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第二話 その一 既視――もう一度同じ出来事が……迫り来る魔に慄く人々、ただし事情を知っているのは?

      第二話 

      1 既視


――それはある日の夜、幼い少女と母親が夜空の星の下、帰宅を急いでいた――

「ねえねえ、おかあさん、ごはんをうーんとたべて、いっぱいねんねして、おっきくなったら、みんなしんじゃうのー?」

「ええっ! きょうこちゃん、何? ああ、昨日恐い夢を見たんだあ」

「ううーん、ちがうよ。こわくないの。おじちゃんがそういってた」

「そうなんだ。夢でおじちゃんに会ったの。何て言ってた?」

「みんなしんじゃったら、べつのものにうまれかわるか、ちのそこにいくかのどっちかだって」

「へえー、よく知ってるのね! 驚いたわ……」

「うん、それでねえ、みんながねえ、べつのものになってもいいよーて、おもってからかわるんだって。いやっていったら、いけないんだよう。でもねえ、ないしょだよ。ずるしたら、あんらくのてんじょうへもいけるんだって」

「ふーん、きょうこちゃん詳しいのね! 全部おじちゃんに聞いたの? そう、……おじちゃんて、どんな人だった?」

「それはねえ」

  …………………………


 13時15分、SAN666便、成田発が無事離陸した。

 だが、15時32分、突然、機体に大きな破壊音が数回して、飛行機が墜落していた!


「うー!……どうなったんだ?」霧のように舞い上がった砂煙の中、達夫は気がついた。

 そこに、「助けて! 誰か、助けてください!」とどこかで人の声が聞こえる。

「他にも、生存者がいるのか」達夫はそう思いゆっくりと辺りを見回したところ、彼の周りには、友也、健太、由美、雅子がいた。しかもそれだけでなく、他にも約100名の人々が生き延びていた。

 ただ、物凄い瓦礫と火の手で、状況は言葉に表せないほど悲惨そのものだった。

 そんな中、人々の姿を垣間見た達夫は、少々違和感を覚えていた。  

「もっと多くの乗客がいたはず、他の人たちは?」と独り言を呟く。人数が少ない気がしたのだ。

 そのためもう一度、じっくりと周囲を眺めてみた……

 が、その時、「うっ!」突然、衝撃が走った! フラッシュバックのように映像が目の前を駆け巡り、立っているのもままならない、バランスを崩し倒れそうになる。

「おい、大丈夫か?」ところが、偶然側にいた友也が達夫の腕を支えてくれた。それでどうにか踏みとどまれ、

「ああ、ありがとう、友也君」と達夫は彼の顔を見て感謝を伝える……も、友也の方はまるで知らない男を見る目つきだ。

「何で俺の名を? 君に会ったことがあるかい?」と次に彼は、不審そうに問いかけてきた。

 達夫はその声に戸惑いつつも、「いやだなあ、はははっ、前の墜落で会ったじゃ……」と笑った瞬間、何かが頭の中で弾けた! 全身に稲妻が流れたような……

 そして唐突に、前回の記憶が、彼の脳に蘇っていたのだ! そう、何もかも完全に思い出していた。

 達夫は、ショックで唖然とし、

「そうだ! そうだよ、大変なことが起こったんだ!……輪廻転生だ!? 輪廻転生と無が起こる!」と震えながら叫んでいた。

 達夫の突如の既視感きしかん、予想もしない現象が起こってしまった。

 ただし、そんな達夫に周りの人々は意味が分かる訳もなく、聞き流しているようだ。例え聞いても、相手にするほどの余裕さえないのか、ただただ自分の身の上を案じるばかりで変な男を気にも留めないでいた。

 それでも達夫は恐ろしい出来事を皆に知ってもらいたくて、無我夢中で友也たちに訴えだした。

 由美を指差し、「あなたも、知っている」と言った。だが、由美の方は泣くのとともに怪訝な顔を見せるのみ。

 次に、健太に向かって、「君もだ」と。健太はぴくりともしない。

 さらに、他の人たちに対しても、

「知っている、あなた方を知っている!」声を上げて、両手を振るとともにウロウロと歩き回って言った。

 その異質な様子に釣られてか、遠目で見ていた人たちも興味本位に集まりだした。

 途端に、彼らに向かって達夫は大声で叫んでいた。

「皆、聞いてくれ! これから大変なことが起こるんだ」

 けれど人々は無反応。元より誰も事情が分からず、ただ見ているだけだった。

 友也だけが、「おいおい、大惨事は既に起こっているが」と逸早く反応して素っ気なく指摘する。 

 それには、達夫の反論が待っていた。

「そうじゃない! これから起こることを言っているんだ。何故だか判断できないが、僕はこれから起こることを知っているんだ!」と。

 すると友也は、再度の呆れ顔を見せて言った。

「何なんだ、君は! こんな大変な時に。事故で頭でも打ったのか?」こいつかなりきてると言わんばかりに、一喝するも、

「違う! 皆、いいや半数が危険だ。区別は難しい。だけど、逃げるんだ。ここからすぐに!」となおも達夫は主張するのだった。

 だが、そのやり取りを見ていた人々は、達夫の懇親の説得もほぼ錯乱状態の男が喚いているとしか理解していない模様。それも当然か、知らない男がこの場から逃げろと言っても誰が信じるというのだ。

 皆はその言葉を聞いたのを最後に、達夫に興味がなくなったみたいだ。もう誰も達夫の言うことなんか信じる者などいない。そのまま達夫から離れようとした。

 対して達夫は、それでも諦めず必死で引き止めた。

「本当なんだ、本当なんだよ!? 待て、待ってくれ、待てよ!」手を上下左右としきりに振り、友也たちをなだめて執拗に言ったが、……到底無駄だった。

 達夫は困惑した。

「駄目だ、こんなことを言っても誰も信じてくれるはずがない、どうしよう?……」そう思案しつつも、別の心配事がふっと頭に浮かんだ。

「でも 早くしないと、奴が来る!」そうだ、時間がなかったのだ。何故なら奴は、今回こそ6人を逃がさないために、以前より早く来るだろうと予想できたからだ。

 達夫は焦り、そして懸命に考えた。

「あの時、奴が何故失敗して、もう一度同じことが起こっているのか?」

 不意に健太の生気のある顔を目にする。

「そうか! 健太君たちが原因かも。彼らはエーリュシオンに行ったんだから。……よし」と言って、ただちに健太に詰め寄り、「健太君、君は探検したいと思っているよね」と訊いた。

 健太は、図星だという顔で答える。

「ああっ、そうだね」

 その後、達夫は辺りを見回し、残りの5人を探そうと顔を上げて大きく伸びをした。

 体がどっしりした中年男、学生風の男、かなり年配の男、この3人を見つけ、三十代前半のパンツを穿いた女も確認した。

 それから、最後のスカート姿の女性は、……見つけたと思ったら、

「んっ、彼女、服装は全く同じなのに?」そこにいた女に、達夫は見覚えがなかった、初めて見る顔だ。しかも美人だった。

「あれっ? 前の女性、あんな人だったか?」と思いを巡らし、その女を見つめていると、つい目が合った。

 途端に女が、ツカツカと近づいてきて唐突に言った。

「西田恭子と言います。あなたの今の話を聞いていました。私も島を探検したいと思っていたんです」と。

 達夫は戸惑いながらも、「でも、君は……」と言いかけて彼女の顔を間近で見た時、何故か達夫はこの女性が本当に信頼できると直感した。誰なのか見当もつかないのに不思議なくらい、信用できると思ったのだ。

「よし分かった。君も来てくれ」取りあえず承諾するしかない。達夫は彼らと話すため、早々に説得して6人を集めることにした。

「すみません。少し話を聞きたいんです」

 中年男が口火を切った。

「わしは山本と言う、ただの会社員だが」

「俺は健太だ。とび職をやっている」

「僕は井上です。まだ学生なんです」

………………

 達夫は、6人の素性は大体聞きだしたが、これといった手応えを得たれなかった。自身の予想が当たっていないと感じだす。

「どうする? もう時間がないぞ! 時間が……」と途方に暮れた。

 その時、「おい、見ろ! あれを?」1人の男が何かを指差して言った。

 とうとう来たか……! 達夫は男の声を聞いて寒気が走った。

 それでも、何とかしようと反射的に叫んでいた。

「皆、逃げろ!」

 さらにもう一度、懇親の力を込めて、

「逃げろー、逃げるんだ!?」と大声で警告していた。それは只ならぬ形相だったに違いない。友也たちは達夫の顔を見て驚いているみたいだ。

「な、何だ?」そのため達夫に対して噛みつくような目で、全員が注目した。続いて男が指差した方向を見て、息を呑んで尋ねてきた。

「何が来る!?」

 達夫は、脚を小刻みに震わせ答える。

「サタンだ! サタンだー」と。

 それを聞いては、友也たちもさらに達夫の顔を真剣な眼差しで覗き込んだ。そして嘘ではないと感じたか、周囲を胡散うさん臭そうに眺めて訊いた。

「いったい、ここはどこなんだ?」

「たぶん、ここは地獄の入り口!」達夫は恐怖心を堪えて、ボソッと口に出す。

「まさか……、じょ、冗談だろ……?」友也たち全員が、当然ながら驚愕の表情に変わった。

「冗談ならどんなに良いか!」達夫の返答が続く。

 皆は、遠くから得体の知れない者が近づいてきたことで漸く恐怖心が生まれ、それとともに、忍び寄る魔物の異様な空気をも感じ取ったみたいだ。

「俺たち、死んじまっていたのかー!?」そこに、悲壮感漂う声が聞こえてきた。

 雅子も、「だから誰も怪我をしていなかったのね」と納得したように言った。

 達夫は1点だけを凝視して、心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、

「いや、これから運命を変えれば……」そして自分を信じ、ゆっくりとした声で答えた。「帰れるさ。魂を守れさえすれば!」

 確信はなかったが、予感はした。


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