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第三話 ラスト    転生置換

 SAN666便は空港ターミナルビルに向かって、真っ直ぐに向かっていた。もう衝突までわずかな時間だ。

 機長が達夫の剣をかざして、副操縦士が操縦席に近づくのを邪魔立てしている。

 達夫は既に解放されていた。墜落寸前では達夫など構っていられないということだ。

 そのような中、「機長、落ち着いてください」副操縦士が必死の説得をしていた。

 だが、その後に達夫が、「駄目だ、奴に何を言っても。完全にサタンが乗り移っているんだから」と、諦め気味に伝える。

 それを聞いた副操縦士は、「君は何を言っているんだ。そんなこと、ある訳ないだろう」見知らぬ男の言う話など信じるはずもなく、即否定して、「機長、あなたは自分が何をしてるのか分かっていますか。乗客もいるんですよ。全員死なせるつもりですか」さらに一心不乱に説得し続けた。

 そうする内にも、異常な飛行音と振動音が益々酷くなり、真っ直ぐ立つのも難しい状態だ。しかも地上が迫っている。このままでは助からない!

 その時、達夫が意を決した! 恭子の言ったことを踏まえて、

「おい、サタン、この世ではその剣を使っても僕を傷つけられない訳だよな」と鼓舞して捨て身の覚悟で機長に近づいていったのだ。

 その行動に副操縦士も気づいた様子で「君、止めろ、近づくんじゃない」と制する。

 しかしそれは、達夫にとって余計な忠告だった。

 即座に機長の怒号が飛んだ。

「来るな。お前は来るな!」加えて素早く剣を突き出した。

 それでも、達夫は気にも留めず、ゆっくり一歩一歩詰め寄る。

 機長の方は、忠告を無視されたことで怒り? を表して、「きさまー」気が違ったみたいに剣を振り回し暴れ始めた。

 その場は鳴り止まない警告音、ターミナルビルもすぐそこにまで接近している!

――と、「危ない!?」剣先が達夫を掠った! それを副操縦士が注意した、その一瞬、機体がエアーポケットに入り大きく揺れ、その振動で機長の方も堪えきれず体勢を崩した。

 そこに達夫が、この時ばかりと機長に組みついた。両手で剣をつかんだかと思いきや、体重をかけて機長にし掛かったのだ! そして同時に「早く、機首を戻して!」副操縦士に向かって叫んだ。

 それを受け、副操縦士は急いで操縦席に駆け寄り、スロットルを力一杯引き上げた。その手は必死の強力で震えているー。

 機体はちょうどターミナルビルの真上だ。激突するのに高さ数十メートルしか離れていない。機体のさらなる揺動音と、それに伴う激しい揺れ、きしむコックピット! 間に合うか……

 副操縦士の、震動するレバーを一心に抑える姿が見えたー。

 すると、どうにか落ちる速度も、徐々に減速しだしたか? それでも機体は物凄い重力がかかり、揚力との狭間はざまで制御しきれていない。まだまだギリギリの攻防だ!

 なおもこの時、予想外な展開が起こった! 機長の様子がおかしい? 影が現れ、サタンの気配が感じられる……達夫に押さえつけられながらも、この世に出現しようとしているのか? たぶん不利だと察し、今度は副操縦士に乗り移る気だ。

 ただでさえ、副操縦士は機体を立て直そうと全身全霊を傾けて操作しているのに、この場でサタンに精神を奪われたら、間違いなく墜落だ! しかも機体の方はより高度が下がり、ビルまで残り数メートル、きわどいところを滑空している。いつ機体の底が屋上に衝突するかも分からない。

 そのため、ここで達夫が決起した。副操縦士を護るため、機長を一旦解放し剣を奪い取ったのだ。

 そして現れた影に向かって一太刀を……、ついに奴を消滅させられると!

 が、「うっ!」何? 達夫は苦しさの余り思わず剣を落とした。あっという間に首を持ち上げられ宙吊りの状態になっていたー!

 まさかの攻撃? それは、拘束を解かれた機長が、その両腕で達夫の首を絞め上げたせいだ。

 仕舞った! 全て罠だったのかー。サタンは機長に憑依したままで、ただ影という餌を使い、彼の注意をそちらに向けさせた訳か。

 そうとは知らず、まんまと奴の策にはまってしまった。

 さらに機体の方はと窺えば? 副操縦士の努力の甲斐もなく、地上は目前、衝突寸前だ!

 ふっと、サタンが言った。

「いつまでも小賢こざかしい奴め」

 その直後、飛行機は、――達夫は体がぶれて、異様な風景を見る――、墜落していたー!


――最強の爆発音が轟き、衝撃波が空間を突き抜けた! 荒れ狂う巨大炎が吹き上がっり、四方が地獄の烈火で飲みこまれ、膨大な黒煙が天を埋め尽くす。まさに、この世の終わりとおぼせし嘆きが暗夜に木霊こだました――

 最悪の惨事! 滑走路に墜落したのだ。何とかビルを掠め飛んだ後の結末として……  


「ふぁ、ふぁ、ふぁ、ふぁ」サタンの笑い声が地響きのように聞こえた。右腕に男を吊り上げて、ゴツゴツとした岩場に仁王立ちしている。

 この地はどこだ? おどろおどろしい空の景、中央に円錐形の山、周りは漆黒の海、やはりあの島だ。島に戻っていた。

 ただし、他に誰の姿も見えない。現世とは少し異なる容姿となった達夫? とサタンだけがその場にいた。

「お、降ろせ、お前は僕を傷つけられないだろうが!」彼は、首を押さえられ宙吊りのまま抵抗して言った。

 その声を聞くなり、「本当にうとましい小僧だ」怒涛のごとく言い捨てたサタン。加えてサタンの左腕には、奴にとっては幸運だが、達夫には最悪の事態を招くであろう、あの神剣が光り輝いていた。それも、切っ先を彼に向けて今にも突き刺そうとしていた。

「ふぁ、ふぁ、お前とも、もう終わりだ。わしに神剣を渡してはなー」

 だが彼の方は、何の危機感もなかった。ただ茫然自失に、「そ、その剣が何だというんだ」と訊いていたのだ……?

 すると、「よく聞け小僧、知らないのなら教えてやるわ。この剣は全宇宙の森羅万象、全ての物を切り刻めるパワーを秘めている。お前の魂など、一溜まりもないわー。わしができぬとも、この剣の刃先がお前の魂を串刺しにし、貫き取ってくれるわー」とサタンが叫んだ。と同時に、今までの達夫の振る舞いに痺れを切らしていたか、ついに、彼の胸を……「ぐっう!」突き刺した!

 何ということ!? 剣を刺されて、彼は苦しそうな表情でもがき始める。

 次に、サタンは有無も言わせず彼の魂を刃先に突き立て、引き抜いた!……何の抵抗も、彼はできないまま。元より、1人の人間ならばすることさえ不可能、無力な存在にちがいなかった。

 彼は容易に魂を抜き採られ、魂のない体が、サタンの手から布切れみたいに垂れ下がっていた。

 とうとう息を引き取ったか! 達夫の精魂自体が、この世から消されたのだ……?

「ふぁ、ふぁ、ふぁ、どうじゃ、わしの勝ちじゃわ」サタンは笑いつつ、彼の体を投げ捨てた。堂々と力強い様相で確りと立って。

 全てサタンの思惑通りになってしまった。剣に突き刺さる魂、足元には無残に横たわる体、奴はそれらを悠然と眺めている。悪魔が魔界に君臨した時だった。

 が、暫くすると「何故じゃ?」突然、サタンが疑念の面相で不審がる。彼の死体? を見て、何かを感じた。「何故、小僧の体が消えん?」と言うなり、今度は徐に剣先を見た。……付いていない。突き刺さっているはず魂が、消えている。 

 魔物は微動だにせず佇んだ。

 次の瞬間、達夫の屍と思えしものがスーと立ち上がった! これは生きて? 否、違う。明らかにその容姿は変化して――全く捉えどころがない、蜃気楼のような光のベールに包まれた別の姿が、それも圧倒的な存在感を持って、対峙していた!

 その形姿を見た途端、サタンは、「お、お前は!」その存在を知っているかのような驚きを見せ「い、何時いつここに?」と、恐れさえ抱いている様子。

 対して達夫に扮する光の者は、天から突き抜ける声で答えた。

「サタンよ、私は常に全ての地に存在し、そして恒久に秩序を保とうとしているのだ」

 それを聞いては、己の行為を罪業とみなしているのか、急いで反論するサタン。

「わしは知らん、すべて人間のせいじゃ、わしは何もしていないわ」

 ところが、「嘘をつくな、今、転生する魂を消し去ろうとしたではないか。島に来たのが私だとも気づかず。よいか、転生を止めようとしたことは重大な大罪、それを犯すモノは私が許さない」と怒りを表し非難した。

 流石にそれには、もう言い逃れできないと踏んだみたいで、「う、うるさい、わしの世界で何をしようと指図は受けないわ。こうなればお前など、この場から消し去ってやる」と、今度は強気の乱心に変貌していた。

 サタンは頭を振り回し、物凄い権幕で、己一身に強大な力を集めるために島のエネルギーを吸い取りだした。

 すぐに、岩、空、海水、あらゆる物体が原子に分解され、その核結合パワーが巨大タイフーンとなり、サタンの背後に渦巻き漂って来る。 四方八方から暗黒の塵煙、イカズチ、途切れることなく現れる発光、その現象が周り全ての空間を覆い尽くしていた。

 もうその場はこの世の景ではない。空間が歪み、時が交差し、漆黒の魔界の誕生だった。

 そこに、サタンが吸い取った持てる限りの全パワーを、光の者に向けて――打ち放った!

 その膨大な魔エネルギーが、光の者に直撃する寸前、「愚かな、何億年か経つと忘れおって。貴様の主が誰なのか。サタン、身のほどを知れ」目をこう々と光らせて、静かに光の者が呟いた。

 その直後、恐ろしいほどのエネルギーが光の者を包みこんだ。そのまま魔力で飲みこまれ、身動きできなくなり、光が魔界の中へ落ちていく!……ありとあらゆる物が暗黒に支配されたのだ。

 誰であろうとも、魔に逆らえない世界がここにあった!


 一時が過ぎた――

 何もかも、終わったかのような静寂に満たされて。

 ところが突如、その中で新たな空間が光速で湧き上がった! 否、……そうではない。次元自体が変わっていたのだ。次元が上がって静穏な外宇宙に到達していた。

 すると、さっきまでの世界はどこに? 何と、小さな球となって存在しているではないか!? つまり、魔との争いごとは球の中での出来事、魔が支配しているちっぽけな小宇宙での話だった訳か。

 しかも、その球が今、手? の中に握られている。

 その手のぬし……と見れば、確りとした実体、圧倒的な存在感を持っている者が、鎮座していた。

 そして突然、その者は意図も簡単に小さな球を捻り潰した!

 球は砕けてすぐに塵となり呆気なく消滅する。

 本当に呆気なく、――消えたのだ。

 次に、何のわだかまりもなく崇高な声を響き渡らせ、

「サタンは葬った。次はデーモンに任せよう。恭子はおるか?」と語る。

 そこに、かしずくように膝を突いて、こうべを垂れる女が出現。

「はい、お側にいます」

「一度恭子となり、なおも新たな未来を得る者よ、達夫はどうなった」

「達夫さんたちは、既に転生の準備に入りました。ただ、乗員全て審判を受けることになってよろしかったのでしょうか?」

「そうだ。それが彼らの宿命なのだ。抗えないのだよ」

「御意に」女はうつむいたまま、控えている。同時に、1つの魂を掌に感じ始めてもいた。

「さあ、他愛のないことがまた終わった。では――」その声が轟くと、後は静けさだけが残った。

 その場所は光が溢れ、晴れ晴れとした空間、下には白雲海が広がり、支柱が等間隔に並んでいる。

 ふっと上空を見上げたら、何か同形の物が無数に列なって浮いていた。……あれは、先ほど潰したのと同じ、小さな球。それが無限の大宇宙に比例して存在していた。

 その時、それらの1つが、唐突に白く輝き始めた。中を覗くと、途端に次元が落ちて球の内部へ入ってしまった。そこでは、小宇宙の空間に眩く天界が見える。加えて、数十体あまりの魂がその天に向かって一心に突き進んでいた。されど、これは異例の行動!

 ちょうど、真下にも誰かが? 微笑みながら見送る人影、段々姿が薄れている、その顔に見覚えがあった。

 そう、それはまさしく――達夫。


「ねーねーおかあさん、キョウコのねー、おしごとがおわったんだよ」

「えー、そうなの、何のお仕事?」

「それはねー、おじちゃんをたすけるおしごとかな? でもねー、ちょっとずるしちゃたのー」

「へー、何したの?」

「うーんとー、ほんとはいけないんだけどー、みんなおそらにとんでっちゃった。それでねー、おにいちゃんには、ケンちゃんの‘アニミャ’あげたの」

「そう、お友だちのアニメをあげたんだ。おじちゃん怒らなかった?」

「うん、いいよーて。だってキョウコ、ひだりがわなんだって。だからまたおしごとたのむからねーて、おじちゃんがいってた。でも、ずーとずーとまえのことなのー。キョウコがうまれるずーとまえのおはなし、なんだ!」

  …………………………


――そしてさかのぼること、飛行機が墜落した直後の空港では――

 まだその場から黒煙が立ち昇り、救急隊や消防士たちが右往左往していた。そして大勢の野次馬が、無残に砕け散った原形すら分からない機体を遠巻きにして、消火活動の様子をつぶさに見ている。

 しかも既にテレビ中継車が滑走路近くに陣取り、カメラマンがその悲惨な光景を映し取る。

 程なくしてからレポーターの登場か、徐に話し始めた。

「えーこちら、報道部の山本です。テレビを御覧の皆様。今、墜落事故の現場、成田空港に来ています。事故の状況が刻々と分かって参りました! えー全員、死亡……あっ、少々、お待ちください。1台の救急車が到着しました! 情報が錯綜さくそうしています? えっ!? まさか! 誰かが……、奇跡的……、何と!……、していると、判明しましたっ!」

 

‘アニマとはラテン語で魂を表す単語である’


    終わり


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