プロローグエピソード『五人の探偵』
これは五人の探偵の日常的な物語。「乾 拳」、「羽沙 未々」、「高女 愛」、「丹田 汐継」、「千手 世美」の五人によるお話。
『キーンコーンカーンコーン』
放課後の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「いつも通りの放課後……」
窓辺に立ち、黄昏てみる。俺には似合わないなとスグ思った。
「自分で言うのも何だが、早く来ちまったみたいだな」
ここは俺の憩いの場で有り、かつ仕事場みたいな部屋。ま、早い話が部室だ。
入部して約一ヶ月。この部に馴染んできた俺だが、いつもは来るのが一番遅い。別にこれといった理由はない。
「いつもなら先輩たちが来てるはずだけどな?」
そう思っていたとき、不意に部室の入口の方から声が聞こえてきた。
「ケンちゃん。また来るの遅いかなー?」
「そうじゃない? アイツの事だから」
聞き覚えのあるこの声は――。
「未々と愛の奴だな! 人を遅刻の常習犯みたく言いやがって」
何を隠そう無遅刻無欠席が俺の数少ない自慢の一つだ。部室に来るのがちょっとばかし遅いからって。拳はそう思った。
「ちょっと驚かしてやるか」
入口をはいった所に衝立が有り部屋を入ってすぐには部屋を見渡せないようになっている。その後ろ側に隠れた。
ガラっと戸が開く音がした。足音が近づいてきた。今だ。
「おいッ! コラっ!」
「きゃ―――――――――――っ!」
ドサッと一人は目を回して倒れ、もう一人は大絶叫。これは―――。
「よっしゃッ! 大成功!」
「大成功ー。っじゃないわよっ! 未々が気絶したじゃない!」
「それは、お前のでっけー悲鳴でだろ。こっちもビックリしたずぇッ――?!」
バチーンッと、衝撃が走った。痛覚と共に。
「痛えーな。何すんだよ」
前を見ると愛が手に竹刀を持って立っていた。少し頬が赤味を帯びていた。
「先に手を出したのはアンタでしょッ。バカッ!」
「んだと。バカ言ったほうがバカだろバカっ!」
そう言うとこっちに竹刀が振り下ろされる。が、今度はひらりと交わす。
床に竹刀が当たる。バチーンと快音を響かせて。
「ケンカはダメだよー。二人共!」
未々が気絶から目を覚ましたようだ。起きるなり仲裁を始めた。
「未々は黙ってて。コイツは痛い目に合わないとダメなのよ!」
「痛い目見るのはどっちだろーな。キャー子ちゃん」
「このっ!」
「はい、そこまで。元気だねー二人共」
入口の方から若い男の声でストップの声がかかった。
そっちの方向に目をやると二人分の人影が見えた。
部室で見慣れた眼鏡を掛けた女子生徒と制服をきっちり着こなしている男子生徒が立っていた。
「世美先輩に汐先輩。ちーす」
「部長さん副部長さん、こんにちわー」
「先輩方、聞いてくださいよ。拳が私たちを……」
「驚かした結果、ケンカになり今に至ると?」
汐先輩の一言に俺たちはびっくりした。なんでさっきまでこの場に居なかった汐先輩がまるで見ていたように知っていたのか。
「何でって顔してますね、乾くん」
汐先輩の横にいた世美先輩が続けてこう話した。
「理由は簡単です。乾くんと高女さんの性格と癖です」
「???」
どういうことだという顔で俺と愛は互いを見合った。
「まず乾君と高女さんの事だからどちらかが先に何かをしたんだろうね、いつもそんな感じだから。それに床に昨日まで無かった傷が出来てる、それもまだ新しい」
「察するに何らかの形で口論になり、ケンカが始まった。予想が付きますね」
たった一ヶ月の付き合いでよくそこまで分かるなーと感心してしまった。
不意に下に目をやると世美先輩が床に出来た傷を触っていた。と、思えば次に愛の持つ竹刀を触った。そして一言。
「この傷を付けたのは高女さんですね」
「なんで分かったんですか?」
愛は驚いていた。いや、手に竹刀持ってるのにノーマークな訳ねえだろ。
「床の傷の形状とあなたの竹刀の先が同じなのです!」
出た、「世美先輩の触診」だ。
世美先輩は「触覚」が普通の人よりも敏感で事件に関係のありそうな物だったり人だったりを触れることでヒントを得る。それを推理に活かすのが世美先輩の推理スタイルだ。
「人呼んで、心ノ手探偵!」
「なんでケンちゃんが自慢げに言うの?」
未々にツッコまれた。確かにそうだ。
「はい、じゃあケンカと推理はここまでにして活動を始めようか。僕はお茶の準備をするから他のことは頼むよ」
そう言って汐先輩は部室の奥に姿を消した。
世美先輩は近くに有った椅子に腰を下ろし読書を始めた。眼鏡をクイッとして。
「俺たちはどうするか?」
「先輩たちは部室に残るみたいだし、私たちは「事件探し」にいかない?」
「うん、そだねー。私たちの得意なジャンルだしねー」
「おしっ!決まりだな。そういうことで先輩たち留守番お願いします!」
世美先輩は目線は本に夢中ながら手を振って、汐先輩は帰ってきたら茶を入れるみたく言って俺たちを送り出した。