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姉上は…(レイノ視点)


俺にとって姉上は母であり、教師であり、自慢の姉だ。


俺が生まれすぐに離婚した母の変わりに俺に愛情を注いでくれた。

だから、俺は父上にそっくりといわれながらも、表情の出る人間になれたのだと思う。


そんな姉上は少々、いやかなり変わっている。


たとえば、姉上の一番の関心は昔から変わらず、言葉という形ないものだ。

人との会話をしているときが一番生きていると思えるの、と昔姉上が言っていた。

まるで生に関心のない立ち振る舞いをする姉上から出た、生きているという言葉は強く俺の心の中に残った。


他にも、知識欲を活かしすぎた口達者ぶりや、今は使えないが、無属性の魔法強い適正。

行動力もあり、それを活かした貧困街の改革に悪戯。

貴族の令嬢とは思えない言動や行動を起こす姉上にはいつも驚かされる。


その姉上の変人っぷりは数々の逸話を残した。


その逸話の中でもとくに有名なのは、貧困街の改革と結界の張替えと強化だろう。

どちらも歴史に名前を残すほどの功績を残した。


歴史の中の人物になっても、姉上は変わらず変人だが。


しかし、その姉上に救われた人物は多い。

俺もその中の一人だ。


幼少期に姉上がいたから、母がいなくても寂しいと思ったことないし、思い出もある。

魔力測定のときなど、姉が居なければ協会にいたかもしれない。

悪戯があったから、俺の魔力は安定が早く、神童とまで言われた。

姉上がいたから、世渡りも学べたし、見かけに騙されもしない。


だから、俺が姉上以上に好きという感情をもてないのも仕方ないことなのだ。


姉上に思うこの感情は家族愛だが、正直姉上が大きすぎて恋愛感情というものが良く分からない。

しかし、それでもいいと思っている俺がいる。


それ程までに俺にとって姉上とは大きい存在だ。


その姉上が最近、殿下と恋仲になった。

長年姉に片思いをしていた殿下を祝福したいと思ったと同時に、俺は姉上が取られたという思いも浮かんだ。

嫉妬という感情なのだろう。

昔は幼心によくしていたが、この歳になってまたするとは思わなかった。


自分の感情を持て余しながらも、もう大人なのだから我慢しなくては、と思っていた矢先、姉上が俺の部屋に訪れた。


「レイノ?ちょっといいかしら?」


「いいですよ。どうしたんですか?」


控えめに部屋に入ってくる姉上を招き居れ、ソファーに座るよう促す。

ソファーに座ったの確認し、俺も反対側のソファーに腰を落とした。


「最近レイノが元気ないようだから来てみたのだけれど」


そういう姉上は珍しくも心配と表情に出している。


「姉上が殿下と恋仲になったことを少々考えていただけですよ」


姉上に俺の嘘は通用しない、と苦笑を浮かべ正直に心境を吐露する。

姉上には昔から嘘が通用しない。特に隠したいこと等は隠し通せた試しが無かった。


「なにをそんなに悩んでいるのかと思ったら、そんなこと」


一刀両断とはこのことなのだろう。

俺の悩みはそんなこと程度なのだろうか…

確かに姉上からしたそんなことになるのかも知れないな、と思いつつ少し落ち込む。


「私がセスと恋仲になったかといっても、私の中で貴方は大切な弟よ?なにも変わらないわ」


「何も変わらない、ですか…」


「そうよ、なにも変わらないわ。私が貴方を思う気持ちも、貴方が私を思う気持ちも。

だからレイノが嫉妬する必要はないのよ」


まるで悩みを全部分かっているような言動。

姉上は読心術でも使えるのだろうか。そう思わせられたのは何度目のことだろう。

もう覚えていないほど俺の心は見透かされている。


その見透かされた心に、嫉妬などしなくてもいい、俺の姉上を好きな気持ちはちゃんと届いていると伝えられ、不覚にも泣きそうになる。


「この先もレイノは私の可愛い弟で、大切な家族よ」


温かな微笑みを向ける、姉上。

初めてでた姉上の未来を思わせる言葉。


「姉上、抱きしめても良いですか?」


「いいわよ」


優しい声量で了承し、ソファーから立ち上がる姉上を俺は、泣くのを堪えながら強く、強く姉上を抱きしめた。


変わっていないと思っていた姉上。

しかし、あの心臓を握りつぶされるような失踪事件から少し変わったのかもしれない。

その証拠に俺に未来を思わせる言葉をくれた。


それが嬉しくて、嬉くて仕方ない。


俺の大切な姉上、どうか幸せになってください。


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