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例えばこんなラブソング  作者: 緑野菜
1/1

100人の恋

血の涙を流しています。

一恋

【雪だるま】

「年末年始はそっちに帰るから」

彼から送られてきた真っ白な箱と一通の手紙。

相変わらずのひどい字ではあったが彼の明るさが滲み出るような躍動感。

彼が元気でいるということだけは簡単に想像がついた。

とても短いように感じた三年だったが、彼との遠距離恋愛が始まってすでに三回目のクリスマスだと思うと途方もなく長いようにも思えた。


「俺、4月から青森に転勤になっちゃった」

何気ない日常会話の中で飛び出した一言。

彼はいつも通り私の作った料理を胃に運んでいるところだった。

沖縄県に住む私にとって、同じ日本とは言っても青森なんて想像がつく場所ではない。

むしろ東京より上の場所は外国のように感じられたし、実際に「まだ中国に行ってくれた方がマシだったのでは」とも思ったくらいだ。


結局その時の私は、

「大丈夫、すぐ帰ってくるから」

と言いながら優しく頭を撫でる彼の言葉を信じることしかできなかった。

ついていくという選択も当時の私にはなかったのだ。


それから暑い夏が過ぎ、残暑の秋を超え、沖縄にも冬がやってきた。

青森にいる彼は、毎日のように気温計の指すマイナス表示の気温を写真付きで私に報告してきた。

最初は私も「すごい!寒い!体に気をつけて!」と言っていたが最後の方は「今日も寒いんだね」と次第に反応も薄くなっていった。

思えばその頃からだんだんと思いも冷たくなっていっていたのかもしれない。


そんな彼との遠距離恋愛が始まって最初の年のクリスマス。

彼からクリスマスプレゼントが届いた。

真っ白な箱にはたくさんの保冷剤が詰め込まれていてその上にぽつんと不恰好な「雪だるま」が入っていた。

彼に電話すると彼は無邪気な声で

「雪見たことないでしょ!これが雪だるまだよ!」

とはしゃいでいた。

なぜかはわからないけど、冷たいはずの雪だるまは見たこともない東北の景色を私に見せてくれるような気がしたし、「雪ってあったかいんだ」と思わせる暖かみを感じることができた。


二年目のクリスマス。

今度は不格好だった雪だるまに顔ができていた。

細い木の枝で作った腕、木炭でできた目、口には真っ赤な毛糸が当てられていた。

「またか」と思いながらも、一生懸命に作る彼の姿を想像するとなんだかおかしくなって笑みがこぼれた。


そして今日が3度目のクリスマス。

半年に一度しか返ってこない彼との3度目のクリスマスだ。

松任谷由実の「恋人はサンタクロース」ではないけれど、ま今年のクリスマスは帰ってきてくれるんじゃないか」と

いう私の期待は見事に裏切られた。


「もうダメかもしれないね。」

そう言って箱に入っていた二つの雪だるまの一つを指でつつく。

今年の「雪だるま」は二つ。

きっと彼のことだ、私と彼が寄り添う姿を思い浮かべたのだろう。

真っ赤な毛糸で作られた一本のマフラーを一緒に首にかけている雪だるまは、決して離れないように固く結ばれていた。

「雪はどうせ溶けるのにね」

返事のない雪だるまに私は話しかけた。


職場の同僚からは何度も別れをすすめられてきた。

私のことを好きだと言ってくれる男性もいた。

それでも私は彼が好きだった。

耐えられなかったのは先の見えない二人の関係だ。

辛い恋愛はもうしたくなかった。


私は現実に負けて彼との別れを決意した。

踏ん切りをつけるためにタイミングを待っていただけかもしれないが、この雪だるまが溶けたら彼に別れを告げようそう決め、泡盛を一気に三杯飲み干してベッドに横になった。


翌日の寝起きは最悪だった、泣きはらした瞼が重い。

頭を抱えて水を飲み干し、意を決して雪だるまに目を向けた。


そこには透明な水になった雪だるまと、赤い糸。

赤い糸の中心には水よりも輝くダイヤの指輪が輝いていた。

発泡スチロールの奥には手彫りの下手くそな字で

「結婚しよう」の5文字。


小学一年生になる娘、雪かきにようやく慣れてきた旦那、そして雪が大好きになった私。

今年のクリスマスも私は大きな雪だるまを3つ青森で作る予定だ。

固く結ばれた赤い毛糸のマフラーを首にかけて。


fin

血便になりました

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