トキメキ☆ミッドナイトドライブ ~てめー俺に喧嘩売ったろ今。あ?コラ伝説~
夜中、寝静まった住宅街のスーパーやドラッグストアが並ぶ4車線の道を走行していた。
時間は2時。ちょうどカーステレオから聞こえる深夜のラジオが中盤に差し掛かるところだった。
赤信号で止まっても、一台も車が横切らないほど静かだ。
そんな中、久しぶりに車に出くわした。前方を黒いセルシオがゆったりと走っている。私は右車線に入って追い越した。
するとセルシオは私の車の後にピッタリとつけてきた。危険なほど近い。ハイビームにされたヘッドライトが、サイドミラー越しに私の目を射った。
私は左車線に寄った。だがセルシオは私の車の右に並び併走し、ドライバーが車内から睨み付けてきた。
若い男で黒いピッタリとしたTシャツに、金のネックレスをしているのもハッキリ見えた。
やにわにセルシオは私の車の前に出て、蛇行し、ハザードランプを出した。
このまま前進する事は出来ない。まったく、何て日だ……。
私は車を左に寄せ、外に出た。心臓が飛び出そうなほど高鳴り、緊張で全身が震えるようだった。
セルシオも前方に止まって、男が降りてきた。
あたりはマンションが建ち並び、コンビニからも遠く、平日の夜なので酔客を運ぶタクシーさえ通らない。
もしも、悲鳴が上がったとしても誰にも聞こえないだろう……。
「おぃ、何調子くれとんじゃコラ。あ?」
男は身長1メートル90センチはある屈強な身体をしており、自信満々にポケットに手を入れて近づいてきた。
「あの、何ですか……」
「何ですかじゃねーよ。てめー俺に喧嘩売ったろ今。あ?コラ」
男が近づくと興奮で視界が狭くなるのを感じた。
「すいません……。お金なら払います」と言うと
「おぉ?」
と、田舎の不良特有のオットセイの鳴き声のような声をあげて男はますます近づいてきて、車を背後にした私の横に立った。
私は男の横をすり抜け、男のセルシオに向かって走った。
ドアが開いたままのセルシオの運転席に滑り込んでドアを閉めてロックした。
エンジンはかかったままだ。
男が走ってきて、窓越しに運転席の私に怒鳴り散らす。
「何やってんだてめえ!」
セルシオはオートマだった。
ギアをバックにいれ、セルシオを勢いよく後退させると、男の肘にサイドミラーが当たって壊れた。
「おい、コラッ!てめえ、警察に電話すんぞコラ!」
セルシオのハイビームにされたヘッドライトが、男の全身を照らし出す。
ギアをドライブに入れ、アクセルを踏んだ。
男の顔が真っ白に照らし出される。おちょぼ口にして目を見開いた驚き顔は魚のようでケッサクだった。
逃げ腰になって両手をオッパイでも揉むかのように前方に差し出し、車を押しとどめようとするポーズ。それか“話せば分かる”のポーズだろうか。とにかくその格好で、ちょこちょこと足を小刻みに動かして後退するが、当然、車のほうが早い。
だんっ!という音と共にボンネットに乗り上がって、ブレーキを踏むとごろごろと転がり落ちた。
窓を開け、地面に倒れた男を見る。
「うぅ~、うぅ~」と言っている。「コラ」とは言わなくなってしまった。
私はちょうど前輪が男の頭を踏むように調節し、ゆっくりとセルシオを前進させた。
車体が頭に乗り上げ、斜めに傾いた。
「よし!」私は思わずガッツポーズをした。私は運転が下手なので一発で乗り上げるのは難しいのだ。
そして、傾いた車体がガクッとわずかに戻るのを感じた。頭が潰れたのか、首が折れて変な角度になったのか。
男は、哀れ、自分の車にひき殺されてしまったというわけだ。
脳内麻薬がドバドバ溢れ、汗が噴き出し、気を失いそうなほどの快感に身を震わせた。
この瞬間が最高だ!胸の高鳴りは最高潮になって、全身が震え、歓喜の奇声を発したくなるのをかろうじて抑えたが、
股間はシフトレバーと化してトップギアに入り、突き破らんばかりにズボンを膨らませ先端を濡らしていた。
時間にして1分ほどだろうか。赤信号で止まっていたほどの時間。まわりを見ても目撃者はいないようだ。これより遅い時間になると新聞配達の奴らが動き出してしまう。
証拠は残さない。ハンドルの指紋を拭き取り、セルシオを降りて自分の車に戻った。
と言っても、これもさっき盗んだ他人の車だ。今夜最初の犠牲者の車をそのまま失敬して走らせている。
そろそろ乗り換えたほうがいいかもしれない。後部座席の、今の男みたいに威勢の良かった不良の死体が臭ってきそうな気がした。
まったく、何て日だ。獲物が短時間に二匹も連続でかかるなんて。私は次の獲物に絡んでもらえないだろうかと期待を込めて、また車を走らせた。