三話
敷地の外にある並木道からは、日向のきらめく樹陰が差している。
大きい樹木からの影は、校舎の内側に沿った道の半ばにまで差しかかってていた。
春だというのに、じりじりと陽射しの強い快晴だった。道沿いに咲いた小さな花々は色鮮やかであった。
風が吹けば強く、涼しい風は稀にその中に混ざり合った。
こうした天気のなかであったから、今日という日は日陰のあたりをわざわざ選んで歩いている者も多かった。
そして、この時間の校内に校内の端の緑陰を踏むのは、丁度彼女らだけだった。
その一行のひざ丈くらいの高さの石塀と、並木より背が低く薄萌黄をした金網が、通学路と敷地内との境界に連なっていた。
並木の緑や蔦と薄萌黄色の菱形に張り巡らされた柵とが葉陰へ溶け込んでいた。ゆらゆら日向が動き、径は、薄い靄がかかったような空間となっている。
菫が梅たちと一緒に、高校の敷地内のコンビニから買い物を済ませて帰ると、葵が道の先のベンチから立ち上がりながら手を振り向かい合い、一行を出迎える様子が伺えた。
「ちょっと買い過ぎたからさー。このお菓子みんなで食べない?」
葵のクラスメイトである菫がそう言うと、次には手に提げていたビニール袋を広げてみせる。
「無性に食べたくなってさー、同じ奴ばっかり買ってしまいまして。正直食べきれそうにないよー」
と、弱音を吐いた。
木陰にある二つ並列しているベンチに四人が向かい合って座っていた。ベンチの周りには、テーブルがなく、それぞれ膝の上に購入したお菓子や飲み物を置いている。先ほどの買い出しの前に昼食はもうここで済ませていた。
真っ先に梅が中身をのぞき込む。
「そう。どれ……」
今まで黙って話を聞いていた杏がここにきて、か細い声で一言。
「……あ、梅ちゃん。もうひとつのとってくれる?」
「お、はいよー」
「あ、ありがとう梅ちゃん」
すっかり袋を自分の膝に確保して鍋奉行をしている梅が菫、それから杏と葵へと適当に選んだ残りのお菓子を配る。
「そのお菓子おいしいよね」
と杏に対して葵が言う。
「そう。……あ、葵ちゃん? よかったら……」
杏は今し方受け取ったお菓子を渡そうとする。
それに対して葵が困った様子で居ると、菫が手にした何かをもって葵と杏の間割り込んで言う。
「ほれほれ、まだありますよ」
菫は、同じお菓子を四つ取り出していた。
「……そうだったんだ。ちょっと今、恥ずかしいかも」
ぼそっとまたか細い声で言う。
その様子の杏をみて、三人が微笑した。つられて少し杏の口角があがる。
食べながらも美味しいと言いあって、しばらく経ってから梅が言う。
「また来週も集まろうよ」
「そうだね」と葵。「梅。いいねー」と菫。
「は、はい」と杏。
まだ幾度目かの四人一緒に過ごすお昼休みは、授業開始15分前の予鈴とともに、楽しげに過ぎて行った。