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Hand in Hand  作者:
特区、降下編
49/60

手のかかる奴 2

久々

「あんのクソガキが!」

 私はたまらずデスクをぶっ叩いて怒りを発散しようとする。しかしそれは逆効果だったようでむしろ何かイライラが増えた気がする。

 あいつは今オブジェクトや特区戦闘員の攻撃を掻い潜って飛び込んだ通路を走っている。確かこの通路を少し行った先に大脳があったはずだ。あくまでもレドーニアの言っていたことが正しければ、だが。

 彼女が最初から裏切る前提で行動していたのなら、その大脳の情報も虚偽である可能性が高い。加えて既にその情報を利用してしまった後ではあるが先のオブジェクトや四足歩行戦車の性能データも、回収した特区の研究データも予め作られた餌かも知れない。もしそうであればオブジェクトや四足歩行戦車にはまだ隠された機能が存在しているかも知れないし、特区にはまだそれ以外の隠し玉があるのかもしれない。情報が錯綜し現場が混乱に陥るという事がないようにオペレーターである私たちは常に情報を追わねばならない。

 だというのに、だ。

 その情報が虚偽である可能性もあり、尚且つ裏切り者であるレドーニアを救出しに戦場を離れるなどあのバカは一体何を考えているんだ本当に。

 確かにレドーニア・ハワードライトの境遇には同情する。生まれも恐らくあまりよくない。確か彼女の両親は特区に見せしめで殺されているはず。その復讐をしようと動いたのが彼女の兄であったあの名前もない男。そして今度はその妹が兄の復讐のために動いている。特区というものは本当に。ただでさえ地上側その周辺国に許容できないだけの影響を及ぼしかねない存在だというのにだ。外だけでなく内側もここまでひどい物なのか。敵とは言えやはり腹が立つというものだ。本当に同情する。本当に。

 しかしだからと言って味方を危険に晒しても良いかと言えばそうではない。今回の任務は情報収集だ。子供たちの救出は言葉は悪いがついでだ。そしてそれはもう終わっている。今回の任務が最初からレドーニア・ハワードライトの救出だったのであれば多少の危険を冒しても行動すべき場合もあるだろう。

 だが今回は違うのだ。

 違くないのだとしても危険を冒す、冒さねばならない場合も考慮し、しっかりとした準備を行った上で実施するのが常。軍人は決して案山子ではない。まして自殺志願者の集いでもないのだ。救出任務であったとしても救出対象のために死んだのであっては意味がない。救出対象を連れ帰って初めて救出任務達成だ。今の状況ではそれは、かなり厳しいものだ。それをあいつはわかっているのだろうか?

 しかも問題は瀬戸大輝だけではない。不破真琴だ。彼女もまた、瀬戸大輝に追従する形で戦線から離脱した。指揮系統である我々オペレーターを何だと思っているんだ。せめてこちらに何かしらのアクションをしてから行動に移してほしいものだ。でなければこちらの対応も後手後手になってしまう。刻一刻と状況が変化し、それを常に掌握していなければならない戦場では状況の逐次報告、行動の前後での確認が必須だ。しかしあいつらはそれを一切考えていない。考えていても多分実行はしない。軍人としての自覚はあるのか?確かに単騎であれば下手な連隊よりも戦力を保有していると言って過言ではないあの二人、さすがは人類最強、最悪の名で呼ばれるだけのことはある。

 だがしかしだ。

 軍隊とはそれではいけないのだ。確かにならず者荒くれ者の多いこの業界、普通の軍隊とは違い命令を聞かない者など彼らだけではなく割といる。それでもこの業界や各支部、派閥が崩れずに保っていられるのはそれこそ瀬戸大輝や不破真琴他が己が実力で他の実力を補ってくれているからに他ならない。手空きの新人や雑魚を集めた連隊を仮に百集めたとしても、私は瀬戸大輝の単騎作戦を上層部に推奨するだろう。それほど数の暴力すら瀬戸大輝ら程のレベルに達すると質で覆して見せる。

 だから彼らには理解してほしいのだ。自分たちの存在意義を。

 強い者が弱い者より率先して戦うのは素晴らしい事だ。しかし盾になったのであっては意味がない。盾になった結果弱い者だけが取り残されてしまえば仮に億人いたとしても所詮烏合の衆、どの道全滅する。

 であれば過不足の無い正しい規範に則って行動し、強い者も弱い者も生還できる方法を選べばいい。ないのなら作ればいい。どうしてもないのなら逃げてしまえば良い。敵前逃亡で銃殺だなんて時代ではないのだから。

 だから何も彼らが何を置いてでもわざわざ核の着弾地点に特攻するようなことをすることはないのだ。というかしてはいけない。そんな事をすれば取り残された者はどうする?そもそも今戦っている者達はお前を救出するために来たんだぞ?なのに何故また危険地帯に自ら進んでいく?レドーニア・ハワードライトの救出だっていっそ一度撤退して、その後日を改めて行えばいい。負傷した状態でなど選択肢に挙げるのすら馬鹿馬鹿しい。

 そもそも繰り返しになるがレドーニア・ハワードライトに関してだってこちらに提供してきた情報が正しいとは断言できない。特区が開発した、あるいは研究している物事の情報の確たる証拠はない。何せ彼女は一度は協力関係を結びながらも裏切ったのだ。それが最初から仕組まれていなかったものとは考えにくい。だから最初から情報を取られる前提で偽物を用意していた可能性があるのだ。誰だって見られたくない物があるのなら隠すか何かしらの偽装を行うだろう。当たり前のことだ。まあ私もそうする外なかったとはいえ特区の戦闘機器であるオブジェクトや四足歩行戦車の情報を基に瀬戸大輝に指示を出したわけだから人中利も責めてはいられないのだが。

 しかしともかく、こうあっては仕方がない。二人が抜けた戦場はもちろんだがその戦線を離れた二人の情報、状況を再確認し全体の指揮を行わなくてはならない。

「各部隊長、状況を」

 私はとりあえず瀬戸大輝たちをおいてまずは規模の大きい方を優先しようと現在特区戦闘員と戦闘中の友軍確部隊長に無線を飛ばす。そうしつつも彼らのゴーグルやバイザーから送られてくる映像を出来る限り視界に納め、状況の把握に努める。

『状況としちゃあ良くも悪くもだな。連中、訓練自体はなかなかのようだが手練れはあまりいない。しかし訓練だけはしっかりやっているようだ。個人個人で見ればなかなかの軍人だよ。あくまでも一般的な軍人基準で、だがね。だがやはり経験かな、さっきの俺らの突入で部隊としての形が失われている。しかし数が多い。戦闘力で見れば問題ないが時間的問題も出てくる。そこの判断は上に任すさ。とりあえずうちの部隊は死者二名、負傷脱落四名、継戦は問題ない』

『こっちも同じ状況だ。戦闘員自体は各個撃破を徹底すれば確実に抑えられる。だがやはり数の問題だね、こちらがどれだけ一人一人潰そうとしても向こうは数十人で固まってるんだ、むしろ一人一人やる方が難易度高いかもな。うちは死者五名、負傷脱落二名、今のところはまだやれるが今の内から交代部隊の用意をお願いしたいね。敵の根城で孤立はしたくないんでね』

『先の二名同様抑えるのは難しくない。だが潰して回るのはまた違う話でね、オブジェクトやらも動き出した。増援か交代要員を用意しておいて、長期になるのなら交代しつつの継戦が望ましいんじゃないかな。今ある部隊だけで特区の戦闘員を全滅させるのは少し現実的じゃあないね。俺たちは人類最強とかみたいな人間を捨てた力を持ってるわけじゃない。常識的なやり方で頼むわ』

 そもそも常識的なやり方を選ぶなら瀬戸大輝を殴って気絶させてでも撤退すべきだった訳だが、もっと言えば瀬戸大輝一人のために部隊を総動員させたのもなかなかの握悪手、せいぜい撤退支援か機会を窺っての占有による救助が望ましい。まして連中は交渉など聞く耳も持たないだろうから荒業で攻めるしかないのだがそれにしたってこの方法はなかなかに愚行だと思う。言ったって栓の無い話だけれど。

「了解。交代要員は問題ない。後続が待機している。継戦が困難と判断できたなら動けなくなる前に余裕をもって通達、その後各個に撤退を。引き継ぎはいらない。身の危険を感じたなら逃げてかまない」

 そう告げてから各々の返答を待たずに視線を次に向ける。瀬戸大輝のゴーグルが撮影している映像を表示するモニターだ。とりあえず今は立ち止まって不破真琴が瀬戸大輝の傷の手当てをしているようだ。

 まあ特区だ、普通だったら気にする事でもない事でも過剰になるくらいが丁度いいだろう。生物兵器がないとも限らないのだから小さな傷だって慎重に考えるべきだ。そういう点では不破真琴はなかなかしっかりしている。まあ彼女の場合は瀬戸大輝以外にはそのような部分を発揮していくれないから少し微妙なところだが。

 しかしまあ問題としては瀬戸大輝はレドーニア・ハワードライトを救出する気でいるという事で、不破真琴は確実にそんな瀬戸大輝についていくだろう。お互いに少し共依存なところがある彼らだがここまで行くと少し心配になる。

 少しは、特に不破真琴は自分というものを大事にするべきだ。瀬戸大輝は自己犠牲精神で動いているような物だからもうそれはここでは言うまい。しかし不破真琴は自己犠牲で動く人間ではない。どちらかと言えば他人などどうでも良いとばかりに基本的には自分をメインに動く人間だ。しかしそれはあくまでも瀬戸大輝がいなければ、だ。

 彼女も瀬戸大輝と同じくかなり危ういと言える。彼女は瀬戸大輝がいなければ駄目になるタイプだろう。瀬戸大輝がいる事で、瀬戸大輝を気遣う事で世間一般での良心や善意というものを保っているがしかしそれがなければ不破真琴は恐らく瀬戸大輝以上に残虐性を含んだ人間性を露わにするだろう。

 数年前、瀬戸大輝がまだこちら側に来ていない頃、まだ普通の小学生として生活していた頃だ。まああの頃が普通だったかのと問われれば私は首を振るだろうけれどともかく、その頃不破真琴は瀬戸大輝の同級生を殺害している。

 正確な情報、詳細は不明だが、瀬戸大輝を虐めてからかっていた同級生三人組程だったか、をバラバラに解体し、その後マンホールから下水路に遺体を遺棄している。それもかなり凄惨な物で、写真などの記録も参照したが恐らくあれは解体した後も蹴飛ばすか踏みつけるかしたのだろう、一部の骨や皮膚が傷めつけられていた。

 そして何より正確な情報が不明なのは彼女の手口があまりにも隙がなかったからだ。

 恐らく周囲の監視カメラなどの位置、視界を元から把握していたのだろう、犯行の動向、軌跡が未だにわかっていない。たまたまその頃から要注意人物として危険視されていて有名だった彼女を知っていた人間が運よく非番であり、犯行現場周辺で彼女を目撃していたのだ。それがなければあの事件は迷宮入りかそもそも発見されていなかったかも知れない。まあなかなか未発見は現実的ではないがそれでも犯人の特定は不可能だっただろう。その目撃した非番の者がもしやと思い念のため上層部に通報し、上層部が各所を動かしたことであの遺体の発見に至ったのだ。本当に運が良かったと言えよう。

 ともかく、彼女が殺したのは証拠はないが間違いないのだ。そしてその殺した理由としても恐らく瀬戸大輝が虐められており、虐めた張本人たちがその三人だった、理由としてはそれだけだ。

 虐めを正当化するわけでも、子供のする事だと切り捨てるほど私は子供というものを舐めているわけではないしもちろん虐めはあってはならない物だとそう思える分には私だって大人なつもりだ。しかしだ。

 小学生が、虐められた友達のために、同級生を殺すものか?殺せるものか?

 いいや普通なら有り得ない。普通なら先生にチクるか漫画みたいに止めに入るかだろう。そのどれでもなく真っ先に浮かんだ選択肢が「殺してやろう」だったのだとしたらもはや狂気としか言えない。

 今の彼女が瀬戸大輝に対して特別な感情を持っているのは誰から見ても多分明らかだ。有り体に言えば恋愛感情だ。別にそれを否定するわけでもないし年相応の感情だと思う。しかし件の凶行がその恋愛感情から来ているのだとしたら愛情が歪み過ぎている。見た目こそサバサバした男勝りな不良少女のようだが彼女は彼女で他者依存が強いのだろう。

 だから多分彼女は瀬戸大輝に何かあれば暴走しかねないしもし瀬戸大輝が死にでもすれば逆に行動不能になるかもしれない。彼女は瀬戸大輝以上に不安定だ。正直に言えば不破真琴と瀬戸大輝は独立した関係になって欲しいものだ。最終的に行くとこまで行くんだとしてもその時にお互いがお互いに寄りかかっていてはいずれ共倒れだ。気付いてくれればいいのだが……。

 いかん少し私情を挟んだ考えをしてしまった。今は集中せねば。

 しかしこの現状を生み出しているのだってその不破真琴の瀬戸大輝への執着が原因とも言える。彼女は瀬戸大輝への信頼は厚いがそれと同等かそれ以上に心配というのか瀬戸大輝を危険な目に合わせるくらいなら自分で、という考えをする。それが叶わないなら自分も同行しようとする。今回の任務で不破真琴がそうしようとしなかったのは運がいい。単純な潜入任務、としか基本的には通達されていなかったから問題ないと思ったのだろう。もし最初からこのような事になると分かっていれば彼女は止めても聞かない程に任務への参加を志願しただろう。まあ普通の考えを持っていれば敵の本拠地への侵入となればそうなる可能性は非常に高いと分かるものだろうがそこ辺りがまだ彼女には足りないのか、不安定な判断基準故になのか、だろう。心配と信頼がその時の感情によって不安定なのだろう。

 しかしだからこそ冷静に物事を見れるようになってほしい。終わった事を言っても詮無いが出来れば不破真琴は戦場に残って欲しかった。瀬戸大輝が心配なのはわかるがそれ故こそ瀬戸大輝が後ろを気にせずに動ける環境を彼女には作って欲しかった。そこが彼女にはまだわからないのだろう。瀬戸大輝に恋愛感情を持つのは構わない、が自分が惚れた男には付き従うだけが女ではない。時には手放し、一人で行動することも大事なのだ。そこがまだ彼女は子供だ、わかっていないのだ。

 いやまあ考えても仕方ない。ともかく今は状況に集中しよう。なってしまった出来事を悔やんで愚痴ばかり言っても変わらない。なってしまった状況、状態からどう動くかが重要なのだ。切り替えろ私。

 とりあえうず今、戦闘が行われている区域では数人の死者に加えて負傷して撤退した者が数人。戦闘自体にはそう影響はないが繰り返されれば言うまでもない。今彼らが戦っているのは敵の本拠地だ、戦闘が長引けば長引く程不利になっていくだろう。こちらの増援だって今待機している者達の後にも当然控えているがどうしても時間差が生じる。しかし特区側はそうはいかない。やろうと思えば一秒後にでも増援を送ることだってできるだろう。こちらはそうはいかない訳だからどうしても後手に回ることになる。

 そしてそれだけではない。特区の兵器だ。

 戦闘員だけでも数的に見れば十分以上な脅威だが、しかしそれ以上に厄介なのはやはり兵器。こちらと違い科学力的に勝る特区の兵器は我々の想像を簡単に超越する。人工知能を搭載した二足歩行の機械兵、オブジェクト、履帯を捨て、四肢に別ける事で機動性、壁や天井を駆け巡る圧倒的馬力を持つ四足歩行戦車。それらのデータは一応手元にはあるがこれが全て事実なのかわからない。まだまだ隠し玉があった場合、データがない分こちらの対応はどうしても遅れる。もう少し様子を見る行動を取らせるべきか。

 いやそもそもアレらの破壊はどうするべきか。瀬戸大輝の刀は入らなかった。なら個人携行火器程度で太刀打ちできるものか?対物兵器だって一人一人持っていたとしてもそう持ち歩けるものではない。オブジェクトだけでも100機投入だってあり得ない話ではない。核ミサイルでも出さなければその場合は対応出来ようがないが。

 片桐椎名によるシステムへの介入だってそうそう出来る事ではないし一度は行動を停止させるには成功したが直ぐに復旧された。という事は恐らく今もそれの対策のためにシステムへの監視を行っているだろう。彼女でも不可能とまではいかないだろうが恐らく時間がかかる。あまり期待していると失敗した時の状況にも影響が出る。出来たらラッキーくらいの考えでいるべきだろう。

 というか今思えば瀬戸大輝らがレドーニアを追いかけるのを誰も止めなかったのか……。いや一人がむしろそれに了解の意を示す無線を送っていたな。あとで誰だったか探してやる。覚えてやがれ。

 まあ今は作戦の流れを再構築する事を考えねば。いかんな、さっきから直ぐに思考が脱線してしまう。集中だ。今戦場で戦っている戦隊は我々が作戦を練るのを待っている。いつまでも「ただ戦え」では士気が落ちる。軍人には明確な目的が必要なのだ。

「黒木、作戦を練りたい。どうしたらいい」

 私は隣でモニターを見つめながらキーボードを叩いていた黒木に意見を仰ぐ。自分だけではこの状況を打開する方法は浮かばないだろうし、今の集中しきれていない私ではむしろ下手な考えが浮かびそうでならない。

「出来るのなら瀬戸大輝らの方にいくつかの部隊、最低でも三個小隊クラスの人数の援護に向かわせたいわね。いくら瀬戸大輝と言えどレドーニアの救出あるいは撃破と並行しながら特区要員との戦闘や大脳の破壊などを行うのは至難の業でしょう。少なくとも相応の時間が必要。だからせめて特区要員かレドーニアの意識を少しでも引き付けられるように瀬戸大輝らの近くで暴れてもらわねばならない。こうなってはもう瀬戸大輝たちには出来るだけ動きやすい環境を作ってやるくらいしか出来ない」

「そうね。でもぶっちゃけこれ以上の継戦は避けたいところだ。長引けば長引く程敵の増援は増えていくだろう。それを考えたら戦力の分散も考え物だ。もちろん状況的にはそれが一番わかりやすくて適切だとは思うが……」

「しかしどの道瀬戸大輝と不破真琴の二人では戦闘時間を延ばす結果となってしまう。確かに現場を考慮すればより大規模な戦域を優先したい気持ちもわかるけど『作戦』という考え方であればそうするしかないわ。今回の作戦はあくまでも大脳の破壊と、レドーニア・ハワードライトの救出あるいは撃破にある。それを出来る限り早く終わらせることが結果的に全体の負担を減らせる唯一の方法よ。少なくとも今はね」

「だがな……。あいつはどうだ?瀬戸大輝と不破真琴の娘。あの怪力なら暴れ役には最適だろ?それと楓でも組ませれば事足りねえか?」

「残念だけどそれは駄目。彼女らを抜くとオブジェクトを破壊できる数少ない人員を除外することになる。そうなれば一気に大打撃を受け、それこそ継戦どころではなくなる。不破真琴が抜けた時点で彼女たちは固定人員よ。除外なんて出来ない。そもそも彼女らが私たちの言う事を聞くとも思えないし共闘してくれるとも思えない。楓は黒崎真狩に先日殺されかけて相当嫌っている、絶対に無理ね」

「橘は?」

「確かに彼女は二丁拳銃使い、狭い空間での戦闘が得意だから今瀬戸大輝たちがいるような通路の様な場所での戦闘には向くでしょう。だから増援を送るなら彼女も含みたい。しかし彼女だけ、というのは論外。二丁拳銃は長時間戦闘には不向き。だから彼女を含んだ複数小隊を送って、各々の役割で動いてもらわないとならない。個人あるいは少人数での想定は切り捨てるべきよ。優先順位に準じた思考をしなさい。やるべきは大脳の破壊とレドーニアよ。特区戦闘員との戦闘はあくまでも引き付けるため。勝つ必要なんてない。時間稼ぎなのよ。矛盾するようだけどね、それ故に早く任務を果たさないといけない」

「……」

「そうね、ならこうしましょう」

「あ?」

「時間制限を付けましょう。一時間。戦闘区域は一時間を越えたらその時点で撤退。瀬戸大輝たちは撤退に遅れて再び孤立することがないように四十五分過ぎたら撤退、戦隊に合流する。これではどうかしら?戦域としては明確に時間を指定した継戦を指示出来て、瀬戸大輝たちには突っ込み過ぎないように暗に指示する事が出来る。撤退タイミングのズレを避けるためにはやはり増援を送る必要があるけど……これでもまだ不満?」

 いや多分それが最善だろう。正直今私がかなりのわがままで優柔不断な発言しかしていない自覚はある。まあだから絶対まとまった思考は出来ないと踏んで黒木の考えを聞いたのだが、まあこのままあーだこーだ言い合ってもどの道いい答えは出来っこない。それで行くしかないだろう。

「それで行こう。制限時間は一時間。それを超えるようであれば即時撤退、了解だ。通達する」

「戦隊には私が伝えるわ。あなたは瀬戸大輝たちに」

「あい」

 黒木が再びモニターに顔を戻し無線を開いたのを確認して私も瀬戸大輝の視界が表示されているモニターに目線を戻し、無線を繋げようとする。

 瀬戸大輝たちは丁度立ち止まって大脳の位置の確認を行っているようだ。確かに不破真琴はまだ大脳の位置を正確には把握していないだろうから私から伝える手間も省ける。

 見ると瀬戸大輝たちがいるのはT字路のように横に曲道がある区間。確かにこの先に大脳があったはずだ。それが事実であれば、だが。

『真琴!』

 丁度いいと思い私が無線を繋げようとキーボードに手を伸ばそうとすると瀬戸大輝の声が響いた。

 瞬間空気を引き裂くような連続の轟音。

「機銃か!レドーニア!」

 瀬戸大輝が咄嗟に不破真琴の手を引いて曲道に飛んで何とかそれを回避したのを見てとりあえず一安心してから私は黒木に目配せする。このタイミングで下手に瀬戸大輝に無線を繋げると危険だ。状況の変化を戦隊に伝えるように目線だけで伝える。黒木はそれに頷いてまたモニターに顔を戻した。

 瀬戸大輝は回避から立ち直って不破真琴に急襲の指示を出してからレドーニアの前に出た。どうやらレドーニアを説得しようとしているようだった。あいつは本当に自分を裏切った相手を助けるつもりなのか。相変わらず馬鹿だ。お人よしにも限度がある。

「通達終了。橘莉桜を始めとした三個小隊が瀬戸大輝らの現在地に急行中」

「到着までは」

「戦闘状況からしておそらく300程」

「くそ」

 いやまだ焦る事でもない。相手はあくまでもレドーニア一人。あいつらなら軽く制圧できるはずだ。問題ない。確かに今瀬戸大輝がいる通路ではレドーニアが持つ機銃を回避する空間はない。しかし不破真琴が死角からの接近をしているはずだ。彼女の隠密術はそこら辺の特殊部隊の比ではない。十分な訓練を受けていないであろうレドーニアでは存在を気取ることも難しいはずだ。

 瀬戸大輝はレドーニアの説得を続けている。意味があるとも思えないし意味を見出す必要もないと思うが今更止めろと言っても意味がない。説得してレドーニアをこちらの物に出来れば情報の収集の確実性が増すかもしれないのは確かだしやるんなら成功させてほしいものだ。不破真琴も多分強襲に成功しても即座に殺すことはしないはず。彼女は瀬戸大輝の意思を誰よりも汲み取れるから殺すことを瀬戸大輝が望んでいないと分かっているだろう。上手くやってくれよ瀬戸大輝。

『こちら橘。とりあえず戦闘区域(ホットゾーン)は出たぞ。とは言ってもどうもここから先はそれ以上にホットらしいがな。合流した場合は援護に徹するのかそれとも出来る限り進むのか?決まっていないのなら追々で構わないから通達してくれよ』

「こちら本部。分かっている済まないわね。あんたたちはとりあえずで申し訳ないけど瀬戸大輝と合流後は戦闘中ならその援護、戦闘がないのなら瀬戸大輝らの援護と大脳の破壊に部隊を二分させてほしい。今瀬戸大輝はレドーニア・ハワードライトの説得に当たっているがどうなるかはわからない。出来るのなら瀬戸大輝と不破真琴にはレドーニアに集中して貰いたいからな」

『なるほど了解だ。確かにあのガキなら例え裏切られた相手でも助けろと言われたら助けるだろうさ。了解だ』

「悪いな」

『気にすんな。お互い面倒なガキの近くに居ちまったもんだな。んじゃ』

 通信が切れたのを確認してモニターを今一度確認する。ここからの動き次第では戦況が大きく動きかねない。心してかからねば。

 お前も頼むぞ、瀬戸大輝。

とりあえず生きております

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