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Hand in Hand  作者:
六年前 終結編
21/60

戦え

更新遅れ申し訳ない。

学生故に学業を優先させてしまいました。まだまだ多いとは言えないのかもしれませんが読んでくれている方々のためにこれからは他作品含め執筆を再開したく思います。

これからもよろしくお願い申し上げます。

『……殺してくれ』

 巨大とも言える空間にその声は響いた。恐らく何かしらの伝令や指示を流すための広域マイクだろう。そこからノイズ交じりの声が流れ、それきり止まった。

 その声は誰が聞いても直ぐにわかるだろう。瀬戸大輝の声だった。絶望に塗れ、諦めの混じったその声には精機など感じられなかった。

 この巨大な空間で先ほどまで血を血で洗うような戦いを繰り広げていた者たちは全て呆気にとられたように動きを止め、声に耳を傾けるように天を仰いでいた。

 それも当然と言えよう。味方からすれば自分たちの総括が戦闘を放棄するような発言をしているのだ。絶望や怒りの前にまずは戸惑いが現れるだろう。

 そして敵も同様だ。恐らく彼らはそれなりの戦闘力を保有していると前置かれた上で瀬戸大輝やその他の者たちと戦闘を行っていたはずだ。その人物が泣き言にも似た敗戦宣言を行ったのだ。勝利の雄たけびの前に不安が訪れて当然だ。

 しかし瀬戸大輝、彼は今頃この戦争の根源と戦っているはずだ。だというのにこの音声はなんだ?いったい何が起こっている?敵も味方も勝つか負けるかの二択しかないと思っていたはずだ。この世界においての勝ち負けとはつまり生きるか死ぬかでしかない。それがまさかの敗戦宣言。ありえない。余程な実力差を突き付けられない限りそうだろう。いやあるいは別の何か?例えば人質を取られたなど。これは否定も出来るが考えを捨てるべき程可能性が低い話ではない。瀬戸大輝にとって人質足りえるのは誰だろうか?不破真琴か、黒崎真狩くらいのものだろう。だとするなら敵は相当嫌らしい手を使うようだ。

 だがそんな誰もが呆ける空間であっても動きを止めない者たちがいた。

 銃声が響く。

「お前ら止まるなあ!戦ええ!」

 聞くからに気性の荒らそうな声だった。その声の主は二丁の拳銃を天にかざし、その二つの銃口からは煙が立ち登っていた。

 橘莉桜(たちばなりお)だ。彼女は尚も叫ぶ。

「お前らの大将はこんな簡単に折れる奴だったか!?違ぇだろうが!だったら戦え!あいつも直ぐに立ち上がる!だからお前らも戦えクソがああああああ!」

 その顔はしかし見慣れた者しか築けない程に微かにだが確かに戸惑ったような表情を浮かべていた。さすがの彼女であってもこの状況が掌握しきれないのだ。

「兄ちゃん負けたのか……?」

 活発そうな少女、西村樹(にしむらたつき)も不安げに橘に問うが、しかしその問いに彼女は答えなかった。鼻で笑い飛ばしただけだった。

『そんなはず……ない』

 樹とは対照的に臆病そうな声が無線機に流れた。西村樹の双子の妹、西村花(にしむらはな)だ。臆病そうな声とは反対にしかしその言葉には確たる芯が通っているように感じられる。

 それに向けて白髪の女、片ノ坂音遠(かたのさかねおん)が同意の言葉を投げた。

「その通りね。あの男がそんな簡単に屈するとは思えない。しかし何かがあったのは確実ね。……私たちも向かうべきかしらね?けれど……」

 片ノ坂がそう言いながら周りの様子を窺う。見れば先ほどの橘による銃撃を合図にしたように再び戦闘が開始されていた。だがやはり戸惑いや不安が見て取れる。瀬戸大輝の事を気にしているののか、戦闘に集中していないように感じる。これでは勝てる物も勝てない。つまりこれは橘らはここから容易に離れるわけにはいかないことを意味する。だがあの音声からすると確実に瀬戸大輝に何かが起こった。それの事実確認も不可欠だ。ジレンマだ。

 そして当然そんな彼女達にも敵は攻撃を仕掛けてくる。邪魔で仕方がない。それらを撃退しつつ彼女たちは会話を続ける。

「しかしよ。このままじゃどの道負けは決まってる。だったらイチかバチかで突っ込むべきなんじゃねえの?ああ邪魔!」

「それも一案ではあるけれどまだ決めるには早いわ。この状況を放っておくのはまずい。何が起こるのかわからないわ。だから少なくとも誰かは残るべき」

「だがそれじゃあ何が起こっているかもわからないあいつの場所へ少数で行くことになるだろ?ミイラ取りがうんたら言うだろ。それにならないとも限らねえ」

「そうだぞ!音遠の姉御!全員で行って確実に兄ちゃんを助けないと!」

「しかし……」

 片ノ坂は悩んだように苦渋の表情を浮かべる。

 当然だ。確かに瀬戸大輝には何かが起こった。それを確認に行くのは妥当な判断だ。だがここで今行われている戦闘もこうしている間にも何かが起こらないとも限らない。そうなれば大量の戦力が失われ、更に負けが確実の物となってしまうのだ。行っても低確率。残っても状況に変化なし。どうしようもないのが現状だ。だがやはりこのまま現状を維持しても無意味どころか不確定要素が多すぎる。更なる損害を受けかねない。

 だからこそ選択を迫られる。瀬戸大輝一人を助け、勝利の確率を上げるか。瀬戸大輝を見捨て、あるいは復活してくれることを信じてこの場を制圧し、地盤を固めるか。そのどちらかだ。

 本来、というより通常の戦争であるならば当然後者だ。確かに圧倒的実力者の存在は望ましい。それが活躍してくれれば文句のつけようがないだろう。だがそれは地盤がってこその話だ。圧倒的実力者、この場合の瀬戸大輝が存分に戦えるだけの地盤が必要なのだ。その地盤とはもちろん物理的な物ではない。あの男なら例えヘドロの上でも戦おうとするだろう。

 そうではなくもっと戦況的な意味での地盤だ。圧倒的実力者が実力を発揮するような状況は多くとして苦戦している場合が多い。楽戦であればそもそもそれらの者たちが実力を発揮する必要がないからだ。であるならば苦戦を強いられている状況で彼らが戦うには戦況を維持する方法、あるいはそれを行う者の存在が必要になる。言い方は悪いが雑兵と言った所か。彼らの存在が不可欠だ。そしてまた、それらを補助する役も不可欠。だからこそ片ノ坂が悩むのだ。

 だが当然ゆっくりと考えている暇などありはしない。こうしている今も片ノ坂らは敵からの攻撃は続く。それを銃尾や弾丸でもっていなしつつも片ノ坂は悩む。

 まずこの状況をどう打破するべきか。そして瀬戸大輝の安否確認をする際の行動、人数。まずこのままずるずると戦闘を続けるのは問題外だ。打開策もなしに闇雲に戦い続ければ体力を浪費し、無駄死にしかねない。だがそれでもこの場を安易に離れのも駄目だ。それこそ無駄死にする者が大量にあふれる可能性を孕む。

 完全詰んだ。この場合その場だけの独断での判断はあまりにも危険すぎる。故にこの場から動けないのだ。しかし諄い様だがこの場に居続けてもただ体力の無駄遣いだ。しかし何が起こったかもしれない瀬戸大輝の場所に向かうのはまた危険の可能性が大きい。無駄死にの可能性も無視できない。

 だがそれでもなお無視できないのはこの場の兵士たちだ。明らかに動揺しており集中できていない。士気が落ちているのだ。このままでは確実に押される。瀬戸大輝の安否さえ確認できれば多少なりとも希望にはなるだろう。だからこそ誰かが行かなければならない訳だが。

「ああもうアタシが行く!お前らはこの場を保て!」

 橘が遂に痺れを切らし叫んだ。だがそれも致し方ない。こんな絵に描いたようなジリ貧な状況で気が立たないものなどいない。

 だがこれは良いきっかけかも知れないと片ノ坂は思う。危険ではあるが橘に限らず誰か一人でも行かなければこの状況に変化はないだろう。このまま悩んでいても仕方ない。この機に便乗して行動を起こすしかないのだ。

 だが……

「……その必要はなかったようね」

 片ノ坂は小さく笑い、それに橘も「そうだな」と頷いた。

「姉ちゃん!」

 西村樹がある方向に向けて叫んだ。その声に反応してほぼ全ての人間がそこを見た。

 そこにいたのは、否。そこを駆けていたのは。

 不破真琴、黒崎真狩。

 双方負傷し、明らかに疲弊した表情を浮かべているがその目に迷いはない。ただ一心に走っていた。

 恐らく、いや確実に瀬戸大輝の下に走っている。助けに行くのだ。何が起こり、今現在どうなっているかもわからない場所に危険も顧みず。

 それを見た者達が動かないわけにも行かない。誰もが先ほどまでの不安げな表情を捨て、歯を食いしばった。

 そして片ノ坂も吠える。

「聞け!同志たちよ!不破真琴及び黒崎真狩の二名はこれより現状が不明である瀬戸大輝戦闘区域の偵察へと向かう!我々はこれを援護し、二名の進路を拓く!銃及び中、遠距離武器を所持する者は支援射撃!近接武器を所持する者は近場の敵を制圧されたし!不破真琴他一名通過後、我々はここに保ち、敵の残存戦力を撃滅する!行動開始!」

 その号令を聞いた者たちは全てほぼ同時に動き出した。射出武器を扱う者は不破真琴、黒崎真狩の進行方向に立ちはだかる敵を射抜き、近接攻撃武器を扱う者は前者が漏らした敵を制圧しにかかった。

 不破真琴と黒崎真狩の登場と、片ノ坂音遠の号令を合図に先ほどまでの混沌とした戦場が遊びだったように統制の取れた動きへと一変した。誰かは敵を倒し、また誰かはその誰かの漏らしを拭う。確実目下に敵を殲滅していく。

 特区側も突然の変化に対応が遅れ、部隊の統制が大幅に崩れた。

 今しかない。

「突き抜けろおおおおお!」

 橘が銃声と共に吠えた。

 空気を叩いて発せられたその声は不破真琴と黒崎真狩煮貝の者たちにも届いた。それを合図に動きがさらに活発になっていく。もうこの空間には戦闘の音しか響かなくなっていた。

 つい先ほどまでの困惑した空気は見る影もない。誰もが自らのやるべきことを達するべく奮闘していく。そんな中を脅威的とも言える速度で不破真琴と黒崎真狩は走り抜ける。

 味方が撃ち抜き、斬り倒した敵を踏みつけ、あるいは飛び越え見る見るうちにこの戦場を突き抜けていく。

 その背中が見えなくなるのに一分も掛からなかっただろう。片ノ坂と橘はその背中を見つめ、薬莢を排出しながら呟いた。

「行ってこい」

「頼んだわよ」

 三つの薬莢が地面に落ちたー


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 瀬戸大輝は両膝をついて項垂れていた。そこから数歩下がった所には別の男が立っている。

 純白に光を拡散させている壁は今この空間の雰囲気を表すかのように特徴という特徴がない。ただ白いだけだ。それと同様に今この場を制しているのは静けさとでも言おうか、少し離れた所では別の者たちが戦っているとは思えない程静寂に包まれていた。

 否、この静けさは静けさと言うよりは絶望、失望、というものだろう。負の感情が溢れているように感じる。

 瀬戸大輝の日本刀を握る腕に力は見えない。どころかゴーグルのレンズから露わになった右眼には生気すら感じられない。

 しかしそれも仕方あるまい。自分の人生を全て覆すような事を言われたのだ。相当自分に誇りを持っている物か馬鹿でない限りそのような言葉をぶつけられれば並大抵の人物であればそれだけで砕けるというものである。

 否全ての人間がそうと言うのも間違いか。これはあくまでも瀬戸大輝のような、つまり裏側の人間を指す。

 彼らは戦って生きるのだ。そんな彼らはあまりにも多くの物を背負うことになる。当然物理的な意味ではないがもしそれを物理的重量に換算出来るとしたら並みの重さではないのだろう。それこそ人など一瞬で圧壊してしまう程に。

 戦って生きるとはつまりそう言うことだ。誰かを殺し、自分は生きる。その理由は誰かのため、自分のため、何だって良い。その結果は単に殺し殺されたでは終わらない。必ずと言えるほど何かしらを背負わなければならない。そしてその背負った物、あるいは者を背負ったままに戦わなければならないのだ。それがつまり、彼らの人生だ。そんな彼らは行きながらにして死した者、殺した者の全てを背負わなければならない。それは地獄だろう。後悔に満たされていただろう。何度も死を選ぼうとしただろう。だがそれでも生きているのは、生きようとしているのは、背負っている物がそれを拒むからだろう。まだだと、諦めるなと、引き留めるのだ。だからこそ彼らは生きる。生き続けるのだ。

 いやこれだとまるで表側の人間が大した人生ではないかのようで悪いか。当然表側の人間にだって相応の人生があろう。子供でも大人でもだ。子供なら学校や人間関係、大人なら仕事ややはり人間関係か。各々に各々の人生を生きているのだろうから。

 しかしだ。それでもやはり表側の人間と裏側の人間とでは過ごしてきた場数、生き方が違い過ぎる。生きるか死ぬかをではないのだ。殺すか殺されるかなのだ。表側の一般人は基本的な生活の中ではまず死を前提とする生活を送ることはないだろう。もちろん軍人や病人を除いてだ。あるとして強盗や通り魔などの事件や交通事故や災害など事故による死か。だがそれは前提ではない。あくまで想定、もしかしたらあるかも知れない程度のものだろう。それらを前提にして生きる者などいないだろう。どれだけ危険に満ち溢れているというのだ。有り得ない。

 結論を言うのなら表側と裏側の人間とではやはり人生の規模とでも言うのか、それが違い過ぎるのだ。

 つまりは生き方が違えば背負う物も変わるのだ。それにより生き方はまた、変わるのだ。であるならばそれを否定された人間がどうなるか。答えは簡単だ。絶望する。

 例えば野球選手を目指していた子供がいたとする。毎日を練習に費やし、努力を続けた日々を数年続けたとしよう。それがある日、全くの無意味だと知った時、あるいは全く間違ったやり方だったとしたら。それだけならまだしも全くの結果を生み出せていなかったとしたならば。それでもその子供は、野球を続けるだろうか?否だ。もしそこで努力を止めた子供を逃げだと発する者がいるとしたらそれはその者たちが本気で努力を続けた事がない者達だ。あるいは才能に助けられて努力から結果を生み出す苦悩を知らない者たちだ。どれだけ無駄な努力を続ける日々が空虚な物かを知ればどれだけ才に溢れた者でも心を折るだろう。諦めるだろう。

 それが人間なのだ。人間という形なのだ。

 であるならば瀬戸大輝は?その結果が現状だ。今の瀬戸大輝だ。絶望に満ちて、自己への失望に溢れているその表情だ。生気などありはしない。今にも死んでしまいそうだ。

 そんな顔のまま瀬戸大輝は呪うかのように呟いた。『殺してくれ』と。

 彼の人生とは何だったのだろうか。

 客観的に見れば産まれてこの方良い事などなかったと認識するだろう。本人がどう思っているかはともかく、彼を見る他人からしたらどう思うはずだ。両親、もとい家族から虐待を受け、どころか学校でさえも碌な扱いを受けなかった。そして最終的には理不尽に殺された。だが死ねなかった。だから今度は自分で死のうと喉を貫いた。だがそれでも死ねなかった。そしてそれから救い出してくれた男はまるで死を望む彼の代わりとばかりに死んだ。彼は何もできずに、恩人が死ぬ瞬間を見送った。それを彼は自分のせいだと思い込み、少しでも恩人の代わりを務めようと努力したのだろう。全ての人々を率いて、愛されていた恩人の代わりを務めよるのは並みの重圧ではなかったはずだ。そしてその彼が死したことにより起きたあの大戦争を戦った時もかなりの覚悟と責任感を持っていたはずだ。当時まだ子供だった彼がだ。そしてそれを六年たった今でも続けようとしていたのだ。

 だがもしそれが自覚を持って行っていなかったのだとしたら。それを六年の時差をもって突き付けられたとしたら。人は何を思う?自分を馬鹿だと思うだろう。愚かだと気付くだろう。事実馬鹿げているではないか。自分より遥か上の存在の真似をしようとしていたのだ。為り替わろうとしたのだ。滑稽だ。子供がプロ野球選手の真似をするのとは訳も次元も違うのだ。身の丈を弁えない馬鹿の行いだ。下手をすればとっくに死んでいてもおかしくない。

 だからこそ、今瀬戸大輝が絶望するのもまた、道理なのだ。

 それを見た眼前の男は何を思っただろうか?失望しただろうか?呆れただろうか?笑うだろうか?少なくとも肩を大げさにすくめてため息をついた。

 男が一体何者なのか、そして何を思っているのかはわからない。彼の過去が本人の語ったような物だったとして、そして今起こっている戦争を目論んだのにはそれ相応の思い入れがあったはずだ。瀬戸大輝についてか、この世界についてかはわからないが。ともかく何かしらの覚悟を持っていただろう。その結果がこれでは心中穏やかではないだろう。ため息をついてもおかしくはない。

 だが、しかし今の現状は誰かに責められるものだろうか?いやそんなはずがない。誰だって瀬戸大輝と同じ目に合えばそうなりかねないのだから。

 男は更に一度肩をすくめて瀬戸大輝に歩みよった。

「場所を変えないか?殺してくれと言うのなら是非もない。その前に僕の話を聞いてもらってから殺してあげよう。今だけは立ち上がった着いて来てくれないか?」

 男は瀬戸大輝の肩を叩いて歩き出した。そのまま壁に近寄りその壁に手を置いた。するとそこが切り開かれ、空洞、道へと変わった。

 男はそのままの体勢で瀬戸大輝を振り返る。瀬戸大輝はその男を空虚な目で眺め、力を感じさせない動きで立ち上がり覚束無い足取りで歩き出した。男もそれを確認して、歩き出した。

 仕切りを潜って出た道はやはり真っ白な場所だった。真っ直ぐに、しかし滑らかに傾斜を持った道はどこまでも続くかのように光を拡散していた。

 そんな空間を歩く瀬戸大輝にはやはり生気を感じない。既に死んでいるかのようにおぼつかない足取りだ。いつ倒れていも不思議ではないどころかいつ息を止めてもおかしくはないまであった。それも当然だ。繰り返すようだが人間は自分の生き方、今までの人生を否定されれば瀬戸大輝に限らず何かしらの感情が湧く物だ。怒りか悲しみか、またはもっと強く、絶望か。少なくとも平常心でいれる人間はいないだろう。そんな人間は余程自分に誇りがないかそれこそ大した人生を送って来ていない者だ。そんな者達が彼をとやかく言う権利はない。

 瀬戸大輝は客観的に見ても良くやった方だと思う。血に塗れた人生を歩んできた彼はあまりにも小さすぎた。文字通りの意味でも精神的な意味でもそうだ。彼は男性の割には小柄な方だ。最も成長に影響を及ぼす時期に栄養失調に陥ったというのが大きいだろう。、それに寄るものかはわからないが彼の身体は異常と言って良い程ホルモンバランスがおかしい。男性に分泌されるべきホルモンがあまりにも足りていないため男性としての体躯を保てていない。

 いやそんな理屈めいた事はどうだっていい。つまりそんな小柄な体躯と対して彼が背負っている物はあまりにも重過ぎたということだ。それにより瀬戸大輝は、一人の青年は、独りの子供は今、潰れた。圧壊した。六年と言う歳月を耐え抜き、今、壊れたのだった。

「ここだよ」

 少し歩くと広く広大な空間が広がった。その空間に入って男は中心ほどまで歩くと振り返った。そしてそれを紹介するかのように両手を広げた。

「ここは今は武器庫として使われている。今の特区は自衛を含めた意味で武力、兵力の向上を目的に研究の矛先を開発に向けている」

 見ればそこには小銃や拳銃を始めとして小型大型問わずミサイル等の爆発兵器、そして地上では見ることはないであろう戦車、確か四足歩行戦車とでも言った。地上でも見るキャタピラ式ではなく丸みを帯びた瓜のような形状に似たような形状の脚が四本接続されている。その脚の裏に車輪が付いており機動力を底上げさせているのだろう。そしてあれはなんだ?四足歩行戦車の横に巨大な、人の数倍以上はあるであろう巨躯を持つ人型の兵器だ。胸部や頭部、腕部などは金属に覆われているが関節部分は極太のワイヤーのようなコードのような、神経とでも言うのかそれが露わになっていた。もしかしたら今後の展開次第ではそれらが使用されることもあるのかもしれない。そうなればまずい。だが今の瀬戸大輝にそれが理解できるのかどうか……。いやそこまで思考が追い付いていないのか瀬戸大輝は直ぐに地面に座り込み、再び項垂れた。

 男はそんな瀬戸大輝を気にせず口を開く。

「ここで僕の両親は殺されたんだ」

「……」

 少し寂しそうに呟いた男の声に瀬戸大輝はゆっくりと顔を上げた。それに微笑みを返した男は再び口を開いた。

「元はここは集会所のような場所だったんだ。研究員と一般市民が集まり、研究の成果の発表や地上の表の人々には選挙という物があったね。それと似たような物が行われていた場所だ。そこで、殺された。多くの人間が見ている前で嘘で塗り替えられた罪で見せしめに殺されたんだ。君はどう思う?そんな理不尽を君は許容出来るのかい?いや縦しんば許容できたとして、それを誰かに強要出来るのか?僕には出来ないし君にも出来ないはずだ。僕は君をそういう男だと見ているよ」

 そこまで言って男は再び瀬戸大輝に歩み寄った。そして瀬戸大輝の目を真っ直ぐに見つめ、呟くように言う。

「僕を失望させるなよ」

 言って男は瀬戸大輝の肩を掴んで更に言葉を投げる。諭すかのように。

「君は悪くないんだ。確かに君は間違えたかもしれない。御山剣璽の真似をして、為り替わろうとして、でもそれは出来なくて、身を弁えられない馬鹿だったかのかもしれない。だがそれがどうした?良いじゃないか間違えたって。これから正していけば良い。これからなんだよ。君はこれからだ。良いか?御山剣璽は君に対してなんて言ってたか知っているか?僕が彼を殺す少し前に僕に向けて彼は言った。『世界を変えてくれるかもしれない子供を見つけた』そう言ったんだ。御山剣璽を殺したあの時君を見て分かったよ。ああ、あいつかって。一目でわかった。他にも何人も子供がいても君だってわかった。君なんだ。君しかいないんだ。だから戦え。諦めるな。立ち上がれ。僕を、御山剣璽を、失望させるなよ」

 捲し立てるようにそう言った彼はそこで区切って瀬戸大輝から離れた。だが瀬戸大輝は戸惑ったように動かない。日本刀を持つ手が小さく震えているだけだった。

 それにしびれを切らしたかのようにまた男が口を開こうとした瞬間、瀬戸大輝の肩がピクリと反応した。と思えば耳元に手をやり、ゴーグルを操作するような仕草を取る。どうやら通信が入ったようだった。恐らくあの女だろう。

『おいこらてめえ!何敵から塩送られてんだ!良いじゃねえか馬鹿やったってよ!自分より上の奴の真似をして何が悪い!あいつが死んだのだってお前は悪かねえ!誰だってあの状況じゃ救えなかった!ガキが一人前に自分を責めてんじゃねえぞ!お前はまだガキなんだ!ガキはガキの内に馬鹿やっとけ!私が学生の時なんて……それはよくて!』

 女は一旦気まずそうに言葉を区切るがしかし直ぐに緊張感を含んだ声で告げる。

『不破真琴とお前のガキが来る。それまでに終わらせろ』

 その言葉を聞いて初めて瀬戸大輝の足に初めて力が入った。震える足に力を込めてゆっくりと立ち上がった。そしてこれもゆっくりとだが日本刀を構える。

 しかしその目に未だ生気は感じられない。視線こそ真っ直ぐだが何処か明後日の方向を浮いているかのような朧げな目をしている。

 もしかしたら彼はここで死ぬつもりなのかもしれない。いや純粋に戦ったとして恐らく実力は互角だろう。おまけに瀬戸大輝は負傷しているし精神的にも参っている。であるならば常時であれば瀬戸大輝の負けは確実に近い。普段であればどれだけ追い詰められたとしてもそれを覆してきた彼であったもそれは精神によるものなのだ。死ねない。死にたくない。負けたくない。負けられない。勝ちたい。勝たなければならない。死なせたくない。生きて欲しい。共にいたい。共にいて欲しい。そう願ったからこそ今まで彼は戦ってこれた。そう思う心があったから彼は今まで覆す事が出来ていた。だが今は?体はボロボロ。精神も沈んだ。こうなれば今までのようにはいかない。勝てない。勝てるはずがないのだ。人間はそんな簡単には出来ていないのだ。物理法則を無視した存在でもなければ超常の神的存在でもない。あくまでも実態を持った物理的な法則に則って存在しているのだ。であるならば勝てない者は勝てないのだ。

 であるならば彼の選択は?勝てない、生き残る事の出来ない戦況でそれでも戦う彼の選択は何か?

 生きることを諦めた彼は、せめて愛する者たちのために、その者たちを守るために、彼は選択した。

「……ぁぁぁぅぅぅうううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 彼は日本刀を握り締め、叫んだ。


 不破真琴と黒崎真狩りはまだ、遠い。

お疲れさまでした。

久しぶりの執筆で少し変な感覚でしたがやはり楽しいものですねw読み苦しい部分も多かったかと思いますが誤字脱字や改善点等あれば不躾は承知の上でご指摘願います。

では次回更新をお待ちいただければ幸いですw

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