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訳あって異世界に転生した俺は、中二病に逆戻りした  作者: めかぶ
プロローグ 黒歴史
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プロローグ

 『俺の設定ノート』

 大学ノートの表紙に、黒いペンで雑に書かれた文字。俺はそのノートをパラパラとめくっていく。

 『ダークブレード』

 『ダークブレス』

 『ダークローブ』

 『デビルズアイ』

 などなど、普段あまり聞かないような名前がいくつも並べられている。どれも取って付けたような名前のありきたりな武器も描かれており、そのほとんどが黒。どれも黒。どこを見ても黒。とにかく黒。すべての武器が黒色で塗られていた。ほとんどの名前がダークなだけあって、剣も装備もアクセサリーも、すべてが黒で統一されている。

 う・・・。痛い。

 いや、別に足をどこかにぶつけたとか、顔面を誰かに殴られたとか、そういうことで痛いわけじゃなくて・・・。このノートに描かれている武器やら能力やらセリフやら、何もかもがとにかく心に響いて、とても痛い。ジンジンと少しづつ俺の(精神的な)体力ゲージを奪っていく。いや、蝕んでいる。俺の誰にも見せられない痛い過去が、俺の精神を蝕んでいる。


***


 いま、17歳の俺は、私立の高校に通っている。つい2年ほど前まで、俺は自分が選ばれし存在だと勘違いしていた。いわゆる中二病と呼ばれるやつ。とにかく自分だけは自分だけはと大した頭脳や力も無いのに、まるでアニメや漫画の主人公にでもなったかのように武器や必殺技を考え、挙句の果てには日常会話もその設定とやらに侵食されてしまう。他人と普通の会話が出来なくなるほどに意味不明な発言が零れ続け、気づいた時には、すでに友達を失っている。

 おれは、それを経験した。

 中二病とは、それだけ己を破滅しかねない恐ろしい病気だ。


***


 『眠れ、その意志とともに』

 これが、とどめの決め台詞。ノートにそう書かれていた。

 「はぁ、なにやってんだろうな・・・おれ」

 虚しくため息が零れ、呆れたように少し口元が緩む。

 俺はパタンッとノートを閉じ、机の上にそっと置いた。

 部屋の周りを見渡すと本やダンボールがずらりと広がっていて、足場も無い状態だ。

 「そういや、片付けの途中だったな」

 部屋の大掃除をしている最中に、昔の忌々しいノートを見つけてしまい、読んでいる間に掃除の手が止まってしまっていた。


***


 数日後の朝。俺はいつもの通学路を歩き学校へ向かっていた。

 大きな坂道で、けっこう急な斜面になっている。下る際には、少しかかとに体重を預けながら歩くぐらいの斜面になっている。

 少し不便な道である気もするが、高さがある分、坂を下るときに目の前に自分の住んでいる町を眺められる結構いいスポットだと思っている。

 向かい風もなんだかんだ気持ちいい。ちょっと強めな気もするけど。

 俺が青空の下、優雅な通学を楽しんでいると、ふと不思議なものが目にとまった。

 雲ひとつ無いような青空に、何かが浮いている。

 「ん?」

 俺は足を止め、目を細めてその浮遊物を見つめる。

 「まさかあれ・・・人?」

 俺には人に見える。若干ショートな白い髪に、おへそを出した黒い服。そして少し短めの黒いスカート。すらっとした白い脚を存分に露出し、ふくらはぎの下辺りまで覆った黒いブーツを履いている。

 女の子だ。

 そして何故か、俺のほうをジッと見つめている。ように見える。自意識過剰かもしれないけど。

 「・・・」

 いや、見てる。絶対俺のこと見てる。

 え、なに?急なモテ期?最高かよ。

 いや、でも普通に考えておかしい。

 だってあの子、空飛んでるもん。

 空飛ぶ美少女と急なラブストーリーとか頭おかしすぎだろ。

 うん、頭おかしい。

 うん・・・。いや、そうでもないかも。けっこうアリかも。

 夜空を二人で飛び回りながら、夜景を見下ろしデート。

 やばい。めっちゃ夢あるじゃん。どこぞのスーパーヒーローかよ。

 まぁ、でも、空飛ぶの俺じゃなくて彼女のほうになっちゃうけど。

 などと、俺がくだらない妄想に浸っていると、おそらく人間の女の子であろう浮遊物がこちらに向かって飛んでくる。

 「え!?」

 気づいた頃には、時すでに遅し。俺は、首をはねられていた。


***


 「んぁ・・・」

 目を開けると見覚えのない場所にいた。

 周りには八百屋や武器屋らしきものがちょこちょこと見当たる。

 武器屋・・・か。はは。

 どこだよここ。見たことない町なんだが。いや、村か?

 まさか、あれ・・・か。

 異世界・・・か。

 異世界に連れてこられたのか、俺は。

 確かに、よく見ると動物が服を着て二足歩行で歩いていたり、鎧を着た屈強な男たちが群がっていたりと、見るからに異世界だと言わんばかりの特徴が視界に入る。おそらく薬草で作ったであろう飲み物が売られているお店もある。

 「これが異世界か」

 と、まぁ、お決まりのセリフも言ったとこで、俺がなぜこの世界に呼ばれたのか考えなくてはいけない。

 そもそもこの世界に俺はどうやって来たのだろう。

 何も思い出せない。たしか通学中だった気がする。しかし、それ以上思い出せない。

 思い出せないことを無理に思い出そうとしても時間が経つだけ。と、考えるとまずは俺がここに来た理由を考えるのが先か。異世界となると、おそらく考えられるのは勇者として魔王を倒すとかかな。

 他に考えられるとすれば何か・・・ん?というか、そんな事よりさっきから気になってた事が一つある。

 異世界RPGというのは、まず弱い武器と防御力の低い鎧を着てるものだとばかり思っていたが、見たところ俺は異世界に来てすぐだと言うのに、妙に服装や持ち物が整っている。

 黒いシャツに黒いローブを羽織っている。両手に黒い手袋、背中に黒くてごっつい大剣を背負っている。そして手首には、まるで悪魔の牙で作ったかのようなギザギザとした黒のブレスレット。何もかもが黒い。全身が黒に包まれている。

 だが、問題はそこじゃない。なによりの問題は俺が身に着けている物がすべて見覚えがあるということだ。そう、俺が身に着けている物はすべて、2年前に俺自身が考えたあの忌々しい中二病設定を書き連ねたノートに描かれていた、黒く黒くとにかく黒く色づけられた痛い格好だったのだ。


 「異世界、ばんざーい・・・はは」


 俺は、ただ笑うことしかできなかった。

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