ヴィーラの言い分
甘い言葉も、行動も、エスコートも私は苦手だ。
それを知っている殿下やレイノ、リアンは私が心配させるようなことをすると、お仕置きと称して私に行動を起こす。
そもそも、私は前世で男に免疫がない。
家庭環境から家族に夢もなかった。男性恐怖症というわけではないけれど、標的以外の男性と喋るのなんて、コンビニ店員以外皆無。
美人局のような詐欺は何があってもしなかった。
異性との交際経験もなく、特定の仲の良い異性もいなかった。
いや、友人自体いなかった。
前世の相棒は異性というよりはペットの感覚に近かったので、私に向けられる甘い言葉は本当に苦手だ。
前世で甘い言葉を貰ったことが無かったのも一つの原因だとは思う。
しかし、今世では私に甘い言葉を吐く人間が居る。
それはフェミニストな親子をはじめ、弟であったり、従者であったり。実に様々だ。
特に殿下は出会ってから年々フェミニストに磨きがかかり、挨拶すら甘さを醸し出すようになってきた。
これは私にとって由々しき事態だった。
今日も当たり前のように挨拶をすれば手の甲にキスをされ、美しいといわれる。
鳥肌が立つのを押さえ、今日こそは抗議することに決めた。
「セス、ほぼ毎日会っているのだから、一々そんな褒め言葉はいらないわ」
少し引きつりながらも、笑顔を浮かべ抗議すると、殿下は一瞬きょとんとした顔をした後、嬌笑を浮かべる。
「毎日会っていても、君の美しさを言い表す言葉が見つからないんだ」
「私、何かしたかしら?」
お仕置きに似た雰囲気を感じ取り、私は冷や汗が流れるような気がした。
しかし、殿下は私の腰に手を回し抱きしめる。
抱きしめられる途中見た顔は、とても真剣だった。
「何かした、というより…いい加減気づいてもらいたんだよ」
何を、とはいえない。
気づいているが、気づかないフリをしてきたのだ。
この感覚だけ鈍感になるように願いながら、日々生きてきたのだ。
分からないわけが無い。
私の甘い言葉が苦手な一番の原因なのだから。
過去、幼いながらも私に同じ思いを持ってくれた仲間がいた。
彼は最後に私に思いを告げて、返す間もなく居なくなってしまったけど。
同じ思いを殿下が持っていたことも知っていた。
それでも、私はこの向けられる感情には応えたくなかった。
とても恐ろしい気がしてならないのだ。
この感情を受け取ってしまえば、私は私じゃなくなる気がして。
そして、彼の感情に気づかないフリをした罪悪感に押しつぶされそうな気がして。
恋愛感情とはこんなに恐ろしいものなのか…
「君が何を思って受け入れてくれないのか、俺はわからない。でも、限界なんだ」
「…限界?」
「君の心の中に残る彼にいつか、君が攫われてしまうんじゃないかって、不安で限界なんだ」
「笑うかい?」と自嘲を含みながらそういう殿下に何も返せなかった。
確かに私の中の彼は今でも強く根付いている。
そんな彼に殿下は不安なのだといった。
礎の彼が私を攫ってくれるならそれはとても良い夢だろう。
しかし、私は生きることを選んだ。
あぁ、あの時点で答えは決まっていたのだ。
「セス、ごめんなさい」
そう言えば殿下の体は硬直する。
離れたくないとばかりに力を入れてくる腕に息の苦しさを感じながらも、誤解してるだろう殿下に言葉を繋げる。
「不安にさせてごめんなさい。ねぇ、セス…
私は貴方が好きよ」
体を勢いよく離し、驚いた顔を向ける殿下に苦笑を浮かべる。
受け入れよう、いつも側にいて、私に一身に好きというセスにほだされたのだ。
心配性で優しい彼に。
「でも、それが恋愛感情なのかよく分からないの。だから貴方が教えてくれる?」
最も重要なことを言えば、セスは光魔法を撒いたような神々しい笑み向け。
「勿論、俺の片思いの年数分嫌って程教えてあげる」
少し早まってしまったかもしれない。
だけれども、これでいいのだと思う。
後は甘い言葉を言われても硬直しないように慣れればいい。
これからセスが嫌といっても私に甘い言葉を告げてくるだろう。
最後に心の中だけで、もう届かないかも知れないが、リアンに…
「私を想ってくれてありがとう」
そう伝えた。




