発動機―プレイヤーメイドの幕開け―
「やりましたね、チーフ」
「ああ、プレイヤーメイドの試作品として、今の段階でこれ以上のものは作れないだろうな」
男はそう言って、額の汗をぬぐった。
目の前にあるのは、一転何の変哲もない発動機。
しかし、そもそもが既製品しかなかった発動機をこの男はプレイヤーメイドで作り上げたのだ。
「チーフ。苦節2年お疲れ様でした」
「こっちではそうなるんだな。長かったような短かったような」
この世界はもう一つの人生であるとはだれの言葉だったか。
「試行錯誤すること1万5千とんで2回ですか」
「そこまで覚えてないな……というか、思い出したくない」
試行錯誤の数々を思い出して少し憂鬱になる。
動作不良で動かないのはまだいい。爆発もまだいい。ただ、何故対消滅がたかが、たかが発動機の試作で起こるのか、運営を小一時間ほど問い詰めたい。
あやうく、機上死以外の死を賜るところだった。
男は何度目となるかわからない深いため息をついた。
「チーフ、ところでこれの名前はいかがいたしますか?」
「そうだなぁ」
名前、それこそ今男が頭を悩ませているもの。これがきっとプレイヤーメイドの黎明となる、始祖の発動機。それに下手な名前はつけれない。
「神話からとられますか?」
「いや、それは流石にな……」
「チーフがそこからとらないなんて珍しいですね」
「いい加減その認識をやめてほしいんだが」
男は脱力した。確かに今までの作品には、そのままの勢いで厨二テイストあふれる名前を付けてきたが、まじめな作品はそれなりに悩んで名前を付けてきたはずだ、と男は思う。
「それなら名前をどうするのですか?」
「そうなんだよなぁ」
こんな時にあの女性ならどう名づけるだろうか、と考えたところで詮無きことだと男はかぶりをふった。
「エイーダならこれをどう名づける?」
「私ですか……碧雲です」
「碧雲ねぇ……呼びにくいな」
「空にまつわるならこれがよいかと思うのですが」
「空にまつわる……始祖の発動機……」
男は目を空に泳がせた。そして、唐突に呟く。
「曙、デイブレイク、……暁か」
「アカツキですか?」
「暁だ。それでは昔のロボットの名前のようだ」
「……極秘情報ですが、次に出る機体の名前ですね」
「マジか」
「マジです。ネットワークにありました」
男は、目の前に浮かぶ女性型のホログラムの返答に肩を落とした。
「チーフには、限定的ですが今後の兵器開発の予定データの開示が許可されました。今回のもその一環です」
「運営ぇ」
「なお、兵器開発廠から『これからも未知なる道を行ってくれ』との一文を賜っています」
男は天を仰いだ。
「完全に斜め上の運営だな、恐れ入ったよ」
そして男は決めた。
「なら、喧嘩を売りにいこう。この発動機の名前は、運営から独立した技術体系の始祖として、トワイライト・ブルーだ。そして、この技術は公表してやる」
「それはいいのですが、チーフ。結局そこに落ち着くのですね」
「うっ」
男は軽くうなだれた。
――トワイライト・ブルー――
概要
サンタマリアの空において、発動機技術の始祖の名前。また、そのシリーズ。
異名/作成者
先端を行く博士・運営にケンカを売る男/ノドカ=キイ
解説
それまでの発表されていた発動機は運営謹製のものであり、その技術も含めてなぞであったが、プレイヤーキイのあくなき情熱の元、完成したのがこの発動機である。現実世界の発動機を参考にしつつも、サンタマリアの空内で持ちいられる燃料――エーテル――をうまく使えるようにしたものである。
当時の既製品からすると、全ての面で一歩劣っていたが、カスタムのしやすさは群を抜いていた。ゆえに技術者プレイヤー延髄の品であり、トッププレイヤーの中からも求めるものが多かった。
そのため、技術は独占されると思われたが、キイはこれの構造を全開示することにより、技術革新を促した。その技術革新において、三巨頭の一人としてノドカ・キイは確固たる地位を築いた。
性能:発動機のページを参照。
エピソード
○作製した試作品の数は1万5002種類。その中でも大惨事になりかかったのが、某貸し工房の対消滅を引き起こしたエーテル冷却式の試作品を作製していた時。その当時隣で研究していた技師の機転により九死に一生を得た。
○厨二病全開の名前にふれてはいk(検閲により削除されました。
○定かではないが、兵器類に関するアップデート閲覧権を持つ契機となった。*要出典
○正式開発終了と同時にサンタマリア内の兵器カタログにアップされるため、トワイライト・ブルーのその汎用性の高さに騒然となり、さらに技術開示により、発動機開発競争がここから始まった。
《大電脳遊戯事典 サンタマリアの空/発明品一覧より》