾が不意にそう言うと前方を探していた高女と丹田先輩が振り返ってきた。乾はぎょっとしながらもその理由を述べた。
「いや、「カァーカァー」つー鳴き声やこの地面に散らばる真っ黒な羽といいそうじゃないかと思ってさー」
「単純よねー、考え方が・・・」
「あと、さっきから獣つーか鳥みたいな匂いがするんだよなー?」
乾は他の人々より異様に嗅覚が発達していて犬並みいや、それにも劣らないと言っても過言ではないと言える。
「というわけで・・・。愛、[手足]じゃなくて[目]を使え! 未々はよく[聞く]んだ」
「なんでアンタの命令を聞かなきゃいけないのよ!」
と、言いつつも高女は辺りに目をやり始めた。未々も「分かった、ガンバル」とコクっと頷き耳を澄ませた。
「どうだ? 何か分かったか?」
「急かさないでよ!」
「もうちょっと待って・・・あ、聞こえた! カラスさんの声、右斜め前の方向!」
未々の方が早く位置を聞き出した。その方向に愛が目を向ける。
「右斜め前の方向っと・・・あっ?! 見つけた、からすが二羽と巣、それに何か光ってる?」
愛も見つけ出した様だ。少し嬉しそうだ。
「よし、行くぞ!」
四人はその方向に歩き出した。