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四話

 体育館のなか舞台照明を浴びている壇上(だんじょう)その左右に垂れている幕の向こう側は、左右二部屋の放送室へと続く階段があり、その放送室脇から伸びているのは、欄干(らんかん)がついた連絡通路であり、そのどちらにも、連窓(れんそう)に覆い被さる大きな暗幕がある。それも生徒の集まる今は、窓が所々で開放されている。その為、時折吹く強い風に暗幕が捲られていく。今日は、外に出れば少し暑さを覚える春めいた陽気であったが、ほどよく換気されている。

 葵はそちらの方を見ていた。

 体育館天井部の鉄骨の下へと射し込んだ日の光。

 室内照明と混ざり合ったその光が淡く溶けこむ様子。空間を占める照明の光との合間、まばらに空気が光に照らされている。葵の気分をより一層、「(ああ)、眠たい」と思わせた。


 目当ての図書部の紹介も聞き終え、それから時間もそれなりに経過した頃。

 放課の鐘が鳴る。

 葵も参加する「部活動PR大会」は、二日間かけて運動部文化部入れ混じり行われる。今日もまた壇上での上級生の入れ替わり立ち代わりを繰り返し、ついに大詰めを迎えようとしていた。

 集中が途切れた所為か、何度か葵は壇上へ向ける視線を離していった。高木の梢が遮った遠景は、雲が薄く白がかっていて青々とした枝葉が生き物のように揺れる間に、低彩度の春の空が見えている。


 六限目より執り行われた「生徒集会」は、当初の予定よりも随分と早くに終わり、今の「部活動PR大会」は5分ほど休憩をはさみ前倒しで進められてきた。

 最後の部活動紹介は、書道部であった。部活動紹介を務める書道部部長の作品の発表によって締めくくられ、各々散会となった。


 文芸部の部活動紹介は昨日であったが、葵に付き合おうつもりだった梅も参加していた。頃合いを見て体育館を後にしようと二人は立ち上がり、周りの生徒の後に続く。

 体育館の出口は普段よりも多少混雑している。出口の手前の壁際には組み立て式の机が幾台か並べられている。そこには部活動紹介冊子が積まれているので待機列ができていた。既に入部先の部を決めていた二人だったが、何故か梅が「ね、私ひとつ冊子もらってくる」と言い列に並ぼうと向かった。葵もその後を追い待機列へと並ぶ。

「ほら、参加してみたら、やっぱり、ほかの部活も気になるなってそう思うでしょう?」と梅が隣にいる葵へ向けて問いかけた。図書部の部活紹介が終わり葵が帰ろうと腰を浮かせたときには、隣りに座っていた梅は、不満気な顔をして葵の腕を引き止めていた。

「それはまあ、そうだけど」

「案外、他の部も、例えば運動部もいいかもって思うようになるかもしれないよ」

 葵は梅を横目にした。

 順番が回って梅と葵が冊子をとる。

 体育館を後にした二人は、校舎に向かう道中もお喋りを続けた。

「高校の運動部は朝練も土日の活動もあるだろうし、休日はゆっくりしたいからなんだか入り難い」

「そう、なら文化系の部しかないんだから文芸部は」

 と、冗談めかして梅が言う。

「読むよりも書きたいって私の場合は思わないから」

「映画やアニメとか観ているとき漫画とか本を読んでいるとき書きたくならない」

「そうはならないな、映画のもとになった小説を読みたいとはときどき思うけどね。書きたいとまでは」

「そうか」

 葵は即答。同意を得られず梅は肩を落とす。それを見て葵が言う。

「梅の方こそ、図書部はどう? 書評や小説を載せる部誌はつくらないけれど、部室でも黙々と本を読みやすいから創作もするにしてもいい環境だし」

「いいかもしれないけど」

 梅は少し考えるように間をおいてから話を切っていう。

「話し込んだり、集中しているときに、知らない人が入ってきたらと思うと、うーん。図書室とか図書館とかは人の出入りが気になるというか」

「気難しいなぁ。そんなに気にならないものだよ」

「そう? 落ち着かないよ」

「私なんかは休みの日には図書館にいくけど落ちつくけどなー。今度の休みに梅も私と一緒にそこに行ってみない?」

「いいけど。でも、これから図書室に行くのに、休みの日にも?」

「うん。ここからその図書室すぐ近くなんだ。その場で課題もできるし、大きいところだから、色々な本も読めるよ、駅からも近いし。」

「ふーん。あ、菫と杏には声はかけた?」

「うん、後で連絡する、おっ、着いたね」





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