1話 「天ぷらc」
「魔王! 誰なのこの人!」
金髪の少女は、僕を指差しながらステラさんに問いかけた。ステラさんは笑みを絶やさず少女へと視線を移す。
「おかえり、ユーナ 手洗いとうがいは?」
「済んでるわ! ねえ、それよりこの人は誰?もしかして異世界から来た人⁉︎」
「うん、そうだよ 名前はユータロー君」
その答えにユーナという少女は満面の笑みを浮かべながら僕の方を見た、そして背負っていた小さな冊子を取り出すと、ページを1枚外し差し出してきた。
「それプロフ帳なの、書いて! 異世界からきた人のプロフなんて持ってる人クラスに誰もいないから自慢できるわ!」
「あ、うん……」
なんかこんなの、僕が小学生くらいの頃にも女子に渡されたなあ。どの世界でも流行ってることは変わらないのだろうか。
「あの、ところでさっき言ってた魔王ってーー」
「ねえねえユータロー! 貴方はなんて世界から来たの⁉︎ 恋人は⁉︎ 好きな食べ物は⁉︎」
ユーナちゃんの口から出た、魔王という言葉に質問をしようとしたら、逆に彼女の質問攻撃が始まった。答える前に矢つぎ早に重なっていく質問に固まっていると、ステラさんがユーナちゃんの頭をポンっと叩いた。
「ユーナ、人にいきなりあれこれ尋ねるのは失礼だよ そういうのは後にして、まずは自己紹介」
「あぅ、……そうね、ごめんなさい ん、コホンッ 私の名前はステラ よろしくね、ユータロー」
興奮していたことを窘められて恥ずかしかったのか、ユーナちゃんは顔を赤らめながらおずおずと手を差し伸べてきた。その様子に口の端に笑みを浮かべながら、僕も握手に応じた。
「僕の名前は神林佑太郎です よろしくね、ユーナちゃん」
「ちゃん付けは嫌い ユーナでいいわ」
「そう? なら、よろしくねユーナ」
手をぎゅっと握り合い、僕たちは笑顔を交わした。その様子を見ていたステラさんは、やはり満足げに頷いた。
「さあ、自己紹介も終わったところで、晩御飯の準備をしよう ユーナ、ユータロー君に洗面所の場所を教えてあげて」
そう言うと、ステラさんはぐっと腕まくりをした。
「今夜は天ぷらだよ」