第1章 2 自称【上級】、魔法少女現る
【自称上級魔法使い】の高笑い女は、団子屋の屋根の上でご立派に俺を救ってやると声を荒げた。
「なんだあんた?わざわざそんなとこ上って何やってんだ?」
素直に思った事を口に出してしまった。
「聞こえなかったか。この私、上級魔法使いのリリアル・フェローが、子供に泣きつくほどに困っている貴様を救ってやると言ったのだ」
「いや、別に泣きついてねぇし。てか、なんでわざわざそんな所に上ってるのか?と俺は聞いたんだが・・・」
「それは、貴様のような下位勇者を見下してやろうと思ったからだ。なぁはっはっはっはっはっは。無様だな!」
「なんだろう、すげぇムカつく」
【自称上級魔法使い】の高笑い女は、俺を見下しながらお得意の高笑いを続けた。
「なぁはっはっはっはっは・・・っあ」
高笑いを大袈裟にやりすぎた女は、上半身を反りすぎたあまり、右足を滑らせ、思いっきり屋根の外側に飛び出した。
「あっあっ!」
高笑い女は空中でジタバタと手足を振り回し、そのまま地面にお尻から着地した。
「いだぁぁぁ!!痛い痛い痛い!!!」
あまりの痛さに、地面をゴロゴロと転がり回る高笑い女に、俺と子供たち一同は冷たい視線を送っていた。
「・・・変な姉ちゃん、なにしてんだ?」
赤髪の少年は困惑の表情を保ちつつ、疑問を投げかける。
転げ回っていた体がピタッと止まり、高笑い女はシュバッと素早く起き上がった。
「私はこの世界を旅しながら、ある女を探している上級の魔法使いだ。そこの【漆黒の勇者】に、少々心を乱されてしまったが気にすることはない」
「俺なにもしてねぇよ!お前が勝手に足滑らして落っこちただけだろ!あと恥ずかしい呼び方やめろぉ!!」
「・・・なんだ?【漆黒の勇者】ってかっこいい響きではないか。我ながら、なかなかにネーミングセンスが冴えたと思っているほどだ」
「冴えてねぇよ・・・」
「と、まぁ、本題から随分とずれてしまったな。話を戻そう」
「いや、ずれたのはお前が屋根から落っこちたからであって、・・・んん、まぁいいや、話を戻そう」
【リリアル・フェロー】。そう名乗る【魔法使い】のこの女。つばが大きめの紫色のハット、所謂【魔女がよく被っている帽子】を頭に被っており、ハットのてっぺん部分はギザギザに少しへたっている。首には赤い小さなリボンを結び、セミロングといった長さの黒髪。少し女子高生の制服にも見える白シャツを纏い、下は、暗めの灰色をしたスカートを履いている。が、膝より少し上に丈があるため、細く健康的な透き通った白い脚が目を奪う。さらに、紫色のマントを羽織り、紫色のブーツを履いているため、全身を紫で覆っているような感じだ。片手には自身の身長と同じ程の茶色い木製の杖を持っている。
この容姿からして、一応【魔法使い】であることに間違いはないだろう。【上級】であるかはまた別だが。
身長は、俺が170㎝なのに対して、ちょうど目の高さぐらいだから150㎝か、それよりちょっと大きいぐらいか。歳は、おそらく俺より少し若いくらいだろう。
顔は目鼻立ちがはっきりしているため、割と可愛い。だが、痛い。なにより、キャラが痛い。なんだこいつ、中二病か?
いや、一応ここは異世界なので、こいつのようなへんてこりんなキャラがいても、なにもおかしな話ではないのかもしれない。では、別に中二病とは言えないか・・・。
とにかく、俺たちはわちゃわちゃとした軽い空気を一旦捨てて、最初の話に戻した。
「え~と、たしか、あんたが俺を救ってやるって言ったな。あれはどういうことだ?」
「貴様がいま一番欲している物は既に把握している」
「えっ?」
「・・・これだろ?」
へんてこ魔法使いのリリアルは、スカートのポケットから金色に輝く1枚の硬貨を取り出した。それを、俺の目の前に差し出す。
金貨だ・・・。
おそらくこの世界のお金にあたるその金貨を、リリアルはフフンッと我が物顔で見せびらかしてくる。
この女さすがだ・・・、とことん俺をムカつかせてきやがる。
しかし、確かにこの女が見せびらかしてくるこの金貨は、いま団子屋から動けない俺にとって最も必要としているアイテム。これが無いと、俺の異世界大冒険は不覚にもこの団子屋内だけで終わってしまう。そんなの、わざわざ恥ずかしい格好で転生してきた意味が無くなってしまう。
ならば、ここは仕方ない・・・。
この女、リリアル・フェローに、頭を下げてお願いするしかない。
・・・お金を・・・貸してください・・・と。
「ふぅ、よ~し分かった、リリアル・フェローよ」
「様を付けろ。無礼なやつめ」
「うぐ・・・、リリアル・フェロー様よ。どうかこの俺に、その金貨を貸していただけませんかぁ?」
「言葉が足りない。『どうかこの豚野郎に、偉大なるリリアル・フェロー様の金貨を貸していただけませんか?』とまで言えないのか貴様」
くそぅ・・・ほんと生意気だなこの野郎・・・。
「どうかこの豚野郎に、偉大なるリリアル・フェロー様の金貨を貸していただけませんかぁ~~?」
「ふふ・・・」
生意気なリリアルが不敵な笑みを浮かべる。
「断る!」
「はぁ!!?」
俺は思わず声を荒げてしまった。無理もない。なぜなら、屈辱の思いでこの生意気な小娘に頭を下げて金を貸してくれと頼み込んだのに、あっさりと拒否されてしまったのだから。
「なんでだ!?さっき俺を救ってくれるって・・・!」
「タダで貸すとは一言も言った覚えはない」
た・・・確かに。
「じゃあ、何をすればいい?」
「んぅ~~そうだなぁ~~・・・」
リリアルは右手の人差し指を顎にちょんっと当てながら、目を閉じて5秒ほど唸り続ける。そして、何かを思いついたかのように目を見開いた。
「服を脱げ」
「・・・」
「・・・」
「・・・はぁ?」
リリアルの命令に、俺だけでなく子供たちもぽかんとする。
「だから服を脱げって言ってんのよ!」
「・・・急に何を言い出すかと思えば、服を脱げ?って、お前頭おかしいんじゃないか」
「何がおかしいの?貴様に存分の屈辱を負わせるには、当然の命令だと思うけど」
「あぁ~~、なるほどね・・・」
あたかも、私は当然のことを言ったまでよ。みたいな表情で言ってくるものだから、俺もさすがに言葉が出ねぇ・・・。ただ軽蔑の目でそいつを見るぐらいのことしか出来なかった。
「まぁ、なんにせよ、それがお前のお望みであるならしょうがねぇ。俺はやる時にはやる男だぜ」
「・・・え。あんた、まさか」
俺はズボンの腰に手を置いた。
「・・・しっかり見とけよ、俺のシンボル!」
「ちょ、ちょっと・・・!あんた、なんか勘違いしてない!?」
「さぁ、いくぜリリアル。これが俺の!本気ってやつだぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
心を決めた俺が、全力でズボンを下ろすと、リリアルは顔を真っ赤に赤らめて悲鳴のような声を上げた。
「へっへっへっ。どうだリリアル。俺が怖気づくとでも思ったか?」
「バカァ!!誰がズボン脱ぎなさいって言ったのよ!!」
「なんだ?服を脱げって命令したのはお前だろ?」
「服を脱げって言われたら、普通は上脱ぐでしょっ!!?」
「いや、そんなことないだろ。普通は下だろ」
「もう、そんなこといいから、早くズボン上げなさい!!!」
「うぃ~っす・・・」
リリアルが両手で顔を抑えてしゃがみ込んでしまうので、仕方なくズボンを上げる。
子供たちも見ているため、さすがにパンツまでは下ろさなかったのだが、それでも十分にリリアルを驚かせた。
「ほら、命令は一応聞いたんだから金貨貸してくれよ?」
「好きにしなさいよ変態っ!」
俺が手を差し出すと、リリアルはしゃがみ込みながら金貨を俺のもとに投げつけた。
「サンキューな、リリアル」
俺は金貨をキャッチし、リリアルに向かってニィッと笑った。
これで無事に次へ進める。俺の異世界大冒険はこれからだ。
***
俺は無事に会計を済ませ、団子屋を出ることができた。気にかけてくれた子供たちとも別れを告げ、今は村の出入り口に向けて足を進めている・・・のだが。
「なぜお前はついてくる。リリアル!」
「なぜって、助けてあげたからに決まってるではないか」
なぜか、リリアルだけは俺のすぐ後ろについて一緒に歩いていた。
「まぁ、確かに助けてはもらったけどよぉ、一緒についてくる理由にはならんだろうが」
「貴様、何を言っているのだ!まさか、助けてもらったくせに、恩返しもせずに立ち去ろうとしているのか!この恩知らずめ!!」
「いや、別にそういうつもりじゃないが・・・」
ごもっともな意見に少し冷や汗をかく。
「で、何で返したらいい?お金は手に入るまで返せないけど」
「願いはすでに決まっている。あの女を一緒に探してもらうんだ」
「あの女?」
「ああ、あの空飛ぶ【浮遊女】だ」
ん?空飛ぶ・・・。
この瞬間、俺は何かを思い出しかけた。